NECは10月5日、2025年12月に設立したグループ会社「AIネイティブファクトリー」の事業内容や取り組みを紹介する説明会を開催した。同社は、要件定義から設計、開発、テストまでをAI主体で進め、人間が監督・判断する「AIネイティブ」なソフトウェア開発の確立を目指している。説明会には、AIネイティブファクトリー 代表取締役の石川竜也氏が登壇した。

  • AIネイティブファクトリー 代表取締役 石川竜也氏

    AIネイティブファクトリー 代表取締役 石川竜也氏

要件定義からテストまでAIが担当 人間は「監督者」へ

AIネイティブファクトリーは、AIを中心としたソフトウェア開発の実現に取り組んでいる。同社が目指しているのは、従来のシステムインテグレーション(SI)の各工程にAIを部分的に導入するのではなく、要件定義から設計、開発、テストまでをAI主体で進め、人間が監督・判断する開発モデルだ。

NECグループでは、従来型の開発にAIをツールとして取り入れる方法を「AIアシスト」、AIを中心に置き、人間が監督者となる方法を「AIネイティブ」と区別しているという。AIネイティブファクトリーでは後者に注力していく。

従来のSIでは、顧客からRFP(提案依頼書)を受け取り、提案、要件定義、設計、開発、テストなど複数の工程を経てシステムを構築してきた。

これに対してAIネイティブファクトリーが進めているのは、顧客が実現したいことや要件をAIへ入力し、その後の工程の大部分をAIに任せる開発モデルだ。

初期段階では人間がAIと対話しながら進め方を決めるものの、方針が定まった後はAIが数日から数週間にわたり作業を進め、人間は完成後に顧客の要求や開発意図に沿った成果物になっているかを確認するという形だ。

「例えばRFPやオンラインミーティングの記録などを入力し、あらかじめ設定した開発方法に沿ってAIに処理させます。この時に情報が不足している場合には、AI側から質問が提示されることがありますが、その確認が終わると、AIが設計書やソースコード、テスト結果など、システム開発に必要な成果物を生成していきます」(石川氏)

  • AIネイティブ開発のイメージを説明する石川氏

    AIネイティブ開発のイメージを説明する石川氏

AIネイティブ開発では、設計書やプログラム、テストケースなどの基本的なアウトプットをAIが生成する。一方、AIの出力が正しいかを判断できなければ、品質を担保できない。そのため、同社ではAIに作業を任せつつ、その成果を評価できるエンジニアを配置している。

現在、社内のエンジニアは6人で、エンジニア出身の石川氏を含めて7人が業務にあたっているという。SIの最前線を経験した人材から研究者までを組み合わせ、新技術を研究する人材と実際の案件へ適用する人材が連携する体制を構築している。

エンジニア1人+AIで「生産性約80倍」の事例も

AIネイティブ開発では、すでに複数の実案件で生産性向上の結果が出ているという。

自社SaaSの開発では、従来であれば7人程度の体制で1年を要すると見積もられる規模の開発を、1人のエンジニアとAIによって約1カ月で進めた。同社によると、従来の工数との比較では、生産性は約80倍に相当するという。

公共領域のアプリケーション開発でも、従来はエンジニア1人が約1カ月をかけて作成する約2000行のプログラムを、AIが2~3時間程度で生成した事例があるという。

このようにスピーディーに開発できる事例をもとに、AIの利点として石川氏が挙げたのが「処理速度」だけでなく「24時間稼働させられる点」だ。人間が作業をしていない夜間や休日にもAIに処理を継続させることで、翌朝に人間が成果を確認するといった開発方法が可能になる。

一方で、生産性の向上と同時に課題となるのが品質管理である。従来のソフトウェア開発では、人間が作業することを前提に、開発規模や工程ごとの不具合件数などから品質を評価する方法が用いられてきた。しかし、AIが高速で大量の成果物を生成する開発では、従来と同じ指標をそのまま適用することは難しい。

同社では、AIがどのような判断を経て成果物を生成したのかを追跡する方法や、生成過程ではなく最終的な成果物を評価する方法などを検証しているという。また、障害の発生件数だけではなく、障害発生後の復旧速度を評価指標とする考え方も検討している。

人間の作業時間を限りなくゼロへ、「ゼロヒューマンアワー」とは

同社が将来的に目標として掲げるのが、人間の作業時間を限りなくゼロに近づける「ゼロヒューマンアワー」という取り組みだ。現在は工程の途中で人間による評価や判断が必要だが、AIそのものの進化や開発手法の改善に合わせて、人間の介入を段階的に減らしていく。最終的には、要件を入力すればAIが自律的にシステムを完成させる「ゼロヒューマンアワー」を掲げる。最終的には要件を入力すればAIが自律的にシステムを完成させる状態を目標としている。

AIネイティブファクトリーの役割は、自社単体の事業拡大だけではない。同社が構築したAIネイティブ開発の仕組みをNECグループへ展開し、グループが掲げる「AIネイティブカンパニー」への変革を後押しすることも重要な役割だ。

NECグループでは、AIによってシステム開発の中間工程を効率化する一方、SEなどの人材を、より上流の工程や顧客に近い領域へ移していく方向性を描いている。AIネイティブファクトリーがすべての開発を担うのではなく、同社で確立した方法をNECの開発基盤などを担う組織と連携して展開し、各現場が自らAIネイティブな開発を行える状態を目指す。

石川氏は、AIネイティブな開発がNECグループ全体へ十分に浸透した場合、同社が現在の形で存続すること自体にはこだわらない考えも示した。役割を終えた段階で組織のあり方を変えることも選択肢としながら、まずはNECグループのAIネイティブ化を推進する先導役として、開発手法の確立と展開を進めていく方針だという。