天の川銀河において、恒星の多くは太陽のように単独ではなく、連星として誕生する。中でも大質量星の多くは、連星系を形成していることが少なくない。しかし、既知の大質量連星系は誕生から長時間が経過したものが多く、その形成過程を再現することが困難なため、大質量連星系がどのようなプロセスを経て誕生するのかは未解明のままだった。

そうした中、アルマ望遠鏡で8年近く追跡観測した、成長途中の大質量原始星を2つ含む星形成領域「IRAS 07299-1651」を国際共同研究チームが調べたところ、2つの大質量原始星が細長い楕円軌道で公転し、さらにガス円盤の角度が大きく傾いていることが判明。2つの星は1つのガス円盤からの誕生ではなく、成長途中に近接遭遇して重力的に結合した可能性が高いと、国立天文台(NAOJ)が9月8日に発表した。これまでで最も詳細な形で、大質量連星の形成過程における三次元構造を解明することに成功した。

  • 円内は、アルマ望遠鏡により波長0.9mmの連続波で観測された、「IRAS 07299-1651」に存在する連星系(再現された軌道線が描かれている)。それぞれの星を囲む電離した星周円盤の回転方向が、ドップラーシフトによって赤方/青方偏移した水素の再結合線で捉えられており、矢印は双極方向に噴き出すジェットの向きを示す。背景は、JWSTが撮影した同領域の3種類の中間赤外線を合成した擬似カラー画像。クレジット:NASA, ESA, CSA, STScI, Joseph DePasquale (STScI), ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Yichen Zhang (出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

    円内は、アルマ望遠鏡により波長0.9mmの連続波で観測された、「IRAS 07299-1651」に存在する連星系(再現された軌道線が描かれている)。それぞれの星を囲む電離した星周円盤の回転方向が、ドップラーシフトによって赤方/青方偏移した水素の再結合線で捉えられており、矢印は双極方向に噴き出すジェットの向きを示す。背景は、JWSTが撮影した同領域の3種類の中間赤外線を合成した擬似カラー画像。クレジット:NASA, ESA, CSA, STScI, Joseph DePasquale (STScI), ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Yichen Zhang (出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

同成果は、上海交通大学のイーチェン・チャン副教授、東京科学大学 理学院 地球惑星科学系の田中圭助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

大質量星は恒星進化や重元素の供給に大きな影響を与えるため、天文学や天体物理学においてきわめて重要な研究対象だ。特に、大質量星は近接した連星系を形成することが多い。研究チームは今回、その形成メカニズムを解明するため、ガスが降着して成長中の大質量原始星を2つ含む星形成領域「IRAS 07299-1651」に注目した。

今回の研究成果

研究チームは過去にも、アルマ望遠鏡を用いて分子雲に深く埋もれたこの若い連星を検出しており、力学的な性質を調査していた。当時の結果は、大きなガス円盤の分裂によって近接連星が形成される従来の描像と概ね一致していたとする。しかし、それぞれの原始星を取り巻く円盤の向きが一致していないように見えた点が、そのシナリオでは説明しにくい疑問として残されていた。

そこでさらなる調査として、アルマ望遠鏡ならではの高い角分解能と位置決定精度を活用する、2つの星の微小な固有運動を測定する長期観測計画が立案された。

8年近くにわたる観測をつなぎ合わせた結果、星の軌道運動を示すわずかな位置変化が捉えられ、形成途上にある2つの大質量星が互いに公転している様子が初めて観測された。

さらに今回の研究では、アルマ望遠鏡による複数波長の観測と、カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)、欧州南天天文台の超大型望遠鏡(VLT)による観測も組み合わせることで、形成中の大質量連星のこれまでで最も詳細な姿が描き出され、連星系の三次元構造がきわめて詳細に解明されたとした。

  • 形成途中にある近接大質量連星の想像図。それぞれの星を取り巻く円盤の角度が互いに傾いている (クレジット:Yichen Zhang)(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

    形成途中にある近接大質量連星の想像図。それぞれの星を取り巻く円盤の角度が互いに傾いている (クレジット:Yichen Zhang)(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

アルマ望遠鏡の複数波長観測により、軌道解析に不可欠な原始星の質量を絞り込むことにも成功。さらに、軌道の推定だけでなく、それぞれの原始星を取り巻くコンパクトな星周円盤まで解像され、それぞれの星の性質に強い制限を与えることに成功したとする。

一方、JWSTの観測では星から吹き出すジェットの方向が特定され、2つの重要な事実が判明した。1つ目は、星の軌道が大きな離心率を持ち、円に近い軌道ではなく、大きく歪んだ楕円軌道であること。2つ目は、それぞれの星周円盤が、互いに対しても、また軌道面に対しても大きく傾いていることだ。

仮に2つの星が単一のガス円盤の分裂によって誕生したとすれば、これらの特徴を説明することは困難である。そのような従来の考え方では、星も円盤もおおむね同じ向きを持つと考えられるからだ。今回明らかにされた三次元構造は、近接した大質量連星が従来とは異なる過程で形成されたことを示唆している。独立して誕生した2つの星が、分子雲中で成長途中に近距離で遭遇して重力的に結合した可能性が示された形だ。

同時に、有力な新しい観測的アプローチも示された。これまでの研究では、天球上の離角を測定することしかできず、まれに視線方向の速度差を知ることができただけだったという。長期間の高精度観測によって、これまで困難だった分子雲に埋もれた連星系の三次元構造の測定がついに可能になったとした。

今後の観測で、IRAS 07299-1651の2つの大質量星の軌道はさらに精密に求められることが予想される。それ以上に重要なことは、同じ手法で若い大質量連星を多数観測することで、この形成メカニズムの普遍性が確かめられ、大質量星の連星系形成プロセスを明確に理解できる可能性がある点だという。今回の研究は、「大質量連星の誕生」という天文学の未解明問題に風穴を開ける可能性のある成果としている。