アクセンチュアは8月7日、都内で「フロンティアAIがもたらしたサイバー攻撃の構造変化 - 日本企業は『防御中心』から脱却できるのか」と題し、メディア向けに説明会を開催した。アクセンチュア 執行役員 サイバーセキュリティ 日本統括の藤井大翼氏が説明に立った。
フロンティアAIでサイバー攻撃は「量」と「速度」の時代へ
近年、Anthropicの「Claude Mythos」やOpenAIの「GPT-5.5 Cyber」などに代表されるフロンティアAIの台頭により、サイバー攻撃の量・速度・高度化が急速に進んでいる。脆弱性の発見から悪用までの時間が短縮される中、企業には攻撃を防ぐことに加え、攻撃を受けても事業を継続・復旧できるサイバーレジリエンスの強化が求められている。
これまでのサイバー攻撃は、高度な技術と経験を持つハッカーが既知の脆弱性を悪用し、1件ずつ手作業で攻撃を組み立てるケースが中心だった。しかし、昨今ではフロンティアAIエンジンの特徴である大量の推論とトライ&エラーにより、仮説を大量に生成して自動で試行を繰り返すことで学習→反復で精度を向上しており、高度な技術と経験を持たなくてもサイバー攻撃が可能になっている。
たとえば、Microsoftの2026年7月の月例セキュリティ更新では、修正対象となった脆弱性が約600件規模に達した。過去3年間の月間平均が85件程度だったことから、対応件数は大きく跳ね上がったことになる。同社だけでなく、OracleやPalo Alto Networksでも同様に増加傾向にあり、フロンティアAIを使用して発見された脆弱性の報告が拡大している。
従来、熟練した攻撃者が単一の重大な脆弱性を突いた攻撃を実行していたが、昨今では多段の経路を自律設計し、失敗から学習して精度を上げるフロンティアAIがわずかな設定ミスでも重大な攻撃に発展する恐れがあるとのこと。これは、防御側の評価フレーム(CVSS単体評価)とAIの能力(文脈横断推論)の構造的なミスマッチが生じているからだという。
藤井氏は「防御側では低・中リスクの対応が遅く、そもそも連鎖を評価する仕組みを持たない。また、AIがすべての脆弱性を等価に再評価するため、未対応が多い低・中の脆弱性が最も効率的な攻撃材料になる。フロンティアAIモデルの登場後、脆弱性の量は増大するとともに攻撃に使用されるまでの時間が短縮されており、量と速度の両面で深刻化している」と指摘する。
パッチ適用は限界に、脆弱性管理はリスクベースと自動化
こうした状況から、AIがスピーディに量産する脆弱性報告に対して、いかに自動でパッチを適用し、防御スピードを引き上げるかが重要となっている。しかし、人手中心のパッチ適用には限界があるため、脆弱性の管理を件数追従から「リスクベース+自動化」に転換し、検知から修復までの所要時間をマシンスピード化することが求められている。
従来の脆弱性対応は、資産情報の把握→脆弱性情報の収集→自社特定資産への影響評価→対応という流れにもとづいていた。しかし現在は、脆弱性の件数急増と悪用までの時間短縮により、事前検証を十分に行ってからパッチを適用するという前提が現場の作業能力を超えつつある。国内企業では特にIT資産の全体像を正確に把握できていない事例が多く、何にどのパッチを当てるべきか判断できない致命的なボトルネックが露呈しているという。
また、IT部門が運用上設定してきた「パッチウィンドウ」(例:Microsoft月例更新の約2週間後の週末にまとめて当てる)という時間枠は、月次・四半期・半期といったバッチ型運用なら成立していたが、現在の件数とスピードでは当該ウィンドウ内で処理しきれていないとのことだ。
藤井氏は「未適用が次回へ繰り越されるパッチ負債が累積し、人的リソースや時間枠が拡大しないまま繰り越しが連鎖すれば、最終的な破綻と長期的な脆弱状態の固定化を招く。現場は懸命に対応してもリスクを解消しきれず、インシデント発生可能性が継続する危険な状況にある」との見解を示している。
経営と現場のギャップを埋める横断推進体が不可欠に
経営層はセキュリティの重要性を強く認識しており、トップダウンで対策を指示する、あるいは危機を機会として経営施策に転化する動きも見られる。一方、CIO(最高情報責任者)/CISO(最高情報セキュリティ責任者)は、セキュリティ予算にとどまらずIT予算全体の再配分・説明責任が生じ、予算・人材不足が深刻化。CIOとCISO間では予算、責任分担、人材負荷の違いから認識のズレが現れやすくなっている。
部長・課長級を中心とする現場はやるべきことが多すぎる状態で混乱し、上申の時間さえ確保困難で人員不足も重なり、施策の具体推進が滞りやすい。この構造的ギャップが、強まる危機感と現場における実装の間で摩擦を生んでいるという。
このような認識のギャップを埋め、対策を全社横断で推進するために、セキュリティ部門に限定しない経営・リスク管理・事業部門・法務・グローバル拠点が連携して横断推進体(司令塔)を設置することが望ましいとしている。
施策面では、既存のランサムウェア対策を止めるのではなく、フロンティアAIの脅威への対応として弱点と優先度を再評価し、前倒しや順番の組み替えでスピードを上げることが鍵になるとのこと。
さらに、オンプレミスの維持は多層パッチ適用の人的・委託コストが増大するため、PaaS(Platform as a Service)/SaaS(Software as a Service)など、クラウドの責任分界モデルを活用して自社適用レイヤーを減らし、運用負荷を軽減する戦略が現実的だという。この検討は、モダナイゼーション/クラウドマイグレーションと連動し、IT予算モデルの再設計とも結びつけることがポイントになる。
パッチが提供されない場合の選択肢としては、「自社で修正する」「該当技術の利用を中止する」「AIによる保護を導入する」などがある。しかし、AIによるパッチの作成やAIが指示する対策のみで全面保護ができるわけではないため、現実的には複数の回避策を組み合わせる必要があるという。
加えて、適用可能なパッチも回避策もない場合、能動的検証の考え方に基づき、安全確保のための一時的なシステム停止→安全性確認→再開を検討する。これは、従来の攻撃後の事業継続を主眼とするランサムウェア対策/サイバーBCP(事業継続計画)と異なり、攻撃が発生しなくても攻撃リスクが高い局面で事業継続のための措置を計画するものとなる。
防御側もAIを活用、検証と対策をオーケストレーションへ
現時点でAIがすべて自律で攻防する段階ではなく、攻撃者がAIを悪用し、防御側もAIを活用して人が防御する構図が主流となっている。AIによるソースコードのスキャン環境の構築自体は容易で、公開CVEに基づく脆弱性抽出も短時間で可能だ。
しかし、検出結果が直ちに外部からの攻撃成立を意味するわけではないため、静的スキャンに加えて、実システムへのDAST(動的診断)、ペネトレーションテスト、レッドチーム演習などで攻撃成立可否を一貫してチェックする検証範囲を広げる必要がある。
また、リリース後の都度チェックでは終わりがないため、開発段階からAI活用のセキュリティチェックをCI/CDパイプラインに組み込み、リリース前に脆弱性を潰し込む体制へ移行すべきだという。攻防の条件面では、攻撃側は多数の手法のうち1件成功で勝利、対して防御側は全件防御が必要で基本的には不利な状況だが、防御側は自社環境に関わる大量情報を保有できる優位性がある。
藤井氏は「これを活かすために、攻撃者への情報供与を極小化する(アタックサーフェス削減、外部出力の最小化/隠蔽)、場合によっては偽情報付与、公開情報の定期的リフレッシュなどの情報戦を採る戦略が有効。同時に、ツールとダッシュボードの乱立がもたらすクリスマスツリー現象(アラート過多による対応不能)への対処として、膨大な情報をAIで収束・整流化し、具体的アクションに落とし込む『オーケストレーションAI』を活用することが必要だ」との認識だ。
オーケストレーションAIは脆弱性の組み合わせによる攻撃シナリオの推演、見落とし防止、優先度付けなどにAIを使い、現場が実行可能な対策へ導くという。セキュリティの業務に導入することで、ツールの断片化やスキルの偏りによる全体的な不整合に起因する生産性の低下をデータの統合で解決し、セキュリティ人材の役割を戦略的なアーキテクチャに進化させるという。
AIで守れるIT環境へ、サイバーレジリエンスは設計から見直す
ただ、AIの活用による防御強化だけでは限界があり、AIで守りやすい環境への変革が前提となる。複雑で属人化したIT環境は、インシデントで資産や接続関係の把握すら困難にし、対策の一貫適用を妨げる。
統一ルールに基づくシンプルで統合化された環境では、対策の適用範囲が明確で全体への有効な防御を迅速に展開できる。接続の最小化やゼロトラストでアクセス制御を前提にすれば、シンプルさが攻撃のリスクを高めるという懸念も緩和され、AIの活用がしやすいとのことだ。
藤井氏は「中長期のトランスフォーメーションとして、クラウド活用も含むIT全体とビジネスの方向性を再設計し、シンプルな統合環境へ移行することがAI防御の効果を最大化する必須条件。インシデント対応で何がどこにあるか分からない状態をなくし、全体対策の迅速な展開が可能な設計へと転換することが最終的なゴールとなる」と述べ、説明を結んだ。









