本連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」では、宇宙に関する最新研究を手がかりに、天文学・宇宙物理学の今を分かりやすくお届けする。

題材として主に取り上げるのは、世界中の研究者が査読前の最新成果を迅速に公開するプレプリントサーバ「arXiv(アーカイブ)」に掲載された論文だ。最先端の論文紹介だけでなく、その理解に必要な基礎概念や背景、さらにAIや宇宙開発、観測技術、教育応用といった身近な話題との接点にも目を向けながら、宇宙研究の面白さと現在地を丁寧に読み解いていく。

ガンマ線バーストを手がかりに重力波の痕跡を探る研究

初回は、ガンマ線バーストを手がかりに重力波の痕跡を探ろうとする研究を取り上げる。重力波といえば、2015年に米国の地上重力波検出器「LIGO」が史上初の直接観測に成功したことがよく知られている。

一般相対性理論によってその存在が予言されてからちょうど100年後のことであり、それだけ重力波の観測が難しいことを物語っている。このとき観測されたのはブラックホール同士の合体によって生じた重力波だった。

しかし、重力波を生み出す現象はそれだけではない。宇宙でもっとも明るい爆発現象の1つであるガンマ線バーストにも、重力波の痕跡が隠れている可能性がある。今回紹介するのは、中国・南陽師範学院のS.-J. Houらによる研究「“Imprints of gravitational waves from magnetar spindown in GRB X-ray afterglows”」である。

Houらが注目したのは、ガンマ線バーストの後に観測されるX線アフターグローである。これは、爆発直後の強烈なガンマ線放射が終わった後にも続くX線の残光で、その明るさは時間とともに変化していく。研究チームは、この時間変化を詳しく調べることで、現在の重力波望遠鏡では直接検出が難しい重力波の影響を間接的に読み取れないかと考えた。

ガンマ線は電磁波の中でも、もっともエネルギーが高い種類。ガンマ線バーストは、そのガンマ線がごく短い時間に爆発的に放出される現象だ。数秒から数分間に、太陽が一生をかけて放つのに匹敵する、あるいはそれを上回るエネルギーが解放されることもある。

ガンマ線バーストが発生する原因、マグネターとは

原因は大きく分けて2つあると考えられている。1つは、非常に重い星が寿命の最後に崩壊するとき。もう1つは、中性子星どうしが合体するときである。いずれの場合も、極端な重力と高エネルギー現象が関わっている。

中性子星は、重い恒星が超新星爆発を起こした後に残る、直径20kmほどの超高密度天体である。角砂糖くらいの大きさで何億トンもあるほど、莫大な質量を持つことで知られる。

その中でも特に強い磁場を持つものは「マグネター」と呼ばれる。マグネターの磁場は非常に強く、もしそれが誕生直後に高速で回転していれば、その回転エネルギーがガンマ線バーストやその後のアフターグローに関わる可能性がある。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第1回

    「マグネター」の概念図(著者作成)

一方の重力波とは、質量の大きな天体が非対称に激しく運動したときに生じる、時空のゆらぎが波として伝わる現象である。ブラックホールの合体で生じる重力波が有名だが、回転する中性子星も条件によっては重力波を放射しうる。

たとえば、強い磁場によって星の形がわずかに歪んでいれば、その非対称な回転が重力波を生み出す。また、星の内部流体の振動モードの一種であるr-mode不安定性も、重力波放射と結びつく可能性がある。

こうした重力波放射が起これば、マグネターは回転エネルギーをより速く失うと考えられる。コマが最初は速く回っていても、次第に減速していくように、マグネターも時間とともに回転が遅くなる。この回転減速はスピンダウンと呼ばれる。

もしガンマ線バーストの後に残された天体がマグネターで、そのスピンダウンがX線アフターグローにエネルギーを供給しているなら、X線の明るさの時間変化には、どのようなエネルギー損失機構が効いているかが反映されるはずである。

重力波ではなく、その影響を電磁波から探る

Houらは「GRB 130603B」というガンマ線バーストのX線アフターグローを解析し、複数のべき関数で表される減衰構造を詳しく調べた。そのうえで、マグネターのスピンダウンに伴うエネルギー供給モデルを当てはめ、電磁放射だけではなく重力波放射も重要な役割を果たしている可能性を検討した。

実際、X線の減衰曲線には途中で傾きが変わる折れ曲がりが見られる。彼らはその変化が、重力波放射を含むスピンダウンの進行と整合的であると主張する。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第1回

    ガンマ線バースト「GRB 130603B」のX線の明るさの時間変化。明るさは時間とともに段階的に減少し、緑の破線は減り方が変わるタイミング(折れ曲がり)を示している。各区間で減衰の速さが異なることが分かる。論文より(軸ラベルの和訳は著者)

現在の重力波望遠鏡では、遠方のマグネターから届く重力波を直接とらえるのは難しい。そこで発想を変え、重力波そのものではなく、その影響を電磁波の側から探ろうというのがこの研究の面白い点である。

仮にマグネターの回転エネルギーが急速に失われており、その減速が電磁放射だけでは説明しにくいなら、エネルギー保存則の観点から重力波が関わっている可能性が浮かび上がる。つまり、回転エネルギーの減り方を通して、重力波の存在を間接的に読み取ろうとしているのである。

もちろん、これだけで重力波の存在が確定したわけではない。論文で扱われているのはあくまでモデルに基づく解釈であり、今後はより多くのガンマ線バーストへの適用や、重力波観測との照合が重要になるだろう。

それでも同研究は、光だけを見ていても、その背後にある見えない物理過程に迫れる可能性を示している。宇宙は、直接見えるものだけでできているわけではない。X線アフターグローのわずかな減衰の違いの中にも、重力波という別のメッセージが刻まれているのかもしれないのだ。