一度きりの超新星爆発が、数年後に再び見える?そんなことを可能にするのが重力レンズだ。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が発見した遠方の超新星「SN Helios」について、別の経路を通った光が数年後に届くと予測されている。さらに興味深いのは、その時間差が宇宙の膨張を調べる手掛かりにもなる、ということだ。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。

最初は「さらに遠い銀河」に見えた光

Seiji Fujimotoの研究チームは、arXivで公開した論文「SN HELIOS: A MULTIPLY IMAGED TYPE II SUPERNOVA OPENING TIME-DELAY COSMOGRAPHY BEYOND REDSHIFT OF 3」]において、銀河団RXC J0018.5+1626の背後にある超新星SN Heliosの発見を報告した。

発見の舞台は、銀河団の重力レンズ効果を利用して初期宇宙の暗い天体や超新星を探すJWSTの観測プログラム「VENUS」だ。2026年7月3日にJWST搭載の近赤外線カメラ「NIRCam」が撮影した画像に、2024年12月の画像では検出されていなかった天体が現れた。

この天体は、短い波長の画像ではほとんど見えず、長い波長で明るく見えた。各波長帯で測定した明るさを銀河モデルと比較した結果、研究チームは当初、赤方偏移約16(宇宙誕生から約2.4億年)の銀河の候補と考えた。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第21回

    SN Heliosの発見画像。 2024年の画像には見られなかった天体が、2026年7月の画像に現れ、8月には暗くなった。左の銀河団画像に示された破線の円は、レンズモデルが次の超新星像の出現を予測する領域を表す(論文より)

非常に遠い銀河を探す際には、銀河から届く光が特定の波長より短い側で急に弱くなる「ライマンブレーク」を手掛かりに、その候補を選ぶ。この現象は、銀河が放った紫外光のうち、ライマンα線に対応する波長より短い側が、地球までの経路にある銀河間ガスの中性水素に吸収されるために起こる。遠方の天体の場合、その境界は宇宙膨張により近赤外線域まで移る。

そして、SN Heliosのスペクトルも遠方銀河の特徴に似ていた。研究チームによると、赤方偏移3.34の超新星が示すバルマー不連続と強いHα輝線の組み合わせが、赤方偏移約16の銀河のライマンブレークに似て見えていたのだ。

しかし、発見時のF150Wの弱い信号やF200WとF210Mの色が高赤方偏移銀河のモデルに合わず、さらに2024年12月の画像には天体が写っていなかった。こうした証拠から、研究チームは発見から1日以内に、変動しない遠方銀河という解釈を退けた。

水素のスペクトルが明かした超新星の正体

研究チームは8月17日にNIRCamで再撮影し、近赤外線分光器「NIRSpec」による分光観測も行った。スペクトルには、幅広い水素のHα輝線と、その短波長側で光が吸収された特徴が現れた。

こうした輝線と吸収の組み合わせは、膨張するガスに特徴的な「P Cygni型プロファイル」である。地球から見た手前側で、地球側に向かって進行しているガスが光を吸収するため、吸収の位置は全体的な赤方偏移から短波長側へズレる。

水素のHβ線にも青方偏移した吸収が、またヘリウムの線にもP Cygni型プロファイルが見られた。Hα線とHβ線に見られる発光と青方偏移した吸収は、水素に富むガスが高速で膨張していることを示している。

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    SN Heliosの近赤外線スペクトル。 水素のHα線とHβ線、ヘリウムの線に、膨張するガスに特徴的な発光と青方偏移した吸収が見られる。青線はII型超新星、橙線は比較対象となる別種の超新星のスペクトルモデルを示す

既知の超新星のスペクトルとの比較もふまえ研究チームは、SN HeliosをII型超新星と判定した。これは水素の線を示す、大質量星の最期に関係する超新星である。Hαの吸収のずれから推定した、手前側のガスの視線方向の速度は毎秒約8800kmだった。

研究チームはさらに、銀河団による増光がなかった場合を模して、発見時の各波長帯の明るさを換算した。

深い銀河探査を想定した条件で銀河モデルに当てはめると、赤方偏移15.8の銀河候補が疑われるが、実際の赤方偏移は3.34であり、測光だけで極めて遠い銀河を探す際にはこのような超新星が紛れ込む可能性があることを、本研究は示している。研究チームは、中間帯域フィルターでの測定や、異なる時期の画像との比較を、誤認を避ける手掛かりとして挙げている。

5つのモデルが予測する「約2~6年後」

SN Heliosのもう1つの特徴が、手前の銀河団による強い重力レンズ効果だ。銀河団の質量分布と天体の位置関係によっては、同じ天体の光が複数の経路を通って地球へ届く。その結果、天空の異なる位置に同じ天体の像が現れることがある。

そして経路の長さや重力場による遅れが異なるため、それぞれの経路を通った光の、地球への到着時刻は必ずしも一致しない。超新星であれば、その一度の爆発が、時間を隔てた別の像として観測され得るのである。

5つのレンズモデルはいずれも、SN Heliosの次の像が現れるとの予測を与えた。ただし、その時期は今回の像を観測した2026年7月から約2~6年後と幅がある。予測がバラつく主な理由は、モデルを制約する背景天体の赤方偏移を分光で確定できている例が少ないことだ。

母銀河もこれまでの深い撮像では見つからず、その像の位置関係をモデルの制約に使えない。次の超新星像が観測されれば、その位置や、明るさの変化から見積もった到着時間差が、レンズモデルを検証する材料となる。

光の到着の遅れから宇宙の膨張を探る

将来、SN Heliosの別の像が観測されれば、今回の像と共通する明るさの変化が何年遅れて現れるかを調べ、光の到着時間差を実測できる。その実測値と、銀河団の質量分布を表すレンズモデルを組み合わせれば、現在の宇宙の膨張率を表す「ハッブル定数」の推定につながる可能性がある。

重力レンズ像の時間差を測った超新星観測には先例がある。本研究の重要な意義は、遠方の超新星を分光観測によって確認しただけでなく、その別の像が数年後に現れると予測した点にある。

時間をおいて像の出現が予測されていたこれまでの超新星の赤方偏移の最大値は約1.95。赤方偏移3.34のSN Heliosで実際に次の像を捉えられれば、これまでより遠い宇宙で像の到着時間差を測定する道が開ける。予測された約2~6年という期間は、観測の準備を進める時間があり、かつ数十年も待たずに予測検証が可能、ということを意味する。

研究チームは、今回観測された像の明るさの変化をさらに追うとともに、銀河団の背後にある天体の赤方偏移を分光観測で調べ、レンズモデルを改善する予定だ。数年後にSN Heliosの別の像を捉えられれば、同じ爆発をもう一度詳しく調べられる。2つの像の到着時間差は、宇宙の膨張率を制約する新たな手掛かりにもなるだろう。