探査機「はやぶさ2」が先月、小惑星トリフネを探査した際、小惑星を横切る「フライバイ」の史上最接近を達成したことが分かった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが発表した。表面から約400メートルで、中国による2012年の記録を塗り替えた。小惑星フライバイでは初めて、機体からのレーザー照射による精密測距にも成功。成果は小惑星探査の可能性を広げ、地球で暮らす人類を天体の衝突から守る「プラネタリーディフェンス(惑星防衛)」に役立つ技術の獲得にもつながったという。
フライバイは探査機が天体の上空にとどまらず、近くを通過する際にごく短時間、探査をする運用法。はやぶさ2は最接近時に目標点を目指すため、まず地上と通信しつつ、加速用のイオンエンジン(電気推進エンジン)を噴射して軌道制御を繰り返した。先月5日午後には、機体のコンピューターによる自律制御に移行。同6時半、トリフネに最接近して通過した。
最接近時は地球から1億キロのかなたで、相対速度は秒速5.3キロ。詳しい解析の結果、この時の距離はトリフネの中心から約744メートル、表面から約400メートルだったことが分かった。中国の月周回機「嫦娥(じょうが)2号」が2012年、小惑星トータティスの表面から770メートル程度まで近づいた記録を上回り、小惑星フライバイの最短距離を更新した。
JAXA宇宙科学研究所の竹内央(ひろし)教授は先月30日のオンライン会見で、一連の軌道制御の経過が極めて良好だったことを説明。「オンボード(自律)の制御によって、地上(との通信による制御)ではできない、この最接近距離に到達した。非常に奇麗に制御できた」と話した。ただ最接近直前の10分ほど、探査機が天体を撮影して位置関係を割り出す「光学航法」のデータを取り込めず、精度に悪影響が生じた。こうして最接近時に目標点から約120メートルずれたが、トリフネの中心から約800メートルとした計画を結果的にかえって上回り、約744メートルを達成した。
トリフネは2つの小惑星が衝突して結合してできたとみられ、くびれのある雪だるまのような形をしている。詳しい解析により、長さ約840メートル、幅約340メートルと分かった。トリフネの軌道も、フライバイ探査を通じて精度よく推定できたという。
小惑星フライバイで今回初めて実現したレーザー測距は、レーザーを対象に照射して跳ね返ってくるまでの時間を基に距離を求める技術。トリフネ最接近の約4秒前と約3秒前、それぞれ約20キロと約15キロの距離で測距に成功した。

レーザー測距の概念図。はやぶさ2は1秒に1回レーザーを照射。トリフネから約20キロと約15キロの距離で測距に成功した(JAXAなど提供)
はやぶさ2は2018年6月~19年11月、別の小惑星リュウグウの上空にとどまり、着地して試料を採取するなどしている。吉川真准教授は「当時、リュウグウには秒速数十センチかそれ以下の速度で降下した。そのために作ったレーザー高度計であり、今回のように秒速5.3キロの高速で使うことは想定していなかった」と説明。JAXAなどは「馬を御(ぎょ)しながら姿勢を整え、的を捉えた一瞬を逃さずに矢を放つ流鏑馬(やぶさめ)のごとく、高速で移動する探査機から小さなトリフネにレーザーを当てた」などと、成果の価値を表現している。
フライバイ探査により、写真撮影や赤外線カメラなどによる観測にも成功した。理学の成果について、吉川氏は「結構良い観測データが取れて解析が進んでおり、期待してほしい」とした。
フライバイ探査での最接近記録更新やレーザー測距の成功を通じ「今後の探査の自由度を上げるような、大きな成果が得られた」(竹内氏)。プラネタリーディフェンスの分野では、地球に衝突するおそれのある天体に機体を衝突させ、軌道をそらすための高精度の制御技術を実証した。地球に衝突する天体が見つかり、かつ時間の猶予が短い場合は、既に別の目的で航行中の探査機を向かわせて緊急探査をすることが考えられる。その有効性も確認した形だ。
チーム長を務める三桝(みます)裕也研究開発主幹は「頑張ってきたチームを誇りに思う。探査機が素晴らしい成果をまた出してくれた」と話した。
はやぶさ2は2020年にリュウグウの試料を地球に届け、再出発してから今月14日時点で既に56億キロあまりを航行。地球から6800万キロほどの位置にある。今後は27年12月と28年6月の2回にわたり地球の引力を利用して軌道変更する「スイングバイ」を経て、31年7月に最終目的地の小惑星1998KY26に到着する計画。片道切符で、地球に再び帰ることはない。

刻々と移動し、トリフネをフライバイ探査するはやぶさ2の想像図。探査前に描かれたもので、トリフネの形状は実際とやや異なる(池下章裕氏提供)
|
関連記事 |


