東京大学(東大)と同志社大学の両者は7月23日、コウモリが空中で鳥類を捕食する行動の撮影に世界で初めて成功したと共同で発表した。

  • 渡り中のアオジを追跡するヤマコウモリ

    渡り中のアオジを追跡して飛翔するヤマコウモリ。(出所:東大Webサイト)

同成果は、東大大学院 農学生命科学研究科の福井大准教授、同志社大学 音響ナビゲーション研究センターの藤岡慧明嘱託研究員(東大大学院 農学生命科学研究科 農学特定支援員兼任)、同志社大学 生命医科学部の飛龍志津子教授、オホーツクコウモリ研究会の渡辺恵氏、同・渡辺義昭氏、川越市の大沢夕志氏、同・大沢啓子氏、日本渡り鳥保全・研究グループの沼田昇氏、同・原星一氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国生態学会が刊行する、生物と環境の相互作用全般を扱う旗艦論文誌「Ecology」に掲載された。

コウモリは渡り鳥を飛びながら捕獲していた!

コウモリは、ほ乳類で唯一の飛行能力を獲得し、種数もげっ歯類に次いで2番目に多い分類群だ。またその食性は、植物、昆虫、脊椎動物など実に多様である。その中には、わずかではあるが地上性脊椎動物や鳥類を捕食する種も確認されており、特に温帯域で鳥類を捕食する3種については、普段は昆虫を捕食するものの、特定の時期に小型の渡り鳥が主な餌となることが糞中DNA解析から示されている。日本においては、比較的大型(翼開長約40cm、体重約40g)の「ヤマコウモリ」が、秋の鳥の渡りの時期に小型の鳥類を捕食していることが知られていた。

しかし、コウモリが鳥のような比較的大きな獲物をどのように捕らえるのかは長らく不明で、主に「ねぐらで休む鳥を襲う」説と「飛行中の鳥を捕獲する」説の双方が議論されてきた。GPS追跡や行動実験、さらにセンサを用いた研究により、現在では、上空から降下しながら飛行中の鳥を捕らえる可能性が支持されている。ただし、これまでの証拠は音響データ・実験データに基づくものであり、実際に飛行中の鳥類捕食を視覚的に直接観察した例は報告されていなかった。

さらに、夜間に渡りを行う鳥類の調査手法は、これまでレーダーなどを用いたものはあっても、目視での直接観察は技術的に困難とされてきた。そうした中で、近年は鳥類の専門家の観察技術が飛躍的に向上したことから、夜間の渡り鳥の様子が詳細に観察できるようになった。そこで研究チームは今回、これまで得られた技術的基盤(サーチライト、デジタルカメラ、赤外線カメラ、サーモカメラの組み合わせ)を用いて、多くの渡り鳥が夜間に通過する特定の場所において秋季にヤマコウモリの行動観察を試みることにしたという。

観察は、2023年10月、8晩にわたって実施された。その結果、ヤマコウモリが飛翔中の鳥類を追跡する行動が56例観察された。そのうちの22回は、実際にヤマコウモリが鳥類の捕獲を試みる「アタック」行動で、さらにそのうち6回で捕獲に成功したことが確認された。

また、追跡例のうち33例については鳥類の種を判別することができ、最も多かったのがウグイスの15例で、続いてアオジの9例、クロジの4例と、小型(30g以下)の種が確認された。一方で、マミチャジナイやアオバトなど、ヤマコウモリよりも大型の鳥類を追跡する行動も観察できたという。ただし、実際にアタックに至ったのは、ウグイスやアオジといった小型の鳥類のみだった。

加えて、コウモリが一度捕獲した後に取り落としてしまったウグイスの死骸を回収し、その傷口に付着したDNAを分析したところ、鳥類を襲っているコウモリがヤマコウモリであることが分子生物学的アプローチからも証明されたとした。

観察できた鳥類捕食行動の回数は日によって大きく変動し、まったく観察されない晩もあれば、50回近く観察できた晩もあった。このばらつきは、観察範囲内を通過する小型鳥類の個体数や、その日の気象条件が関わっている可能性があるという。ただし、今回観察できた範囲は地表から上空約150mまでと限られているため、鳥類捕食行動が本当に日によってばらつくのか、あるいは日によって高度を変化させているのかは、今回の結果だけでは結論づけられないとした。

また、コウモリは自らが発した超音波の反射波による獲物の位置やサイズ、周辺環境などを高精度に把握する「エコーロケーション」能力を有することが知られている。しかし今回の研究では、夜間の鳥類捕食において、エコーロケーションがどのように活用されているのかまでは解明できなかったとした。加えて、鳥類を捕獲した後にどのように摂食しているのかも明確にはできなかったという。このように、今回の観察結果から、今後の新たな課題も浮き彫りとなったとしている。

  • 夜間を飛翔中のウグイスを捕獲したヤマコウモリ

    夜間を飛翔中のウグイスを捕獲したヤマコウモリ。(出所:東大Webサイト)

今回の成果により、ヤマコウモリが渡り鳥を飛翔中に捕食することが世界で初めて視覚的に証明された。これは、鳥類の専門家とコウモリ類の専門家が、対象種の垣根を超えて連携した成果だという。夜間に渡りを行う小型鳥類の生物量は非常に豊富だが、これらを餌資源として利用する捕食者は稀だ。ヤマコウモリは、飛翔やエコーロケーションの高度な能力を活かして、ほとんどの捕食者には手が届かない豊富な餌資源を利用していることになるとした。

今後は、カメラの精度や観察範囲、手法を広げることで、標的となる鳥類の発見・追跡から捕獲・捕食までの詳細な行動、鳥類の捕食者回避行動、エコーロケーション戦略の解明や、鳥の渡りのタイミングと密度の変化がこれらのコウモリの食性と個体群動態にどのように影響するのかなどの研究を通じ、種および生態的多様性の高いコウモリが採餌戦略をどのように多様化させてきたのかを明らかにすることが期待されるとしている。