愛媛大学は4月17日、月内部に相当する1000℃・最大5.5万気圧という高温高圧条件下で、月のマントルの主要成分である「直方輝石」のP波およびS波の「弾性波速度」を測定して得られた実験データを、アポロ計画で得られた地震観測モデルと比較した結果、月の上部マントル(深さ40~740km)は、これまで考えられていたよりも鉄を多く含む可能性が高いことが明らかになったと発表した。

  • 月の構成鉱物の弾性波速度からの月の内部構造の特定

    今回の研究では、月の構成鉱物の弾性波速度を高温高圧下で測定することで、月の内部構造の特定が試みられた。(出所:愛媛大Webサイト)

同成果は、愛媛大 先端研究院 地球深部ダイナミクス研究センターのスティーブ・グレオ准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する地球科学を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

約38万4000kmの彼方に位置する月は、現状、人類が唯一足跡を残した地球以外の天体であり、現在はアルテミス計画が進行中だ。アポロ計画以来、約60年ぶりとなる2020年代末には宇宙飛行士が「アルテミスIII」で月面に降り立つ予定であり、近年は資源獲得競争も相まって、再び注目が高まっている。

月の衛星としての大きな特徴は、母惑星である地球に対して巨大な点にある。地球の直径の約4分の1という比率は、太陽系の全衛星の中でも極めて特異だ。太陽系最大のガニメデですら木星の約27分の1、全衛星中第2位のタイタンも土星の約23分の1に過ぎない。太陽系の全衛星のサイズランキングでも、第5位に位置する月は、地球との関係において二重惑星に準じる系と見なされることもある。

そのような月がどのように誕生したのか、現在最も有力視されているのが「巨大衝突(ジャイアント・インパクト)説」だ。約45億年前の太陽系形成期に、火星サイズの仮想の原始惑星「テイア」が地球に衝突したことがきっかけで誕生したと考えられている。

誕生直後の月は、全表層が溶融したマグマオーシャンの状態にあり、その後の冷却過程で鉱物組成や鉄の量が異なる層が結晶化し、現在の内部構造が形成された。月には地球のような風化やプレートテクトニクスがほぼ存在しないため、その内部構造は形成当時の状態を比較的よく保持していると考えられている。そのため、月内部の研究は、初期地球の組成や地球-月系の進化を理解する上で重要な手がかりとなると期待されている。

現在、月内部に関する情報は主に、NASAのアポロ計画で設置された地震計による月震データに基づいて推定されている。しかし、地震波の速度を具体的な鉱物組成に結び付けるためには、月マントルを構成する鉱物の弾性波速度を、高温高圧条件下で測定する必要がある。特に、月の鉱物は地球のものに比べて鉄に富んでいる可能性が指摘されていたが、その実測データは不十分であった。そこで研究チームは今回、月のマントルを想定した高温高圧条件下で、主要鉱物である直方輝石のP波とS波速度、および密度を実験によって精密に測定したという。

今回の研究では、大型放射光施設SPring-8に設置されたマルチアンビル装置を用い、1000℃・最大5.5万気圧の高温高圧条件下において、超音波測定と放射光X線測定を組み合わせた実験により、直方輝石のP波・S波速度および密度が測定された。さらに、得られた弾性データと鉄に富むかんらん石の既存データを組み合わせ、月上部マントルの岩石モデルにおける地震波速度と密度が計算された。

その結果、月の上部マントル(深さ40~740km)の地震観測データを整合的に説明するためには、約20mol%の鉄を含むマントル組成が必要であることが判明。この結果は、従来のモデルよりも月マントルが鉄に富んでいる可能性を示すものだという。

  • 月の上部マントル岩石のP波・S波速度および密度モデル

    月の上部マントル岩石のP波・S波速度および密度モデル。今回の実験データにより、鉄分量への新たな制約が与えられた。(出所:愛媛大Webサイト)

今回の成果は、地球-月系の形成および進化に関する理解に重要な影響を与えるものとする。例えば、巨大衝突を引き起こしたテイアは、従来考えられていたよりも高密度で鉄に富んでいた可能性が示唆されるとする。また、初期の月はより活発な火成活動や内部ダイナミクスを持っていた可能性があり、その結果として、より速い冷却過程や長期間持続するダイナモ(磁場生成)が起きていた可能性も考えられるとしている。