九州大学(九大)と理化学研究所(理研)の両者は6月17日、量子力学と一般相対性理論(重力)を統一する「量子重力理論」に現れる、理論を定めるために外部から自由に選択する連続的な数「自由パラメータ」の起源を理解する新たな手法として、2つの、拡大縮小しても同じ性質が保たれる「共形場理論」を「界面」でつなぐ状況を解析した結果、界面をわずかに動かした時の応答を適切に取り出すと、2つの理論の違いを生む局所演算子が得られることが示され、それを具体的に構成する方法を確立したと共同で発表した。

また、その結果として、「量子重力には外部から自由に選択できる連続パラメータが存在しない」という予想を裏付けられたことも併せて発表した。

  • 理論の変形を担う局所演算子のイメージ

    理論の変形を担う局所演算子のイメージ。左側の理論のある点を、右側の理論に対応する理論に変える役割を持つ局所演算子の構成を示している。(出所:九大プレスリリースPDF)

同成果は、九大 高等研究院の楠亀裕哉准教授(理研 数理創造研究センター 客員研究員兼務)、欧州原子核研究機構(CERN)の小松尚太助教、イタリア・トリノ大学のMarco Meineri助教、米・カリフォルニア工科大学の大栗博司教授(東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構 教授/理研 開拓研究所 客員主幹研究員兼任)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する旗艦論文誌「Physical Review Letters」に掲載された。

「自由に選べる数」の由来に迫る一歩

物理学の世界では、観測するスケールを変えると現象の振る舞いが変わることが少なくない。しかし、温度や圧力が変化して物質の状態が遷移する「相転移」が起こる臨界点などでは、拡大縮小しても同じ性質が見える特別な状態が現れる場合がある。このような性質を持つ理論を「共形場理論(CFT)」という。

同理論は、臨界現象、弦理論、量子重力の研究などに広く使われる基礎的な枠組みだ。その中には、調整可能なパラメータが含まれており、それを変化させることで、拡大縮小を含めた角度を保つ変換において物理法則が変化しない「共形対称性」を保ちながら、異なる理論へと連続的に移行できるものが存在する。しかし、この連続パラメータの起源はまだ詳細には解明されていない。ただし、素粒子を扱う量子力学と重力を扱う一般相対性理論を統合した「量子重力」の概念と深く関係していることが知られている。

量子重力では、「自然法則の基本方程式に、外から自由に選べる連続的な数が含まれるべきではない」という考え方がある。しかし、この問題を量子重力そのものから直接的に調べるのは容易ではない。そこで手がかりになるのが、量子重力を共形場理論として記述する「AdS/CFT対応」だ。これは、「反ド・ジッター空間(AdS)」と呼ばれる時空の量子重力理論が、その境界にある共形場理論で記述できるという対応関係を指す。

AdS/CFT対応は、重力を含まない場の量子論を用いて量子重力を調べる強力な手法として活用されている。そのため、この対応を用いて共形場理論において理論を連続的に変える仕組みを理解することで、量子重力における自由パラメータの問題を考えるための重要な手がかりが得られると期待されてきた。

そこで研究チームは今回、この問題を調べるため、互いに近い2つの共形場理論をつなぐ「界面」に注目。2つの理論を徐々に近づけて同じ理論にすると、やがて界面は消失する。その消えていく界面の中に、理論を連続的に変える情報が残るのかどうかを調べたという。

今回の研究では、「共形多様体」の上で互いに近い2つの共形場理論を想定し、その間に「共形界面」が存在すると仮定された。共形多様体とは、共形対称性を保ったまま、パラメータを連続的に変えられる共形場理論の集合を指す。多様体上の1点1点が、それぞれ1つの共形場理論に対応する。また共形界面とは、2つの共形場理論を貼り合わせる壁のようなもので、その存在下でも共形対称性の一部が保たれる場合を指す。

そしてこの共形界面がある場合、そこに垂直な方向の「並進対称性」は一般に破れる。この破れに対応して現れるのが「変位演算子」だ。これは、界面を少し動かした際に理論がどのように応答するのかを表す界面上の演算子であり、2つの理論の違いを測る指標となる。

  • 界面の応答から理論を変える演算子を取り出す概念図

    界面の応答から理論を変える演算子を取り出す概念図。近い2つの共形場理論を「共形界面」でつなぐ。2つの共形場理論を同じものに近づけると、厳密にマージナルな演算子を変位演算子から構成できることが示された。(出所:九大プレスリリースPDF)

今回は、この変位演算子を適切に規格化し、2つの理論の差をゼロに近づける極限が調べられた。その結果、二次元共形場理論について、一定の仮定のもとで、この変位演算子が、共形対称性を保ったまま理論を連続的に変える局所的な「厳密にマージナルな演算子」になることが示されたという。

これは、2つの理論の違いが、外部から与えられたパラメータの違いとしてだけでなく、理論の中にある局所演算子によって生み出される変化として記述できることを意味する。要は、連続パラメータに沿って理論が変わる方向を、理論内部の演算子として取り出せることが示されたことになる。

量子重力の観点から見ると、今回の成果は「自然界の基本法則には、自由に調整できる『つまみ』のような数が本当に存在するのか」というアルベルト・アインシュタイン以来の根本的な問いに関連している。理論に現れる連続的なパラメータが、外部から自由に決められる単なる数なのか、それとも理論の中の力学的な場として説明されるものなのかは、量子重力を考える上で重要な課題だ。

AdS/CFT対応を用いると、共形場理論において厳密にマージナルな演算子に由来する連続パラメータは、量子重力における場の真空期待値に対応する。この対応を今回の結果と合わせて考えると、量子重力における連続パラメータは、外部から自由に与えられるものではなく、力学的な場によって説明されるべきものであることが示唆される。これは、量子重力として成立する理論と、見かけ上はもっともらしくても量子重力とは両立しない理論を見分けようとする「スワンプランド・プログラム」の理解につながることが期待されるとしている。