世界最大級のコンピュータサイエンス系学会ACM(Association for Computing Machinery)の専門誌に「Eight Myths on Software Engineering and GenAI」(ソフトウェアエンジニアリングとGenAIに関する8つの誤解 )と題した記事が今年の5月に掲載されているが、これに対する賛否がHackerNewsで繰り広げられている。
生成AIとソフトウェアエンジニアリングにおける8神話とは
SPACEフレームワーク(開発者の生産性を満足度/パフォーマンス/活動量/コミュニケーション/効率性)で評価)共同開発するビクトリア大学(カナダ)教授Margaret-Anne Storey氏、エンジニアリング組織における開発者の生産性とウェルビーイングを研究するMicrosoftの主席応用研究科学者Jenna Butler氏をはじめとした同社のAI研究者や開発者たちが検証するのは、ソフトウェアエンジニアリングと生成AIにおける8つの神話だ。
自然言語で動作するコードを次々に作り出せるAIの進化が生むインパクトは大きいものだが、神話や誤解がしばしば増幅されるとして、ソフトウェアエンジニアリングにおけるAIの8つの神話を検証している。これらの誇張は、マーケティング上の主張や逸話的な成功事例によって広がることがあるが、組織がAIを導入、測定、投資するについて十分な情報に基づいて意思決定できるようにすることが目的だと述べる。
Myth 1: Developers Spend Most of Their Time Writing Code((開発者は時間のほとんどをコードを書くことに費やす )
Myth 2: Writing Code Is the Bottleneck(コードを書くことがボトルネックである )
Myth 3: Lines of Code Written by AI Is the Best Measure of Impact(AIが書いたコードの行数が影響を測る最良指標である )
Myth 4: AI Helps All Tasks and Engineers Equally(AIはすべての業務とエンジニアを平等に支援する )
Myth 5: AI Will Turn Individual Developers into 10x Developers(神話5:AIは個々の開発者を10倍の生産性を持つ開発者に変える )
Myth 6: It’s Up to Each Developer to Make AI Work(AIを機能させるのは各開発者の責任である )
Myth 7: High-Performing AI Tools Will Be Adopted Automatically(高性能なAIツールは自動的に導入される )
Myth 8: With GenAI, Enterprises Can Innovate at Startup Speed(生成AIを使うと、大企業はスタートアップのような速さで新しいアイデアや製品を形にできる)
たとえば最初の「Myth 1: Developers Spend Most of Their Time Writing Code」は、開発者は時間のほとんどをコードを書くことに費やすという神話。2025年にMicrosoftの450人以上のエンジニアを対象に行われた調査では開発者が費やすコードを書く時間は14%。実際のソフトウェアエンジニアリングでは、会議や計画立案、コードレビューなど他の時間が多くを占め、ほとんどをコードを書くことに費やすことは少ない。つまり、仮にAIがコードを生成したと言っても、ソフトウェアエンジニアリング全体を見れば、その程度の割合にしかすぎないということになる。こちらから閲覧できる。
Myth 2Writing Code Is the Bottleneckには、"コード生成ツールとして使用することは個人にとっては役立つものの、ソフトウェアを迅速にリリースするための最適な方法とは必ずしも言えない" "IDEでコードを書く「内側のループ」には対処できるが、開発「外側のループ」はほとんど変わらない"と端的な言葉もある。動くだけのコードは作り出しやすくなるので特定のタスクを加速させる可能性があるが、"安全で保守しやすく高品質なソフトウェアを構築する"ことを目標にすべきソフトウェアエンジニアリングという世界では、より慎重にものごとを進めていかないといけないという主旨だが、数十の研究結果等の注釈を用いて、神話に反証している。
これに対して、スタートアップ系が多く集うHackerNewsでは、進化のスピードが速いAIの世界で2025年のデータを使うのは古い、データベースを含むPythonアプリ全体をバイブコーディングで開発したという意見や監視や助言、軌道修正を行い、必要以上のコードや複雑さを抱え込まないようにするという根本的な問題は変わらないとする保守・サポートが必要な複雑なシステムに携わっているユーザーの意見など賛否両論が飛び交う。
当然、先の記事も生成AIを否定しているわけではなく、総じて環境や状況に応じた使い方があることを示しているが、Myth 8: With GenAI, Enterprises Can Innovate at Startup Speed(生成AIを使うと、大企業はスタートアップのような速さで新しいアイデアや製品を形にできる)への反証にある、エンタープライズ企業は、大規模な運用においてのみ適用されるコンプライアンスやセキュリティ、プライバシーなどの規制要件の下で運営されている。後方互換性を維持し、数千もの社内システムやサードパーティツールとシームレスに統合する必要があるためスタートアップと同じ条件下で事業を行っているわけではないというのも、Microsoftの研究者たちが多く参加する記事だけに説得力もあるが、スタートアップを目指すユーザーが多く集う同サイトでは、それを覆してやりたいという熱意も見える白熱した議論となっている。
