この半導体ニュースのまとめ
・ルネサスが米Pictorusの買収を完了し、組み込みソフトウェア開発を簡素化・高速化する体制を整備
・Pictorusのクラウドベースのビヘイビアモデリング技術をRenesas 365に統合し、モデルベース設計からソフト実装・展開までの連続性を高める
・Webブラウザ上で描いたブロック図からRustベースの実行可能コードを生成し、車載、ロボティクス、産業機器の開発期間短縮を狙う
ルネサス エレクトロニクスは6月18日、米カリフォルニア州オークランドに本社を置くソフトウェア開発企業Pictorusの買収を、子会社を通じて完了したと発表した。今回の買収によりルネサスは、クラウドベースのビヘイビアモデリングプラットフォームを獲得する。これを通じて、従来は個別ツールに分断されがちだった組み込みシステム開発を、モデルベースのシステム設計に基づく連携型プラットフォームへ進化させ、アプリケーション開発サイクルの短縮を図る。
Renesas 365強化へ、Pictorus買収で組み込み開発をクラウド統合
今回の買収が意味について同社は、2026年3月に一般提供を開始した「Renesas 365」の価値を押し上げることにつながることを強調している。Renesas 365は、デバイス探索、モデルベースのシステム開発、初期検証、ライフサイクル管理を単一のクラウド環境に統合するプラットフォームで、Altium買収後に打ち出してきたルネサスのデジタライゼーション戦略の中核を担うものだ。Pictorusの技術を加えることで、アーキテクチャモデリングに加え、システム挙動そのものを視覚的に設計・表現・評価できるようになり、Renesas 365上のシステム設計がより具体化することとなる。
自動車・ロボティクス・産業機器向けにシフトレフトを加速
対象市場としては、自動車、ロボティクス、産業機器分野で広がるソフトウェア定義型ソリューションである。こうした分野では、開発初期段階でのシステム検証や、ハードウェアとソフトウェアをまたいだ設計の前倒し、いわゆるシフトレフトが競争力を左右する要素になっている。ルネサスはPictorusの技術をRenesas 365に統合することで、設計制約やシステム挙動の最適化を支援する高度なシステムエンジニアリング環境を構築し、より迅速で参画しやすい開発基盤を作る考えだ。
ブロック図からRustコード生成、モデルベース設計を実装まで接続
具体的には、エンジニアはWebブラウザ上でブロック図を描くことで、デバイスの挙動を視覚的に設計できるようになる。さらに、その図を実行可能な組み込み対応ソフトウェアへ自動変換できるため、従来必要だった手書きコーディング作業を減らせることにもつながる。生成されるコードは、堅牢でメモリ安全性に優れたRustベースとなり、C/C++やPythonとの相互運用にも対応する。これにより、反復開発の速度を高めつつ、信頼性の高いコード生成と市場投入までの時間短縮を両立させる狙いがある。
ルネサスのソフトウェア&デジタライゼーショングループでR&D/デジタルインダストリ担当ヴァイスプレジデントを務めるLeigh Gawne氏は、Pictorusの技術をRenesas 365に組み込むことで、既存のアーキテクチャモデリング機能にビヘイビアモデリングとシミュレーションが加わり、迅速な仮想プロトタイピングと自動コード生成が可能になると説明している。これにより、設計検討と評価を前倒しし、より迅速かつ最適なデバイス選定につなげられるという。
Pictorus創業思想と一致、ルネサスのデジタライゼーション戦略を具体化
一方、Pictorusは、過酷な環境下で動作する車載ソフトウェア開発で経験を積んだエンジニアが設立した企業であり、実用レベルの組み込みシステム開発には、ハードウェア、ソフトウェア、シミュレーション、デプロイの工程が分断されているという問題意識を出発点にしてきた。Founder兼CEOのChris Sullivan氏も、エンジニアにはより現代的で統合された開発環境が必要であり、その目指す方向がRenesas 365と強く一致していると述べている。ルネサス側も、ハードウェア、ソフトウェア、開発ワークフローを大規模に統合できる立場を生かし、この買収をデジタライゼーションビジョン実現に向けた重要な一歩と位置付けている。
ルネサスは2025年にAltiumとともにRenesas 365を打ち出し、2026年3月にはその一般提供を開始した。そこへ今回、Pictorusのモデルベース設計と自動コード生成技術が加わることで、クラウド上でデバイス探索からシステムモデリング、ソフトウェア実装、最終的なデバイス展開までを一気通貫で扱う構想がさらに現実味を帯びることになる。半導体そのものだけでなく、開発環境全体を束ねることで設計の入り口から囲い込む戦略を、ルネサスが一段と前に進めた格好だ。