この半導体ニュースのまとめ

・TAIがエッジAI向けリコンフィギャラブルAI半導体テストチップ「Sting Ray」の評価を完了
・Oppstarの協力を活用し、UMC 40nmプロセスで製造
・次世代量産チップ「Manta Ray」プロジェクトを始動し、鉄道・インフラ、製造、ロボティクスなどフィジカルAI領域での展開を目指す

エッジAI向けテストチップ「Sting Ray」の評価を完了

Tokyo Artisan Intelligence(TAI)は7月6日、独自アーキテクチャによるエッジAIシステム向けリコンフィギャラブルAI半導体チップ(AI FPGA)のテストチップ「Sting Ray」(開発コード名)について、設計・製造・テストを含めた評価を完了したことを発表した。

  • TAIの独自AI向け試作FPGAチップ「Sting Ray」のパッケージ外観

    TAIの独自AI向け試作FPGAチップ「Sting Ray」のパッケージ外観 (出所:Tokyo Artisan Intelligence)

TAIは東北大学発のスタートアップで、FPGAを活用したAIソリューションを手掛けてきた企業である。2025年には東北大学と「Reconfigurable AI-Chip 共創研究所」を設立し、AIソリューションベンダからAI半導体ベンダへの転換を目指す方針を示していた。今回のSting Rayの評価完了は、そうした構想を実際のテストチップとして具現化したものとなる。

Sting Rayでは、TAIが有する半導体設計技術とアーキテクチャ構想をもとに、エッジAI向けのリコンフィギャラブルAI半導体チップの基本構造の検証が行われた。また、今後の量産化やグローバル展開を見据え、マレーシアの半導体設計企業Oppstarの日本法人であるOppstar Japanの協力も得て、量産チップに向けた技術ノウハウを獲得したともしている。

東北大との共創研究所でAI半導体ベンダ化を推進

TAIがAI半導体の開発を進める背景には、エッジAIの現場で求められる要件が、データセンター向けGPUとは異なるという認識がある。

同社CEO/CTOであり、東北大学 未踏スケールデータアナリティクスセンター教授でもある中原啓貴氏は、2025年の共創研究所設立時に、日本の産業現場ではNVIDIAのGPUほど大きなAI演算能力を必要としないケースも多く、むしろ狭い場所に設置できる省スペース性、故障リスクを抑える低発熱性、そして低消費電力性が重要になると説明していた。

実際、TAIは魚の養殖場での魚数計測や、JR九州と連携した軌道モニタリング装置など、現場AIの社会実装に取り組んできた。鉄道保守のような用途では、車両やカート型装置に搭載できるコンピュータの大きさや重量、消費電力に制約がある一方、複数のAI処理を同時に実行したいというニーズがある。Sting Rayは、こうした現場での課題を踏まえ、低消費電力・低遅延で複数AIを柔軟に実行できるAI半導体を目指す検証用チップと位置付けられる。

  • 評価ボード

    今回の取り組みについてTAIでは、設計から製造、評価ボードによる動作確認、制御ソフトウェアの確立までの一連のプロセスを自社主導で経験したことで、量産化に向けた基礎的な検証環境が整ったと説明している (出所:TAI)

UMC 40nmプロセスを採用、量産化を見据えた現実解に

Sting Rayは、フィジカルAIの普及において、複数AIの同時実行に伴う消費電力増加という課題を解決するために開発された量産チップ設計前の技術検証用テストチップである。

特徴は、FPGAが持つ「回路を書き換えられる柔軟性」、すなわち再構成可能な構造を生かしつつ、ベンチャー企業として限られたコストで実用的な半導体製造を可能にするため、UMCの40nmプロセスを採用した点にある。

TAIは2025年時点ですでに、AI FPGAの開発にあたり、設計協力としてマレーシアのOppstar、製造として台湾UMCを想定する体制を説明していた。UMCの40nmプロセスは、最先端プロセスではないものの、エッジAI向けに求められる消費電力、コスト、供給安定性のバランスを取りやすい成熟プロセスであり、TAIのようなスタートアップにとって量産化を見据えた現実的な選択肢となる。

再構成性、配線チャネル、低遅延処理を検証

Sting Rayの主な技術的特徴として、TAIは4点を挙げている。1つ目は、用途や実行するAIモデルに応じて処理回路を柔軟に変更できる「再構成性」の検証である。2つ目は、アーキテクチャの要となる「配線チャネル」の最適化で、配線状態を直接観測・制御できるシンプルかつ効率的な構造を実装したという。

3つ目は、低消費電力・低遅延の追求である。現場の限られた電力リソースでも高効率に動作し、ミリ秒単位の判断が求められるリアルタイム処理の基盤を検証する。4つ目は、リコンフィギャラブル半導体チップ上にユーザーの回路を実現するための設計ソフトウェアと、製造したテストチップが正しく動作することを確認する検証ソフトウェアの開発である。

従来の汎用GPUや固定型AIチップは、高度な処理能力を持つ一方で、消費電力や発熱が大きく、特定のAIモデルにしか最適化しにくいという課題がある。Sting Rayが目指すアーキテクチャは、低消費電力・低遅延を維持しながら、現場の要望に応じて複数のAIを同時に、かつ柔軟に切り替えて実行できる点を特徴とする。

SEASIDEとの組み合わせでAI処理をサービス化

TAIの特徴は、AI半導体チップそのものを単体で販売するだけでなく、自社のAIプラットフォーム「SEASIDE」と組み合わせ、AI処理ができる状態で顧客に提供する考えを持つ点にある。

2025年時点で同社は、独自開発のFPGAを次世代SEASIDE以降に搭載する構想を示していた。個別案件では数百~数千個程度の利用規模であっても、同じプラットフォームを複数顧客に展開できれば、リコンフィギャラブル半導体としてのスケールメリットを出しやすくなる。特定用途向けASICほど市場を限定せず、FPGAの柔軟性を生かしながら、用途ごとに回路構成とAIプログラムを最適化して提供する戦略といえる。

今回のSting Rayの評価完了は、こうしたSEASIDEとAI半導体を組み合わせた事業モデルを、量産チップへと進めるための検証環境が整ったことを意味する。

鉄道・インフラ、製造、ロボティクスへの応用を想定

TAIが想定する適用領域はフィジカルAI分野である。具体的には、鉄道・インフラ分野では、多数のカメラやセンサを同時に稼働させ、リアルタイムに異常を検知する点検・保守支援システムへの組み込みを想定する。

製造・検査分野では、複数ラインの品質確認や外観検査を同時に行う自動化システムへの応用を見込む。ロボティクス分野では、状況の変化に応じて瞬時に自律的な判断・制御を行う産業用ロボットや移動型ロボットでの活用を想定している。

日本では労働力不足が深刻化しており、特に地方の製造業、インフラ保守、農水産業、物流などでは、現場作業の自動化や省人化が急務となっている。TAIは、AI、ものづくり、半導体を組み合わせることで、こうした社会課題の解決を目指す考えだ。

2027年にES版、2028年にMP版評価ボードを計画

TAIは、Sting Rayの評価完了を起点として、次世代量産チップ「Manta Ray」(開発コード名)プロジェクトを始動する。Manta RayでもUMCの40nmプロセスを採用する計画で、国内外のパートナーとの連携によりサプライチェーンを構築し、量産化に向けた開発を進める。

ロードマップとしては、2027年第1四半期に設計ソフトウェアのα版、2027年第2四半期にエンジニアリング・サンプル(ES)版チップの製造、2027年第3四半期にES版チップ搭載評価ボード、2027年第4四半期に量産版(MP)チップの製造、2028年第1四半期にMP版チップ搭載評価ボードを提供する計画としている。

日本発のファブレスAI半導体企業を目指す

TAIは、東北大学との共創研究所、Oppstar Japanとの協力、UMC 40nmプロセスの採用を通じ、日本、マレーシア、台湾をつなぐ開発・製造体制を整えつつある。2025年時点で示していた「日本発のファブレス半導体メーカー」を目指す構想が、Sting Rayの評価完了によって一段進んだ形となる。

エッジAIやフィジカルAIでは、データセンター向けGPUのような高い演算性能だけでなく、消費電力、発熱、遅延、コスト、設置性、そして用途ごとに変化するAIモデルへの柔軟性が重要となる。TAIとしては、独自のリコンフィギャラブルAI半導体アーキテクチャと設計・検証ソフトウェア、さらにSEASIDEを組み合わせることで、鉄道・インフラ、製造・検査、ロボティクスといった現場領域のAI実装を加速させる考えであり、今回のテストチップの完成を契機に、開発環境の整備から応用領域の探索、パートナー連携、そして社会実装へと段階的にプロセスを進めていくとともに、国内外のパートナー企業や海外ベンダーと、評価・設計・実装の各フェーズにおける協業可能性を模索しておき、検証の進展に応じて段階的にその成果を公表していくとしている。