国立天文台(NAOJ)は6月2日、新型の「7BEE受信機」を搭載した野辺山45m電波望遠鏡を用いてオリオン座分子雲を観測し、分子雲中に含まれる重水素の割合を基にした分子進化地図を発表した。
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オリオン座分子雲の重水素割合に基づく進化地図。色は進化段階を示し、黄色が最も若く、濃紺が最も古い。オリオン大星雲の中心にあり、巨大原始星が誕生しつつあるKL星雲が四角枠で示され、その近傍には有名なトラペジウム星団も位置する。図の北(上)から(中央)にかけて広がる黄色や黄緑の領域では、10万年単位という「天文学的に近い」将来、星が誕生することが期待されている。(出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)
同成果は、NAOJ 野辺山宇宙電波観測所の立松健一前所長、同・西村淳所長らの研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の学術誌「The Astrophysical Journal Supplement Series」に掲載された。
天の川銀河には、1000億~2000億個もの星が存在するとされ、その間隙には多量の星間ガスや星間塵(ダスト)も漂っている。星の誕生の場となるのが、これらが濃集した分子雲である。あらゆる物体はその温度に応じた電磁波を放射しているが、分子雲は約-260℃という極低温であるため、電波の波長で輝く。電波望遠鏡はその微かな電波をとらえることで、分子雲を詳細に観測することが可能だ。
分子雲は数十万年から数百万年かけて濃集し、その一部である「分子雲コア」が星の卵となる。やがて原始星となり、中心部で核融合反応が始まって主系列星として輝き出す仕組みだ。しかし、これまでは分子雲の進化段階を広域的に網羅した地図は存在していなかったとのこと。そこで研究チームは今回、通常の水素の2倍の質量を持つ「重水素」に着目し、オリオン座分子雲における重水素の割合から各領域の進化段階の推定を試みたという。
従来の観測により、原始星がまだ誕生していない分子雲では重水素の割合が単調に増加し、原始星が誕生すると重水素の割合が減少に転じることが判明していた。つまり、重水素の割合が高い領域は、原始星の誕生直前から誕生初期段階を反映していることを意味する。これにより、放射性同位体の半減期を用いた岩石などの年代測定を行うように、分子雲の年代測定を行うことが可能となった。
今回作成されたオリオン座分子雲の進化地図によると、北(上)側の「OMC-2」および「OMC-3」領域では、重水素の割合が高く、今後も活発な星形成が進む可能性があるとした。一方、巨大原始星を含む「KL星雲」や、オリオン大星雲の中心の「トラペジウム星団」が存在する南(下)側の「オリオンKL」領域では重水素の割合が少なかった。これは、オリオン大星雲の中心付近は温度が高いために重水素の割合が低下しているほか、原始星の誕生前を意味する冷たい分子雲が少ないことを示していると推測された。
さらに、分子雲コアの中心部では、従来の理論モデルに反して重水素の割合が高くなる傾向が見られず、各コアの内部ではほぼ均一の値となることが示された。一方で、コア同士の間では重水素の割合に差異があり、それぞれの進化段階を反映している可能性が示唆された。アルマ望遠鏡でも、重水素を含む分子の観測が盛んに行われているが、重水素の割合がコア内部であまり変化しない事実は、その観測結果の解釈にも大きな影響を与える可能性があるとした。
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水素(H)に対する重水素(D)の割合の時間変化概念図。縦軸が重水素割合(D/H)で、横軸は10万年単位の時間スケールを表す。従来の観測結果や理論モデル計算を基に作成された。(出所:NAOJ 野辺山宇宙電波観測所Webサイト)
野辺山45m電波望遠鏡と7BEE受信機の組み合わせは、パラボラアンテナ1基で構成される「単一鏡型電波望遠鏡」としては、世界最速クラスの重水素地図の取得能力を誇る。今回の成果を踏まえ、今後のさらなる活躍が期待されるとしている。