東京大学と科学技術振興機構(JST)は10月6日、育児や介護を担う家族内ケア提供者を対象とした実証研究の成果を発表した。実証では、47人にチャットボットを3週間利用してもらった結果、ケア対象者との時間的・空間的・社会的な距離が、ストレスを感じた出来事に関する振り返りの内容や効果に影響することを確認したとしている。
47人の内省記述とケア対象者との距離を分析
実証研究を行ったのは、矢谷浩司教授、乘濵駿平氏、山下直美教授、平野真理准教授、ホシオ シモ教授らによる研究グループ。日常的なストレス状態と振り返りを記録するチャットボットシステムを開発し、家族内ケア提供者47人を対象に3週間の実証実験を実施した。
参加者は、日常のケアに関連してストレスを感じた出来事について、さまざまなタイミングや状況で振り返りの文章を記述した。研究グループは、その内容と、出来事からの経過時間を示す「時間的距離」、ケア対象者が見えない、声が聞こえないといった「空間的距離」、ケアを他者に任せているかどうかを示す「社会的距離」との関係を定量的に分析した。
感情の解放を促す「近接モード」と客観的な分析を支える「遠隔モード」
分析の結果、ケア対象者との距離に応じて、2つの連続的な振り返りモードが現れることが確認された。
出来事の直後やケア対象者の近くにいる状態は、「近接モード(Mode P)」と定義した。この状態ではケア対象者に焦点が向きやすく、鮮明な記憶とともに不満を言葉にするなど、感情の解放に役立つことが分かったという。
一方、出来事から時間が経過した場合や、ケアを他者に任せて物理的に離れた状態を「遠隔モード(Mode D)」とした。この状態では、自身の感情の背景や置かれた状況に焦点が移り、落ち着いて客観的な分析や今後の対策を考える認知の再評価が可能になることを確認した。
研究グループは、家族内ケア提供者の日常生活で記録したデータを基に、両モードの現れ方が時間的・空間的・社会的な距離と関連することを実証したとしている。
ケア対象者との距離を考慮した支援システムの設計へ
従来のスマートフォンなどによるメンタルヘルス支援は、あらかじめ設定したスケジュールや、自己申告、心拍数、位置情報といったケア提供者本人のストレス状態のみを基準としてきた。今回の研究は、ケア対象者との関係性を示す距離を考慮した点に特徴がある。
研究グループは、この成果により、スマートフォンやウェアラブル機器を用いたメンタルヘルス支援において、ケア対象者との距離をシステム側が検知・推測し、状況に応じた適切な振り返りを促す設計が可能になるとしている。
