米国航空宇宙局(NASA)は2026年9月23日、次世代の遠赤外線宇宙望遠鏡「PRIMA」(プリマ)を、天体物理学分野の新しいミッションとして選定した。宇宙から届く微弱な遠赤外線を捉え、惑星が生まれる過程や地球の水の起源、銀河と超大質量ブラックホールの成長などを探る。2033年の打ち上げをめざしており、日本からは宇宙航空研究開発機構(JAXA)も国際協力機関として参加する。

  • 遠赤外線宇宙望遠鏡「PRIMA」の想像図 (C)NASA/JPL-Caltech

    遠赤外線宇宙望遠鏡「PRIMA」の想像図 (C)NASA/JPL-Caltech

遠赤外線で宇宙を見て分かること

PRIMA(PRobe far-Infrared Mission for Astrophysics)は、NASAのジェット推進研究所(JPL)が計画を管理する遠赤外線宇宙望遠鏡だ。

PRIMAの目的は多岐にわたる。惑星がどのように形成され、どのような大気を得るのか。地球の水はどこから来たのか。銀河とその中心にある超大質量ブラックホールはどのように成長してきたのか。さらに、宇宙の歴史を通じて、生命や惑星の材料にもなる重元素や星間塵がどのように生み出され、蓄積してきたのか――といったことを調べる。

こうした謎を解き明かす鍵となるのが、PRIMAが観測する遠赤外線だ。

「遠赤外線」は、暖房器具や調理器具などでなじみ深い言葉だ。身の回りの物体はその温度に応じて赤外線を放っているが、宇宙でも同じように、低温の塵などが赤外線を放射している。

遠赤外線は、とくに星や惑星が生まれる現場を調べるうえで重要な光だ。星が生まれる分子雲や、若い恒星を取り巻く原始惑星系円盤には大量の塵があり、可視光では内部を見通しにくい。塵は恒星などから届いた光を吸収して温まり、そのエネルギーを熱として放射する。

こうした領域にある低温の塵からの熱放射は、主に遠赤外線の波長で現れる。そのため遠赤外線を観測することで、塵そのものの分布や、塵に包まれた領域で星や惑星が形成される様子を詳しく調べられる。

また、遠赤外線には水や重水素化水素(HD)、OHなどの分子や、炭素や酸素などの原子・イオンが生み出す特徴的なスペクトル線が数多く存在する。こうした光を波長ごとに細かく分けて調べることで、原始惑星系円盤に存在するガスの量や水の分布を調査できる。さらに、さまざまな銀河で起きている星形成や、それぞれの銀河中心にある超大質量ブラックホールへの物質の降着についても調べられる。

  • 渦巻銀河M81の可視光画像(左)と赤外線画像(右)。可視光は米国キットピーク国立天文台で撮影された。赤外線像はNASAのスピッツァー宇宙望遠鏡によるもので、長波長側の観測にはMIPS観測装置を使用し、24µm、70µm、160µmで銀河を捉えた。遠赤外線では、恒星そのものよりも低温の星間塵が強く見え、星形成の材料が集まる渦巻腕の構造が浮かび上がる Image credit: Optical: N.A. Sharp (NOAO, AURA, NSF); Infrared: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona/Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics

    渦巻銀河M81の可視光画像(左)と赤外線画像(右)。可視光は米国キットピーク国立天文台で撮影された。赤外線像はNASAのスピッツァー宇宙望遠鏡によるもので、長波長側の観測にはMIPS観測装置を使用し、24µm、70µm、160µmで銀河を捉えた。遠赤外線では、恒星そのものよりも低温の星間塵が強く見え、星形成の材料が集まる渦巻腕の構造が浮かび上がる Image credit: Optical: N.A. Sharp (NOAO, AURA, NSF); Infrared: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona/Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics

PRIMAが取り組む研究テーマには、地球の水の起源も含まれる。太陽系の彗星に含まれる水の重水素と水素の比率(D/H比)を測定し、地球の水と比較することで、地球の水がどこから来たのかを探る手掛かりを得る。

PRIMAの望遠鏡は口径1.8mで、宇宙から届く微弱な遠赤外線を捉えるため、望遠鏡そのものを約4.5K(約-269度)まで冷却する。赤外線観測では、望遠鏡自身から出る熱放射も雑音となる。絶対零度に近い温度まで冷やすことで、この熱放射を大幅に抑え、観測対象から届く遠赤外線を捉えやすくする。

この望遠鏡で集めた遠赤外線を詳しく調べるため、PRIMAには「FIRESS」と「PRIMAger」という2つの観測装置を搭載する。

FIRESSは、24~235µmの広い波長域を分光する装置で、水や重水素化水素、炭素、酸素などが生み出すスペクトル線を測定する。これにより、原始惑星系円盤にある水の分布やガスの量、銀河で起きている星形成や超大質量ブラックホールの活動などを調べる。

一方のPRIMAgerは、遠赤外線による撮像と偏光観測を行う。星間塵から届く遠赤外線の偏光を測ることで、星間空間に広がる磁場の向きや構造を調べ、磁場がガスの動きや、星が生まれる過程にどのような影響を与えているのかを探る。

観測場所は、太陽・地球系の第2ラグランジュ点(L2)付近を予定している。観測時間の75%は、世界の研究者から観測提案を募る一般観測に割り当てられる。PRIMAではすでに、一般観測を想定した120件の科学テーマがまとめられており、彗星や惑星形成、磁場、銀河進化、宇宙論など幅広い研究が検討されている。

遠赤外線天文学の分野では、2009年から2013年まで、欧州宇宙機関(ESA)の「ハーシェル宇宙望遠鏡」が観測を行った。ハーシェルは口径3.5mの望遠鏡を備え、星や銀河の形成、宇宙の化学組成などを研究した。

PRIMAの口径は1.8mとハーシェルより小さいが、望遠鏡を4.5Kまで冷却するとともに、非常に微弱な遠赤外線を捉えられる検出器を組み合わせる。望遠鏡自身が発する熱や検出器が生む雑音を極力抑えることで、これまで捉えることが難しかった遠赤外線を詳しく観測することをめざしている。

一方、現在運用中の「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」(JWST)は、波長約0.6~28.5µmの光を観測する。これに対し、南米チリにある「アルマ望遠鏡」(ALMA)は、約0.32~3.6mmのミリ波・サブミリ波を観測する。PRIMAは、その間に広がる遠赤外線領域の大部分を観測し、JWSTとALMAをつなぐ波長域から宇宙を探る。

2033年打上げへ、JAXAも国際協力機関として参加

PRIMAは、米国科学・工学・医学アカデミーが2021年にまとめた、天文学・天体物理学の10カ年計画「アストロ2020 (Astro2020)」を受けて生まれた。アストロ2020は、中規模のエクスプローラー・ミッションと、大型の戦略的ミッションとの間を埋める新たな「プローブ」級を設け、その最初のミッション候補として遠赤外線とX線による宇宙観測を優先するようNASAに提言した。

この提言を受け、NASAはエクスプローラー計画の新しいミッション枠として「プローブ・エクスプローラーズ」を設けた。

NASAは2024年、遠赤外線宇宙望遠鏡PRIMAと、X線宇宙望遠鏡「AXIS」の2案を候補に選び、それぞれに500万ドルを提供して詳細な概念検討を進めた。科学的な意義、開発計画の実現性、費用やスケジュール、将来の大型ミッションにもつながる技術などを評価した結果、PRIMAがプローブ・エクスプローラーズの第1号に選ばれた。

PRIMAは今後、予備設計や技術開発を進める「フェイズB」に入る。その後、技術、計画、費用などを対象とする確認審査を経て、本格的な開発・製造にあたる「フェイズC」への移行が判断される。

PRIMAの打ち上げは2033年を目標としており、観測期間は5年間を予定している。事業費の上限は12億ドルで、打ち上げ費用などは含まれない。

日本からは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がPRIMAの国際協力機関として参加する。JAXA宇宙科学研究所(ISAS)では「遠赤外線宇宙望遠鏡PRIMAへの参加検討WG」が活動しており、具体的な協力内容の検討が進められている。

ISASと欧州宇宙機関(ESA)はかつて、望遠鏡を極低温まで冷却して赤外線を観測する宇宙望遠鏡「SPICA」を検討していた。ISASは、PRIMAはSPICAと機能や科学目標が近く、日本が培ってきた赤外線観測の技術や科学的知見を生かせるとしている。

具体的には、SPICA向けに開発した高性能な断熱材を使った断熱シールドの提供、美笹深宇宙探査用地上局によるデータ受信支援、冷却した光学系の性能試験や評価などでの協力が検討されている。

  • 天の川を背景にしたPRIMAの想像図 Image credit: Spacecraft: NASA/JPL-Caltech; Background: ESO/S. Brunier

    天の川を背景にしたPRIMAの想像図 Image credit: Spacecraft: NASA/JPL-Caltech; Background: ESO/S. Brunier

参考文献