彗星は、太陽系形成時の情報を残す「タイムカプセル」に例えられる。その詳細な調査には彗星核の直接観測が必要だが、彗星は太陽に接近すると氷などの成分が蒸発して「コマ」と呼ばれる構造を形成し、核を覆い隠してしまう。そのため、地上から彗星核を直接観測することはきわめて困難とされてきた。

そうした中、国立天文台と京都産業大学(京産大)の両者は8月25日、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)を用いた大規模サーベイプログラム「HSC-SSP」の公開アーカイブ画像を精査した結果、2016年に撮影された画像から、土星よりも遠方に位置し、コマの生じていない状態の「ネウイミン彗星」(28P/Neujmin、20世紀初頭に発見された既知の彗星)を発見し、その核の性質に迫る研究成果が得られたと共同で発表した。

  • 2016年3月7日にHSCが撮影したネウイミン彗星(白枠とその拡大画像の中心)。画像は、HSCの104枚ある検出器のうちの1枚が撮像したもので、彗星の他に2000個以上の星や銀河が写っている (C)国立天文台 (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

    2016年3月7日にHSCが撮影したネウイミン彗星(白枠とその拡大画像の中心)。画像は、HSCの104枚ある検出器のうちの1枚が撮像したもので、彗星の他に2000個以上の星や銀河が写っている (C)国立天文台 (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

同成果は、産業医科大学 医学部の大坪貴文助教、京産大 理学部の河北秀世教授、国立天文台 天文データセンターの高田唯史准教授、国立天文台 ハワイ観測所の寺居剛サポートアストロノマー、兵庫県立大学 西はりま天文台の春日敏測研究員らの研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文論文誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

彗星核を調べる理由

氷やダストなどで構成され太陽系外縁で誕生した彗星と、主に火星と木星の間の小惑星帯に存在し岩石質である小惑星は、かつては全く別種の天体と考えられていた。しかし、近年の観測により、水を含む小惑星や小惑星に似た鉱物を有する彗星が発見されるなど、両者の境界は曖昧になりつつある。

両者の表面が本当に似ているのか、それとも根本的に異なるのかの解明は、太陽系の天体の誕生過程やその後の変遷を理解する上で重要とされる。そのためには、彗星核の直接観測が必要となるが、氷が昇華しないほど太陽から十分に遠い冷涼な領域に位置している時期に限られるため、容易ではない。

彗星が地球近傍まで接近するとコマも発達してしまうため、彗星核の直接観測は困難となる。さらに、水よりも揮発性の高い成分を多く含む彗星の場合、真空下で水が氷として存在できる「スノーライン」(太陽からの距離約3天文単位)の外側の領域であってもコマをまとうことがある。いずれにしろ、太陽から遠く冷涼な領域にいる間にしか彗星核を観察する機会はない。だが、コマをまとわない彗星核は暗く小規模な天体であるため、大口径の望遠鏡でなければ検出が困難であった。

さらに、表面の性質を詳しく調べるには、地球との位置関係も重要となる。太陽を背にして、彗星をほぼ真正面から見る「衝」の配置で観測する必要があり、衝付近では天体が普段より明るく見え、その明るさの変化から表面を覆う粒子の性質を調べることが可能だ。しかし、極端な楕円軌道を持つ彗星でこうした条件がそろう機会はきわめて限られる。

そこで研究チームは今回、HSC-SSPの公開アーカイブデータに着目し、その中から太陽系小天体が写り込んでいる画像を体系的に調査することにした。

  • 衝の模式図 (C)国立天文台 (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

    衝の模式図 (C)国立天文台 (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

今回の研究成果

HSC-SSPは、HSCを用いて多色フィルター(広帯域と狭帯域)の宇宙イメージングサーベイを実施し、重力レンズ効果、銀河形成の時間進化、超新星、天の川銀河の構造を詳しく調べることで、宇宙論や天体物理学の最重要課題に挑むプロジェクトであり、撮影は2014年から合計300夜かけて実施された。同プロジェクトは主に遠方の天体を対象としているが、手前を横切る太陽系内の天体が写り込む場合があるため、その中に潜む彗星の探索が行われた。

その結果として発見されたのが、「ネウイミン彗星」である。土星軌道よりも遠方となる、太陽から10天文単位以上離れた領域において、コマのない状態で写っていることが発見された。しかも、その撮像データは太陽・彗星・地球がほぼ一直線に並ぶ「衝」に近い理想的な条件で撮影されていた。これにより、地上観測としては世界で初めて、彗星核の衝における増光が明確に捉えられたのである。

衝が理想的な観測条件となるのは、天体を真正面から見ることで表面の粒子が作る影がほぼ見えなくなり、普段より明るく見えるためだ。さらに、粒子間で散乱した光が観測者の方向へ集まる効果も加わり、明るさが急激に増す現象が生じる。これを「衝効果」と呼び、この効果を調べることで天体表面を覆う粒子の大きさや詰まり具合などを推定することが可能となる。

解析の結果、ネウイミン彗星の表面の色は、水を多く含むような暗く(反射率が低く)赤みを帯びたタイプの小惑星と酷似していることが確認された。これは、これまでの研究から予想されていた通りの結果だったという。

ところが、衝における明るさの変化を詳しく調べたところ、予想外の違いが明らかにされた。一般に、このタイプの小惑星では真正面から見た際の増光はそれほど大きくない。しかしネウイミン彗星では、従来の想定を大きく上回る増光が見られ、むしろ光をよく反射するタイプの小惑星に匹敵するほどであることが判明した。

  • (左)ネウイミン彗星が衝に近づいた際の増光を捉えたすばる望遠鏡の観測データ。太陽-彗星-地球がなす角度が0.33度という、ほぼ真正面から観測したデータ(黒丸)は、他の角度で観測した時よりも大幅に増光していることが示されている。(右)さまざまなタイプの小惑星における増光パターン。暗い(反射率の低い)タイプの小惑星(D、C、P型)にはこうした鋭い増光は見られない。ネウイミン彗星の増光は、反射率が高いタイプの小惑星(E、S、M型)に匹敵するほど強いものだった (C)国立天文台 (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

    (左)ネウイミン彗星が衝に近づいた際の増光を捉えたすばる望遠鏡の観測データ。太陽-彗星-地球がなす角度が0.33度という、ほぼ真正面から観測したデータ(黒丸)は、他の角度で観測した時よりも大幅に増光していることが示されている。(右)さまざまなタイプの小惑星における増光パターン。暗い(反射率の低い)タイプの小惑星(D、C、P型)にはこうした鋭い増光は見られない。ネウイミン彗星の増光は、反射率が高いタイプの小惑星(E、S、M型)に匹敵するほど強いものだった (C)国立天文台 (出所:すばる望遠鏡Webサイト)

この結果は、彗星表面を覆う粒子の大きさや隙間の空き具合、粒子の集まり方といった微細な構造を知る上で大きなヒントになるという。ネウイミン彗星の核は、色や光の反射率の点では低反射率タイプの小惑星に似ていても、表面の微細構造は大きく異なっている可能性が示された。彗星は太陽に近づく度に氷の昇華を繰り返しており、こうした活動の積み重ねで、小惑星には見られない独特の表面構造が形成された可能性が示唆された形だ。

筆頭論文著者である産業医科大の大坪助教は、「すばる望遠鏡の公開アーカイブには、まだ見つかっていない興味深い太陽系小天体のデータが眠っています。今後さまざまな彗星について同様の観測を進めることで、太陽系の歴史の中で、彗星核の表面構造がどのように作られてきたのか、さらには太陽系の天体がどのように形成され、現在の姿になったのか、理解が進むでしょう」と展望を語っている。