京都大学(京大)は5月8日、観測史上最高クラスのエネルギーを持つ「アマテラス粒子」を含む100エクサ電子ボルト(EeV)超の超高エネルギー宇宙線の起源について、鉄よりも重い「極重宇宙線原子核」を想定したエネルギー損失過程の計算により、最高エネルギー領域では陽子や中間質量原子核よりも地球へ到達しやすい特性を持つことを明らかにしたと発表した。
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超高エネルギー極重宇宙線原子核が伝搬する模式図。中性子星連星合体や大質量星の重力崩壊型超新星爆発で合成された極重原子核が加速され、宇宙背景光と相互作用しながら地球へ届く様子が表されている。作成:B. T. Zhang and K. Murase(Google SlidesおよびそのAI支援機能を使用)(出所:京大プレスリリースPDF)
同成果は、京大 基礎物理学研究所のB.Theodore Zhang特任助教(現・中国科学院准教授)、同・村瀬孔大特任教授(米・ペンシルベニア州立大学教授兼任)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する旗艦学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
宇宙空間には、無数の陽子や原子核などの荷電粒子が高エネルギーで飛び交っており、それらは宇宙線と呼ばれる。宇宙線は、太陽起源の低エネルギー成分、天の川銀河内起源の高エネルギー成分、そして天の川銀河外を起源とする可能性もある超高エネルギー成分の大きく3タイプに分類される。
中でも、地上の加速器を遥かに凌駕するエネルギーを有するのが、100EeVを超える超高エネルギー宇宙線だ。100エクサとは1020(1垓=100億×100億)を意味し、約16ジュール(J)のエネルギーに相当する。このような超高エネルギー宇宙線は1960年代に発見されたが、宇宙のいかなる場所で、どのようなメカニズムにより加速されているのかは、60年以上にわたり未解明のままだった。
その後、陽子、通常の軽い原子核、重い鉄原子核と、複数のタイプの荷電粒子を想定した上で銀河磁場によって曲がる効果を考慮し、アマテラス粒子の飛来方向を遡る探索が行われた。しかし、起源と成り得る有力な天体が存在しない宇宙の空洞のような領域に行き当たったとする。
そのため、アマテラス粒子の正体や起源を理解する上で、これまで十分に検討されてこなかった鉄よりも重い原子核である「極重宇宙線原子核」という選択肢が浮上。極重宇宙線原子核は、中性子星連星合体や大質量星の崩壊など、中性子に富んだ極限環境で合成されると考えられている。そこで研究チームは今回、この重い原子核に注目したという。
今回の研究では、超高エネルギーの極重宇宙線原子核が宇宙空間を伝わる物理過程について、極めて詳細な計算が実施された。超高エネルギー宇宙線は、宇宙マイクロ波背景放射や銀河系外背景放射光などの宇宙背景光と相互作用しながらエネルギーを失っていく。特に原子核の場合は、光との相互作用によって核子を失う光崩壊反応や、電子・陽電子対生成などが重要となる。
従来の宇宙線伝播計算では、鉄より重い原子核は十分に考慮されてこなかった。今回の研究では、セレン、テルル、プラチナなどを含む多数の極重原子核について、光崩壊反応や不安定核の崩壊データを組み込んだ新たな伝播計算が実施された。その結果、100EeV超の最高エネルギー領域では、極重原子核が陽子や中間質量原子核よりもエネルギーを失いにくく、比較的長距離を生き残って地球まで到達し得ることが判明した。
さらに、TA実験やアルゼンチンの「ピエール・オージェ(PA)観測所」によるエネルギースペクトルおよび宇宙線組成の観測データとの比較を通じ、極重宇宙線原子核成分の寄与がどの程度許容されるかの評価が行われた。その結果、宇宙最強の爆発的天体現象であるガンマ線バーストの起源の可能性がある、中性子星連星合体や大質量星の重力崩壊型超新星爆発で加速された極重宇宙線原子核の寄与は、現在の観測データと矛盾しない範囲にあることが確認された。
また、アマテラス粒子が極重宇宙線原子核であれば、銀河磁場による偏向が大きくなるため、陽子や軽い原子核、鉄原子核などを想定した場合とは異なる方向に起源天体が存在し得ることが示された。これにより、アマテラス粒子が起源天体の見当たらない宇宙の空洞領域から飛来したように見えるという矛盾を解決できる可能性があるとした。
今回の成果は、宇宙線の起源天体を探る上で新しい視点を与えるものである。研究チームによる予言の1つは、極重原子核が最高エネルギーで主要な成分である場合、地球の大気との衝突により発生する二次宇宙線の空気シャワー観測から推定される平均組成が、鉄よりも重い方向へ変化する点だ。この特徴は、PA観測所の性能向上計画など、将来の宇宙線観測計画によって検証できる可能性がある。
さらに、今回の研究手法は、北半球のTA実験と南半球のPA観測所のデータから示唆される、最高エネルギー宇宙線スペクトルの相違を理解する鍵にもなるという。近傍で生じた中性子星連星合体や大質量星の重力崩壊型超新星爆発のような天体現象で加速された極重原子核を考慮することで、両者の観測結果を統一的に説明できる可能性が提示された。
一方で、極重原子核が合成された後、天体内部で破壊されずに加速され、宇宙空間へ脱出できるのかどうかなど、中性子星連星合体や大質量星の重力崩壊型超新星爆発などの天体物理についての理論研究を進めていく必要があるとする。今後は、ガンマ線やニュートリノを含むマルチメッセンジャー観測も、最高エネルギー宇宙線の起源天体に迫る重要な手段となることが期待されるとしている。