大阪公立大学(大阪公大)と大阪電気通信大学(大電大)の両者は7月13日、アルマ望遠鏡のサブシステムである「アタカマコンパクトアレイ」を用いて、銀河が極めて狭い領域に密集する「ステファンの五つ子」銀河群において、同銀河群全体にわたる詳細な分子ガスの分布を明らかにし、領域ごとの「星形成効率」を比較した結果、星が活発に生まれる領域と生まれにくい領域が共存しており、環境によって格差が生じていることを明らかにしたと共同で発表した。

  • 「ステファンの五つ子」銀河群の可視光画像に、一酸化炭素分子が放つ電波を重ねたものと、分子ガスの三次元空間構造の疑似カラー表示

    (左)「ステファンの五つ子」銀河群((1)~(5))の可視光画像に、一酸化炭素分子が放つ電波が等高線(オレンジ色)として重ねられたもの。等高線が高い領域ほど電波が強く、多くの分子ガスが存在することを示す。(右)一酸化炭素分子の電波が放つ周波数情報から推定された、分子ガスの三次元空間構造の疑似カラー表示。赤色の領域ほど分子ガスが多く、地球から見て奥行方向に対しても広く分子ガスが分布している構造であることがわかる。(出所:大阪公大Webサイト)

同成果は、大阪公大大学院 理学研究科の山本美咲大学院生、同・村岡和幸准教授、大阪電気通信大学の前田郁弥講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

“星が生まれやすい環境”の条件を明らかに

宇宙では銀河同士の衝突・合体は珍しくなく、たとえば天の川銀河も、約40億年後にはアンドロメダ銀河と衝突し、その後約10億年の時間をかけて1つの楕円銀河「ミルコメダ銀河」になると予想されている。銀河の衝突・合体は、過去に遡るほど、その頻度は増加していく。これは、宇宙の大きさが現在よりも小さかったためであり、今から100億年以上も前の初期宇宙となると、銀河が密な環境となり、銀河同士の衝突・合体や相互作用が日常茶飯事のように頻発していた。

こうした銀河の衝突・合体や相互作用は星の材料となる分子ガスを急激に圧縮することで、新しい星の形成を促進すると考えられてきた。場合によっては、大質量星が多数誕生し、短期間のうちに超新星爆発が連続発生する「スターバースト」を引き起こすこともある。しかしその一方で、銀河同士が近くをすれ違い、重力による相互作用によって分子ガスを流出させたり、その極限として枯渇させたりして、星形成を活発化するどころか、逆に抑制するという可能性も指摘されていた。

銀河の衝突・合体や相互作用が起きた際、星形成が促進されるか抑制されるかは、銀河自体の性質(サイズや形状、質量、ガスの分布や含有量など)や衝突時の速度、銀河同士の位置関係など、さまざまな要因によって決定されると考えられてきた。しかし、初期宇宙の銀河は極めて遠方にあるため、衝突中の銀河を空間的に分解することが困難であり、詳細なメカニズムの理解が進んでいなかったのが現状だ。

そこで研究チームは今回、地球に極めて近い宇宙(近傍宇宙)に存在するコンパクト銀河群という天体に着目した。同銀河群は、4~10程度の銀河が極めて狭い領域に密集し、頻繁な銀河衝突・合体や相互作用が起きていて、初期宇宙に近い銀河環境が実現されていると考えられている。

中でもステファンの五つ子銀河群では、過去複数回の銀河間相互作用を経験しており、大規模な「衝撃波構造」(銀河同士の相互作用などにより、高速で運動するガス同士が衝突して急激に圧縮されることで形成される構造)や、アンテナのように引き伸ばされた細長い構造である「潮汐尾」といった特徴的な構造が確認されていた。

そこで今回の研究では、アルマ望遠鏡のサブシステムであり、広がったガスの分布を観測するのに適したアタカマコンパクトアレイを用いて、ステファンの五つ子銀河群の全域にわたる分子ガスの分布を詳細に調査したという。

ステファンの五つ子銀河群とは、1877年にフランスの天文学者エドゥアール・ステファンが発見した、ペガスス座に存在するコンパクト銀河群のことだ。重力による相互作用により、渦の形が崩れた5つの銀河が密集している点を特徴とする。今回の観測により、同銀河群の全面に広がる分子ガスの分布が世界で初めて明らかにされた。

さらに、潮汐尾に沿って伸びる細長い分子ガスの構造や、その北側に孤立して存在する「分子ガスクランプ」(星の卵である「分子雲コア」を複数抱えた高密度なガス塊)が新たに検出された。同構造は、銀河本体からはるか離れた場所で起きる星形成の重要な材料となっている可能性が高いと考えられている。

なお今回の研究では、ステファンの五つ子銀河群のさまざまな領域での星形成効率の調査も行われた。すると、衝撃波構造に沿った星形成領域や一部のクランプでは、近傍宇宙の渦巻銀河と同程度か、もしくはそれ以上に星が生まれやすいことが突き止められた。

一方、衝撃波構造と銀河本体の間に広がった分子ガスの領域では、新たな星を生む効率が渦巻銀河の100分の1しかなく、極めて星が生まれにくい環境であることが明らかにされた。こうした結果は、銀河間相互作用が分子ガスの圧縮と拡散の両方に寄与し、それによって最終的に星形成の「格差」を生んでいることを示唆しているとした。

今回の研究により、銀河間相互作用によって星形成効率に大きな差が生じることが示された。しかし、銀河間相互作用の具体的な物理過程は実にさまざまだ。例えば、衝撃波による分子ガスの圧縮と加熱、せん断効果による分子ガスの拡散などが挙げられる。これらの物理過程が分子ガスの物理状態(ガスの密度や温度、運動状態)をどのように変化させ、最終的に星形成の促進もしくは抑制に寄与しているのかを明らかにすることが今後の課題だという。

星形成は、銀河が進化する上で最も基本的なプロセスだ。初期宇宙における銀河の衝突・合体や相互作用による星形成の促進・抑制の機構を詳細に理解することは、銀河進化の歴史を紐解くことにつながる。研究チームは、今回の成果が人類の宇宙観の解像度をさらに引き上げ、宇宙における人類の存在意義を深く考える新たなきっかけを提供するものであるとしている。