中央大学は6月17日、カップや周辺素材の「手触り」がコーヒーの味わいに影響を及ぼすことを発見したと発表した。

  • 実験で使用されたスリーブとカップ

    実験で使用されたスリーブとカップ。(左)紙やすりを用いたざらざらしたスリーブ。(右)クラフト紙を用いたさらさらしたスリーブ。(出所:中央大Webサイト)

同成果は、中央大大学院 文学研究科の久保夏海大学院生(研究当時)、中央大 文学部の有賀敦紀教授の研究チームによるもの。詳細は、五感の相互作用や脳の認知メカニズムを扱う学際的な論文誌「Multisensory Research」に掲載された。

飲み物の味わいは、その液体自体の成分だけで決まるわけではないことが、これまでの研究から明らかにされている。具体的には、グラスやマグカップなどの色や形状、材質といった容器の特徴が、飲む飲料の味覚評価に影響を及ぼすことが報告されてきた。

しかし、実際に飲料を飲む際、ヒトは常にそれら容器の特徴を意識しているとは限らない。例えば、飲用中には容器の全体を見渡せるわけではないため、その形状などは意識されにくい傾向にある。そこで研究チームは今回、飲料を飲む間に常に接触している「カップの手触り」に着目し、その触覚がコーヒーの味覚評価に及ぼす影響を調べたという。

先行研究でも、コーヒーカップの材質が味覚評価に影響することは報告されていた。しかし、視覚情報や唇からの触覚の影響が十分に排除されておらず、手で感じる触感そのものの効果は未解明だった。そこで今回の実験では、コーヒーの味覚評価における純粋な「手触りの効果」を抽出できるよう、新たな実験手法が構築された。

具体的には、紙やすりから作成した「ざらざらしたスリーブ」と、クラフト紙から作成した「さらさらしたスリーブ」という、手触りの異なる2種類のスリーブをカップに巻き付けることで、唇の感覚は同一に保ちながらも手触りだけを変化させる仕組みが考案された。それぞれのスリーブを付けたカップにブラックコーヒー(68.0℃)を約115mlずつ注ぎ、視覚の影響を取り除くために目隠しをした状態で、92名の実験参加者にコーヒーを試飲させる実験が行われた。

その結果、実験参加者がざらざらしたカップの後にさらさらしたカップでコーヒーを飲むと、その酸味が弱く感じられることが確認された。一方、逆の順番ではこの効果は見られなかったという。このことから、さらさらした手触りがコーヒーの酸味を弱める可能性が提示された。視覚と唇からの触覚の影響は完全に排除されているため、この現象は純粋な「手触りだけの効果」であると考えられる。なお、甘味や後味については、手触りによる影響は確認されなかったとした。

さらに、カップを持つ手とは反対の手で、机に置かれた紙やすりやクラフト紙に触れている場合でも、同様の結果が得られることも判明。つまり、カップやスリーブとは無関係の物体に触れている場合でも、その手触りがコーヒーの味覚評価に影響を及ぼすことが明らかにされたのである。この結果は、机やメニュー表、スマートフォンなど、飲用場面のさまざまな物体の手触りがコーヒーの味わいに影響を及ぼす可能性を示唆している。

一方、紙やすりやクラフト紙に触れるタイミングと、コーヒーを口に含むタイミングがずれると、手触りの効果が消失することも確認された。つまり、手触りは「同時に体験している」コーヒーの味わいに影響を及ぼすことが実証されたのである。

  • さらさらしたカップからコーヒーを飲むと酸味が弱く感じられた

    ざらざらしたカップの後に、さらさらしたカップ(右)からコーヒーを飲むと、酸味が弱く感じられた(smooth condition)。一方、逆の順ではこの効果は確認されなかった(rough condition)。(出所:中央大Webサイト)

一連の実験で示された「手触りによる味覚誘導効果」は、「ざらざら‐強い酸味」「さらさら‐弱い酸味」という概念が心的に連合しており、それが感覚間で共有されて知覚に影響を及ぼすメカニズムによる可能性があるという。今回の成果は、人間における触覚と味覚の感覚統合に関する心理・神経メカニズムのさらなる解明につながるものとして期待されるとした。また、ユーザー体験(UX)デザインやフードマーケティングへの応用も期待されるとしている。

今回の成果によって、素材がもたらす「手触り」が、コーヒーの味わいそのものに影響を及ぼす可能性が示された。近年は、環境配慮の観点からさまざまな素材開発が進み、コーヒーの大手チェーンでもリユースカップや繊維系スリーブなどの導入が進んでいることから、それらの素材選定への応用も考えられるという。

加えて、カップやスリーブ自体が持ち歩かれるアイテムとなり、ファッションアイテムとしての側面も強まっている。今回の成果は、「自分好みの味わいを引き出すカップやスリーブ」を選ぶという新たな価値観につながる可能性が示された。また、マイカップやマイスリーブを持ち歩くといった、消費者個人の環境配慮行動を後押しすることも期待されるとした。それと同時に今回の成果は、飲用シーンを「感覚全体」からデザインすることの重要性を示唆するものとしている。