鹿児島大学と広島大学の両者は6月15日、鹿児島県種子島沖の水深約1200mの深海域から、頭部の大部分を覆うほど巨大な白い眼を持つ新種のヨコエビを発見し、学名「Harcledo toyoshioae」と命名するとともに、和名には「オオメダマヨコエビ」を提唱したと共同で発表した。
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記載されたオオメダマヨコエビの生時の体色。鮮やかな赤色が特徴だ。(A)ホロタイプ(種の基準となる標本)。(B)パラタイプ。(画像は、出版社の許可を得て、当該論文から転載されたもの)(出所:広島大プレスリリースPDF)
同成果は、鹿児島大 水産学部の小玉将史助教、同・渡部泰斗学部生、広島大 生物生産学部の中口和光准教授(附属練習船「豊潮丸」船長兼任)、広島大大学院 統合生命科学研究科の若林香織准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ロンドン自然史博物館が編集する、生物の分類学や生物多様性を扱うオンライン論文誌「Systematics and Biodiversity」に掲載された。
水深1200mの暗い深海を生きる新種ヨコエビを確認
端脚目ヨコエビ類には数多くの種があり、世界では約1万種、日本では約500種が報告されている。多くの種の体長は数mmから数cm程度の小型の甲殻類で、藻場や岩礁、砂泥底などの海底に生息しており、時には1m2当たり10万個体以上が確認されることもあるという。ヨコエビは、多くの魚類やカニ類などの餌となって水産資源を含む沿岸生態系を支えている重要な動物。なお、名前にエビとつき同じ甲殻類・軟甲綱ではあるものの、エビが「十脚目」なのに対しヨコエビは「端脚目」であり、異なるグループに属している。
世界中にはまだ数多くの未記載種(学名未定の新種候補)が存在すると考えられており、日本近海もその例に漏れず、分類学的研究はまだ十分とはいえない状況だ。そのため、近年になっても新種の発見・記載が相次いでいる状況だという。
加えて、従来のヨコエビ類の調査の多くは海底を対象としており、プランクトンネットを用いた水柱中(表層から中層・深層までの水中の空間)の調査はあまり実施されていなかった。水深1000~4000mの「漸深層」は、太陽光が届かない深海環境であり、特殊な環境に適応した多様な生物が生息していると考えられている。漸深層は調査が困難な海域の1つであり、詳細な調査を行うためには練習船や調査船などによる協力が不可欠であることが、調査の進まない要因とされてきた。そのため、日本近海のヨコエビの実態はいまだ十分には解明されていないのが現状である。そこで研究チームは今回、広島大の練習船「豊潮丸」の協力を得て、漸深層を調査したという。
今回の探査において研究チームは、豊潮丸に装備されたプランクトンネット(ORIネット)を用いて、種子島沖の水深約1200mの漸深層から、巨大に発達した眼を持つ小さな甲殻類(端脚目ヨコエビ類の一種)を採集することに成功。体長は約2cmで、深紅の体色と、頭部の大部分を覆うほど発達した巨大な白い眼を持つことが大きな特徴である。
同種について詳細な分類学的検討を行った結果、「テンロウヨコエビ科Eusiridae」に属することが示された。同時に、既知のいずれの種にも一致しない特徴を備えていることが確認され、未記載種であると判断された。特に、同種の眼は背面から見ると左右が頭部背側で接するほど大きく、この点で近縁種から容易に識別することが可能である。そこで研究チームは、同種を新種「Harcledo toyoshioae」として記載。種小名「toyoshioae」は、同種の採集に貢献した豊潮丸に献名したものだ。また、その巨大な眼にちなみ、和名として「オオメダマヨコエビ」が提唱された。
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オオメダマヨコエビの頭部(固定標本)。(A)背面。巨大な左右の眼が背部で接している。(B)側面。眼が頭部ほとんどを覆っている。(画像は、出版社の許可を得て、当該論文から転載されたもの)(出所:広島大プレスリリースPDF)
今回の研究では、新種記載に合わせ、分子系統解析やDNAバーコーディングに用いられるミトコンドリアDNAの「COI領域」や「16S rRNA領域」などの塩基配列も決定された。水深が深くなるほど太陽光は著しく減衰するため、深海生物では、しばしば眼の巨大化や退化といった光環境に対する進化的適応が見られる。同種の発見は、深海性甲殻類における眼の適応進化を考える上で、重要な知見となる可能性があるとしている。