北海道大学は、約2439.4kmとされる水星の赤道半径について、水星の形成以来、現在までに12km近く縮んでいたことを、最新の水星地形データを用いて明らかにしたと9月11日に発表した。
同成果は、北大大学院 理学研究院の西山学博士研究員を中心とする国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する、地球・惑星科学を扱う旗艦速報論文誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。
水星の“縮み方”で、天体の内部進化を解明する
水星の大きな特徴の1つが、表面に数多く存在するしわ状の「収縮地形」だ。これらは、水星が形成以降に内部冷却や固体内核の成長過程で体積減少を起こし、それに伴う表面積の減少で圧縮を受けて形成された逆断層と考えられてきた。
その考えに基づき、従来研究では収縮地形の高さや長さを測定することで、各断層が動いて減少した表面積を計算し、水星の半径変化量が推定されてきた。この推定値は水星の熱進化モデルと定量的に比較できるため、収縮地形は今日までの内部進化を解明するための重要な観測的手がかりとされてきた。
しかし、既知の収縮地形の分布には、水平方向に不均質に分布が偏っている謎が残されていた。仮に収縮が天体の冷却のみに由来するならば、その分布は全球で均一になるはずだ。だが、実際には場所ごとの偏りが見られ、収縮地形がほとんど見られない地域も存在する。正確な熱進化の把握には形成された全ての収縮地形を考慮する必要があるため、この不均質性の原因解明が課題となっていた。
そこで研究チームは今回、この不均質性の原因として、本来存在するはずの収縮地形が見えていない可能性を検証。後から起きた地質活動などによって古い収縮地形が覆い隠され、現在の地形データから読み取れなくなっている可能性に注目することにした。
今回の研究成果
今回は最新の水星地形データを用いて、表面の凸凹度合いの統計量「ラフネス」の全球マップが作成・使用された。これにより、比較的新しいクレーターの放出物の範囲などが、高いラフネスを持つ領域として可視化された。その結果、地質活動と収縮地形の関係を定量的に比較することが可能となった。ただし、溶岩噴出が起きると表面が平滑化してラフネスが低くなるため、注意が必要となる。そこで、水星表面を火山ユニットとそれ以外に分け、水星のラフネスと収縮地形のカタログを用いて両者の分布の比較と調査が行われた。
解析の結果、ラフネスと収縮地形の分布には明確な負の相関があることが見出された。たとえば、比較的新しい大規模クレーターの周辺では、衝突時の放出物で表面が荒れてラフネスが高くなり、収縮地形が少なくなっている。また、直径100km超のクレーターが比較的多い領域でも同様の傾向が確認された。このような負の相関は火山ユニットの有無にかかわらず、水星全体に存在する傾向であることが判明した。
さらに詳細な解析により、一部の長大な収縮地形ではクレーター中心に近づくほど収縮地形の起伏が小さくなることも確認された。これは、収縮地形の形成後に堆積した放出物が古い地形を覆い隠したという仮説と整合する。また、ラフネスが高い地域では収縮地形以外の凸凹が卓越し、収縮地形自体が検出されにくくなっている可能性も示された。
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水星のラフネス分布(上)と収縮ひずみ分布(下)の比較。収縮ひずみの単位は対応する半径収縮量で表されている。両図の赤線は各収縮地形の位置、水色の星印は比較的最近形成された直径150km以上のクレーター、白線は水星の火山ユニットの境界線を表す (出所:北大ニュースリリースPDF)
いずれにせよ、ラフネスは表面で起きる現象を反映する指標であり、内部進化を反映する収縮地形とは本来無相関のはずである。それにもかかわらず負の相関が見られることは、本来あるはずの収縮地形が隠されていることを強く示唆しているという。
以上の結果に基づき、今回の研究ではラフネスを用いることで、収縮地形が隠された影響の定量的補正が世界で初めて実現された。収縮地形の分布に基づいた水星の収縮ひずみの分布とラフネス分布を組み合わせることで、被覆影響を補正した場合の水星の半径収縮量は12km近くに達することが導き出された。この結果は、従来の研究では水星の半径収縮量が最大30%過小評価されてきたことを示しており、水星の進化を解明する上で欠かせない新たな制約となる。
今回の結果は、水星内部の冷却・進化過程を考える上で極めて重要だという。推定収縮量が大きくなったことで、これまでの内部・熱進化モデルの再考が迫られるとした。たとえば、水星は半径の約75%を巨大な金属コアが占める点が特徴だが(地球、金星、火星は約50〜55%)、冷却に伴う内核の成長は収縮量を支配する主要因だ。収縮量は核に含まれる軽元素の量などにも依存するため、今後の水星の熱進化モデル計算との詳細な比較を通して、核の組成も含めた水星の内部構造・進化への理解向上が期待される。
また、欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)による水星探査計画「ベピ・コロンボ」(BepiColombo)の科学観測が2027年から開始される。搭載されたレーザー高度計「BELA」により、さらに詳細なラフネスの分布と収縮地形の観測が進むため、この問題をさらに詳しく調べるデータが得られる見通しだ。
今回示された「新しい地質活動などにより古い収縮地形が見えにくくなる」という問題は、他の岩石惑星・衛星にとっても重要となる。たとえば、月は既知の収縮地形が極めて少なく、見積もられた半径収縮量が1km未満と推定されてきた。しかし、月の平均ラフネスが水星よりも50%以上高い点を踏まえると、月でも同様に収縮地形が隠されている可能性がある。今回確立されたラフネスを用いた補正手法は、太陽系天体一般の構造地形や熱進化を理解する重要な枠組みとなり、今後の惑星進化史の解明に欠かせない手法となることが期待されるとしている。
