海洋研究開発機構(JAMSTEC)の海底広域研究船「かいめい」による深海調査で、これまでハワイ諸島の深海域から数個体の採取例があるのみだったアカグツ科の希少魚類「Solocisquama erythrina」を、沖縄県・南大東島の海底斜面で1個体発見・採集。標準和名「シマグツ」を提唱したことを、琉球大学が8月6日に発表した。

  • 日本初記録となったアカグツ科の深海魚「シマグツ」。これまでは、ハワイ諸島の深海域から数個体の採取例があるのみだった (出所:琉球大Webサイト)

    日本初記録となったアカグツ科の深海魚「シマグツ」。これまでは、ハワイ諸島の深海域から数個体の採取例があるのみだった (出所:琉球大Webサイト)

2025年7月から8月にかけて実施された深海調査の成果で、琉球大 理学部の佐藤真央 産学官連携研究員、琉球大大学院 理工学研究科の阿部公哉大学院生、琉球大 理学部の小枝圭太助教を中心に、JAMSTEC、FullDepth、いであ、新江ノ島水族館の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、日本動物分類学会が刊行する、動物の分類・系統・進化・生物地理などを扱う英文オープンアクセスジャーナル「Species Diversity」に掲載された。

  • (a)南大東島沖・水深760mの急峻な海底で発見されたシマグツの水中画像。黄色の矢印は発見されたシマグツの位置。(b)その拡大画像。CC BY 4.0に基づき論文より引用された (出所:琉球大Webサイト)

    (a)南大東島沖・水深760mの急峻な海底で発見されたシマグツの水中画像。黄色の矢印は発見されたシマグツの位置。(b)その拡大画像。CC BY 4.0に基づき論文より引用された (出所:琉球大Webサイト)

南大東島は、沖縄本島から東に約360km離れた太平洋にある火山とサンゴでできた島である。現在の位置よりも遙か南方で海底火山の噴火により誕生し、プレートテクトニクスにより長い時間をかけて移動してきたと考えられている。火山活動が停止すると島は沈み始めたが、継続的に造礁サンゴが固着・堆積することで、現在では石灰岩(炭酸塩岩)を主体とする地質の海洋島として存在している。

石灰岩地帯は雨水や地下水などによって溶解・浸食されやすいため、南北の大東島の陸域には、多数の洞窟を含む溶食地形(カルスト地形)が存在する。陸上のみならず、現在は深海に沈んでいる島の基部にも洞窟を含むカルスト地形が存在し、そこには独特な生物相が生じていると予想されるものの、その実態は未解明だった。

そこで共同研究チームは、笹川平和財団による研究助成プログラム「オーシャンショット」採択課題であるプロジェクト「D-ARK」として、2024・2025年に大東諸島周辺において深海調査を実施。その成果の1つとして、無人探査機(ROV)を用いた海底観察により、水深約300〜400mの島の壁面に大小の深海洞窟を含む複雑な侵食地形が実在することが明らかにされた。

そして、この深海洞窟の内外からは、新種の無脊椎動物として「ダイトウヒメクマノアシツキ」や「ダイトウキノボリヒモムシ」、「ウフアガリアカサンゴスナギンチャク」が発見されたほか、日本初記録となる魚類として「ホラアナヒスイヤセムツ」と「キサンゴカサゴ」が発見されたのである。

さらに2025年7月には、無人探査機「クラムボン」を用いた南大東島北沖の海底調査が実施された。その際、水深760mの急峻な海底において、これまで日本近海から記録のなかったアンコウ目アカグツ科イガフウリュウウオ属の魚類「Solocisquama erythrina」が1個体発見・採集されたという。

同種は、体表全面に固い鱗を持ち、それぞれの鱗には先端が3〜4叉に分かれた棘が1本あること、および体色が薄い赤色であることなどを特徴とする。これまで、ハワイ諸島周辺の水深622〜872mの深海から少数個体が採集されたことがあるのみの希少種であり、同諸島周辺海域にのみ分布する固有種と考えられてきた。しかし今回の発見で、遠く離れた南大東島にも生息することが明らかになった。

  • 今回の研究で日本初記録となったシマグツの標本画像。側面(a)、背面(b)、正面(c)。CC BY 4.0に基づき論文より改変・引用された (出所:琉球大Webサイト)

    今回の研究で日本初記録となったシマグツの標本画像。側面(a)、背面(b)、正面(c)。CC BY 4.0に基づき論文より改変・引用された (出所:琉球大Webサイト)

なお、2024年の「D-ARK」調査航海では、従来ハワイ諸島でしか発見例のなかったヤセムツ科の魚類「ホラアナヒスイヤセムツ」が、大東諸島の深海域に多数生息していることが確認されていた。今回のSolocisquama erythrinaの発見は、大東諸島の深海には中央太平洋の海洋島と共通した種が生息していることを補強する成果といえるとした。

アカグツ科の魚類は一般的に、砂や泥が堆積する大陸棚やその斜面に生息していることが知られている。しかし、南大東島でのSolocisquama erythrinaの生息水深帯(622〜872m)の大半は急峻な岩場だ。今回の研究では、その隙間にわずかに砂が溜まっている地点において同種が発見されたことから、岩場の中に存在する狭い砂底環境を利用、あるいは選好している可能性が示唆された。この分布・生息環境についての知見は、大東諸島を含む北西太平洋の海洋島における深海魚類相やその成因を考える上で重要とされた。

また、Solocisquama erythrinaには、まだ標準和名がなかったことから、「島に棲むアカグツ科の魚類」という意味を込めた「シマグツ」が提唱された。なお、アカグツ科の「グツ」はヒキガエルを指す地方名に由来すると考えられている。

「D-ARK」プロジェクトにおいて、大東諸島から新種や日本初記録種が相次いで発見されていることは、これまでいかに国内の海洋島や深海カルスト地形における生物相に関する知見が限られていたかということの裏返しともいえるとする。研究チームは今後も、深海洞窟のさらに深部へと踏み込む調査を計画しており、洞窟内からさらなる新種・未記録種の発見が期待されるとした。また、洞窟の内外の生物相調査を続けることで、大東諸島と中央太平洋の島々との間における魚類相上の関係がさらに明確になる可能性があるとしている。