東海大学は7月28日、鹿児島県・種子島沖および静岡県・駿河湾での深海調査において採集した魚類が、日本初記録となる深海魚のシダアンコウ科「Rhynchactis macrothrix」であることを確認し、これまで同属および同種の国内における報告例がなかったことから、Rhynchactis属に対する標準和名として「シズクアンコウ属」、種名macrothrixに対する標準和名として「シズクアンコウ」を新たに提唱したと発表した。

  • 種子島沖と駿河湾で採集されシズクアンコウ

    (左)種子島沖で採集されシズクアンコウ。体長は37.3mm。(右)駿河湾で採集されたシズクアンコウ。体長は43.6mm。(出所:東海大Webサイト)

同成果は、東海大大学院 海洋学研究科の犬塚敦己大学院生、同・日野田祥太大学院生、東海大 海洋学部 水産学科の髙見宗広講師らの研究チームによるもの。詳細は、「魚類学雑誌」に掲載された。

深海性チョウチンアンコウの仲間に新標準和名を提唱

深海魚として知られるチョウチンアンコウ類は、水深数百mから2000m以深の、太陽光がほぼ届かない深海域に生息している。生息域の水深が極めて深く、採集の機会が限られるため、その多くは分布や分類の解明が進んでいないという。今回、日本初記録となったシズクアンコウも、主に水深1000~2000m付近の深海から採集されることから、生態や分類に謎の多い深海魚の1種となっている。

チョウチンアンコウ科やフサアンコウ科など、一般的なチョウチンアンコウ類といえば、頭部から伸びる釣り竿のような器官「誘引突起」を発光させて、近寄ってきた獲物を大口で飲み込むという特徴的な捕食方法が知られる。しかし、チョウチンアンコウ類の中には発光器を備えた誘引突起を持たない種も存在する。

シズクアンコウをはじめとするシダアンコウ科の魚類は、発光器を持たない「光らない誘引突起」を有しており、一般的なチョウチンアンコウ類とは異なる方法で獲物を誘引していると考えられているが、その捕食生態の詳細はまだ解明されていない。また、その口は、一般的なチョウチンアンコウのイメージほど大きくは開かず、歯も極めて小さく退化しており、このような特徴から小型のプランクトンや甲殻類などを捕食していると推測されている。

今回のシズクアンコウは、2022年および2023年に東海大所有の海洋調査研修船「望星丸」による深海調査の過程で、種子島沖および駿河湾からそれぞれ1個体ずつ採集されたものだ。同種が属するシダアンコウ科Rhynchactis属はこれまで日本国内からの報告が一切なかったため、日本初記録の属および種として、それぞれシズクアンコウ属およびシズクアンコウという新しい標準和名が提唱された。この和名は、同属のメスが持つ特徴的な“枝分かれする尾鰭条(びきじょう)”と、丸みを帯びた頭部から尾部に向けて細くなっていく体型が、まるで“樹木の枝先から滴り落ちる雨雫”を連想させることに由来する。

シズクアンコウは、誘引突起の長さや、その先端にある付属物の形態といった形態学的特徴によって、海外で発見されていたRhynchactis macrothrixと同種であると同定された。同種はこれまで大西洋、インド洋、および台湾近海から採取されたわずか10個体のみが知られている極めて希少な深海魚であり、今回の採集によって日本近海における分布が世界で初めて明らかにされた。

研究チームは、四方を深海に囲まれた日本近海における生物多様性の解明に向け、今回の日本初記録および標準和名の提唱は学術的に極めて重要な成果であるとしている。