貨物輸送を担う無人機には、機体から左右に伸びたブームの先に尾翼を設ける「ツインブーム」構成のものが目につく。中国が開発した「Tianma 1000」もその一つだ。なぜ貨物輸送用の無人機では、こうした機体構成が採用されるのか。中国と米国の機体を見ていくと、貨物輸送ならではの事情が見えてくる。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • 中国の貨物輸送用無人機「Tianma 1000」 Photo : US Army

    中国の貨物輸送用無人機「Tianma 1000」 Photo : US Army

中国の貨物輸送用無人機「Tianma 1000」

例えば、中国の国務院情報室(国务院新闻办公室、SCIO : State Council Information Office)が存在を明らかにした、貨物輸送用UAV「Tianma 1000」がある。”Tianma” は漢字だと「天馬」と書くらしい。

これは固定翼機で、2026年の初頭に初飛行を実施したばかり。搭載量は1,000kg、STOL(Short Take-Off and Landing)能力があると説明されている。

Tianma 1000の機体構成は、米軍の軽攻撃機、OV-10ブロンコと似ている。中央部に胴体があり、そこから左右に直線翼を伸ばす。その途中にエンジンナセルを取り付けた双発で、ナセルから後方にツインブームを延ばした先に垂直尾翼。それをつなぐ形で水平尾翼を設けている。

突飛な高揚力装置を備えているわけではなさそうだが、アスペクト比が高い主翼が十分な翼面積を備えていれば、離着陸速度を低くして短距離離着陸を可能にできるという話になろうか。米陸軍が作成した資料では、離着陸時の滑走距離は200m程度と見積もっている。

面白いのは、この手の機体構成が中国の専売特許ではないこと。実は米海軍も、似たような形態の機体を試用したことがある。2022年に米海軍航空戦センター航空部門(NAWC-AD : Naval Air Warfare Center Aircraft Division)がテストした、スカイウェイズV2.6がそれ。

実はこれ、海上自衛隊でも2024年に、陸上から艦上への物資輸送を試したことがある機体で、このときにはANAが運航を担当した。米海軍の試験では、飛行距離は200nm(370km)程度だったとされる。

これはTianma 1000と比べるとずっと小型の機体で、ペイロードは5.69kgとされる。航続距離も535km程度と、それほど長くはない。ただ、「輸送所要の多くは50lb未満」というのがNAWC-ADの説明なので、ペイロードの小ささがハンデというわけではない。

  • NAWC-AD は2019年に、ブルーウォーターUAVのプロトタイプを試したこともある。これがまたツインブーム形態だが、尾翼が逆V尾翼になっているのはTianma 1000との違い 撮影:井上孝司

    NAWC-AD は2019年に、ブルーウォーターUAVのプロトタイプを試したこともある。これがまたツインブーム形態だが、尾翼が逆V尾翼になっているのはTianma 1000との違い 撮影:井上孝司

ブルーウォーターはVTOL機で、左右のブームに2基ずつ、離着陸時に使用するローターを備えており、推進用のプロペラは中央部胴体の後ろ側に取り付けている。水上艦や輸送艦のヘリ発着甲板に発着させる必要があるので、VTOL能力が必要だった。

もっと大柄なところで、これまた中国のWuhu Tengden Aviation Technologyが2025年に登場させたD18もツインブーム構成。ただしプロペラは2基ではなく4基ある。米空軍が出しているデータだと、全長10.5m、全幅20m、最大離陸重量4.35tとのこと。ペイロード1.8tとの情報もある。

なぜツインブームが好まれるのか

この手の機体でツインブーム構成が好まれるのはなぜだろうか。そこがなんとなく気になっている。

もちろん、実証試験に関するリリースで、機体の設計理念に関する説明までは出てこない。だから部外者が勝手に推測することしかできないが、胴体をフルに貨物輸送用に割り当てられる利点がある、という考えは成り立たないだろうか。

エンジンを左右の主翼に取り付ければ、胴体内にエンジンを組み込む必要はなくなるし、そもそも無人だから操縦席は要らない。ツインブームの先端に尾翼を取り付ければ、前方だけでなく後方からでも、胴体内部に設けた貨物室にアクセスできる。

実は、Tianma 1000は着陸しないで貨物を空中投下する使い方もできるとされる。すると、胴体の後方に邪魔者があるのは好ましくない。OV-10ブロンコもそうだったが、この手の形態なら胴体後方に開口を設けて、そこから貨物を放り出すことができる。

  • これがOV-10ブロンコ。用途の関係で視界の良さが求められたため、キャノピーが大きい 撮影:井上孝司

    これがOV-10ブロンコ。用途の関係で視界の良さが求められたため、キャノピーが大きい 撮影:井上孝司

  • ブロンコの胴体を後方から見た様子。尾端のテイルコーン(?)を開けると、胴体内の貨物室にアクセスできる 撮影:井上孝司

    ブロンコの胴体を後方から見た様子。尾端のテイルコーン(?)を開けると、胴体内の貨物室にアクセスできる 撮影:井上孝司

空中投下でなくても、前後から貨物室にアクセスできれば出し入れがしやすい、という考えもあり得よう。

それに、所要のエンジン出力を確保するのに双発機が必要ということであれば、どのみち左右にエンジンを配することになる。ナセルからブームを後方に延ばす形態は、それをうまいこと活用することにもなる、といったらこじつけが過ぎるか。

中国にはティルトローター式の貨物輸送用無人機も

中国ではこのほか、国家国防科技工業局(SASTIND : Science, Technology and Industry for National Defence)が存在を明らかにしているVTOL(Vertical Take-Off and Landing)型貨物輸送用UAV、R6000がある。6t級の機体だから “6000” ということらしい。

こちらはティルトローター機で、左右に伸ばした主翼の先端にエンジンナセルを設置、そこにプロップローターを取り付けている。ナセルは固定式でプロップローターだけを動かす構造に見えるから、V-22オスプレイよりも、ベルMV-75(V-280バロー)に似た形態のようだ。

ティルトローターだから垂直離着陸ができる。そして、エンジンを左右に追い払っているので、胴体の前後から貨物の出し入れができそうでもある。

STOLの貨物輸送用UAVにどんな出番が?

米英海軍がいっているような、「陸上から艦上に小口貨物を急いで運ばなければならないニーズがある」という話であれば、ヘリ発着甲板で運用できないと困るのでVTOL能力は必須。しかしヘリコプターだと速力や航続性能の面でハンデがあるので、VTOLが可能な固定翼機、という解が出てくる。

では、Tianma 1000みたいなSTOL機はどうか。艦上への発着は難しそうだが、中国だとこの手の機体のニーズがありそうだ。

中国が、南シナ海の島嶼に人工島をこしらえて軍の前哨拠点を設けているのは先刻知られている話。そうなると、その前哨拠点では人が暮らすことになるし、装備品も運用しなければならない。すると、糧食やスペアパーツやその他の各種消耗品など、あれこれと貨物を送り届けるニーズができる。

そこでいちいち船を出すのは大変だし、普通の軍用輸送機を飛ばすと長い滑走路が要る。小口貨物は貨物輸送用UAVで急送して、かさばるもの、量が多いものは仕方ないからときどき船で運ぶ。そういう構想は考えられないか。