2025年度連結業績において、NECの売上収益が20年ぶりに富士通の売上収益を上回った。なにかにつけて比較されることが多く、企業文化も似ていると言われる両社だが、この20年間は売上収益には大きな差がついていた。NECと富士通の20年間を、業績推移をもとに振り返る。

NECが20年ぶりに売上収益で富士通を逆転

報道関係者やアナリストを対象にした2025年度連結業績の説明会は、富士通が4月28日午後3時45分から、NECが同時午後4時30分から開催され、いずれもオンラインだけで実施された。

富士通は、次期中期経営計画の骨子についても説明したため、質疑応答を含めて約1時間50分という長丁場となり、45分後にスタートしたNECの説明会の方が先に終了するという異例の状況になった。

NECはその時点で、5月12日に次期中期経営計画の内容について発表するとしていたため、中期経営計画の内容については先送りにしており、そこに両社の会見時間の差が出たといえる。ちなみに、富士通も5月28日に次期中期経営計画の詳細を発表することを、この日の説明のなかで明らかにした。

両社が同日に発表した2025年度連結業績では、20年ぶりとなる出来事が起きていた。それは、NECの売上収益が富士通の売上収益を上回ったのだ。

NECの売上収益は前年比4.7%増の3兆5827億円となったのに対して、富士通の売上収益が前年比1.3%減の3兆5029億円となり、営業利益はNECが同40.3%増の3599億円となったのに対して富士通は同31.4%増の3483億円となり、ここでもNECが上回った。

  • 2025年度連結業績においてNECが売上収益で富士通をわずかながら上回った

    2025年度連結業績においてNECが売上収益で富士通をわずかながら上回った

過去の資料を見てみると、NECが富士通の売上収益を上回っていたのは、2001年度から2005年度までの5年間。2006年度に富士通が逆転してから、20年間にわたり富士通がNECを上回っていた。

それ以降、富士通は4兆円台の売上収益を維持してきたのに対して、NECは、一時は3兆円を割り込む水準にまで縮小。2009年度以降は、売上収益で1兆円以上の差がつき、2015年度には最大となる1兆9180億円もの差がついたこともあった。

過去には、ほぼ同じ水準で推移していた両社の売上収益だったが、一時はNECの売上収益が富士通の約3分の2以下にまで縮小するという事態も起きていたのだ。

歴史を振り返ると、両社の明暗が大きく分かれたのは、2008年度だ。NECはリーマンショックの影響を受けて業績が悪化。営業利益では62億円の赤字、最終損失では2966億円の赤字を計上したのに対して、富士通の営業利益は687億円の黒字、最終損失は1123億円の赤字にとどめた。

さらに、2009年度の売上収益はNECが3兆5831億円と前年比15%減少させたのに対して、富士通は前年並みの4兆6795億円を維持。2008年度には4773億円だった売上収益の差は、2009年度には1兆964億円へと一気に広がった。ここには経営体質の差と、事業戦略の差があったといっていい。

NECの構造改革 - コンシューマ撤退からの立て直し

まずはNECから見てみよう。2008年度以降のNECは、長年にわたる構造改革に取り組むフェーズだった。半導体事業の低迷の影響を受けて、2010年に設立したルネサスエレクトロニクスを、2013年度には産業革新機構が中心となって再生することとなり、NECは主要株主から外れることになった。

  • NEC 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏

    NEC 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏

2011年にはPC事業をレノボグループに移管したのに続き、2014年にはインターネットサービスであるBIGLOBEの売却、そして2016年には携帯電話事業を終了。これにより、NECはボラティリティが高いコンシューマ向け事業の整理を完了することになった。

だが、経営体質の弱さはその後も露呈した。2012年度を最終年度とする中期経営計画「V2012」や「2015 中期経営計画」は未達。2016年度にスタートした「2018中期経営計画」に至っては、わずか1年で計画を撤回。2018年1月に、2020年度を最終年度とした「2020中期経営計画」を改めて発表する事態となるほど経営体質が脆弱化していた。

このころ「富士通と日立があれば、NECはいらないのではないか」という声が聞かれた。電機大手8社のなかで売上収益が7番目となっていたNECが打ち出した「2020中期経営計画」では、2020年度の売上収益目標を3兆円としていた。

それに対して、鴻海傘下で業績回復を図っていた8位のシャープが打ち出した中期経営計画が、2019年度に売上高3兆2500億円を目標としており、NECの最下位転落も取り沙汰された。

しかし、NECでは2013年に「社会価値創造型企業」に変革することを宣言。自らの存在価値を明確にするとともに、これを第3の創業と位置づけ、継続的な構造改革と体質改善を図り続けていた。

2020中期経営計画では、売上高3兆円に対して2兆9940億円とわずかに届かなかったが、営業利益は1500億円に対して1538億円、当期利益は900億円に対して1496億円と達成し、体質改善の成果を示した。

2018年から2020年にかけては、NEC Software Solutions UK(旧Northgate Public Services)、KMD、Avaloqの欧州3社を買収して、海外DGDF(デジタルガバメント/デジタルファイナンス)の事業体制を確立。昨今では、テレコムサービス事業の大胆な再編による体質改善、日本政府による防衛予算の拡大による宇宙・防衛事業の拡大も追い風となっている。

「BluStellar」が牽引、NECの成長モデルと営業利益率10%への道

なかでも、成長の原動力となっているのが新たな価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」である。2019年に、DX(デジタルトランスフォーメーション)専任組織を立ち上げ、オファリングの提供を開始。2024年には、これらの取り組みをベースに、BluStellarを発表した。「創業3.1」と位置づけて、新たなビジネスモデルを拡大している。

2025年度のBluStellarの売上収益は前年比30.0%増の7050億円、調整後営業利益は前年から358億円増の1020億円となり、国内ITサービスにおける売上構成比は32%を占めている。計画を上回る成長を続けており、これが富士通との逆転劇に大きく貢献している。

2026年度から「BluStellar 2」として、AX(AIトランスフォーメーション)化を軸とした新たなステージに入り、「BluStellar 3」に入る2030年度には売上収益1兆3000億円を目指し、NEC全体の成長を支えることになる。

NEC全体の営業利益率の推移をみると、BluStellarによる収益性の改善が明白だ。2018年度までの3年間の営業利益率は2%前後となっていたが、DX専任組織を設置した2019年度には営業利益率は4.1%に改善。その後も5%前後で推移し、BluStellarを発表した2024年度には7.5%、2025年度には10.0%に達している。

新たに発表した「2030中期経営計画」では、さらなる成長戦略を打ち出しており、NEC 取締役 代表執行役社長兼CEOの森田隆之氏は「長期的には、Non-GAAP営業利益で年率15%の成長を継続する会社、Non-GAAP EPS成長では年率15%以上を継続できる会社を目指す」としている。中計未達の常習犯だったNECの姿をいまは見ることはない。

  • NECの2026年度における業績予想

    NECの2026年度における業績予想

富士通の構造改革、売上規模を維持しつつポートフォリオを転換

一方、富士通はNECのような急激な売上収益の下落はなく、構造改革の効果によって、20年間に渡り、緩やかな下降を見せ、2017年度までは4兆円の規模を維持しながら、体質改善を進めてきた。

リーマンショックの影響を受けた2008年度は、1123億円の最終赤字を計上したが、2009年度は930億円の最終黒字へと転換して以降は、ハードウェアを中心としたノンコア事業の再編に本格的に着手した。

2011年度に赤字に陥って以降、赤字体質から抜け出せなかったPC事業は、2017年にレノボグループに売却し、同様に赤字が継続していた携帯電話事業は2018年にポラリス・キャピタル・グループに売却(2023年からはレノボグループに事業移管)。

さらに、これを前後して、ハードディスク事業の東芝への売却、カーエレクトロニクスの富士通テンをデンソーに売却した。そのほかにも、ニフティや富士通コンポーネントの事業売却、富士通フロンテックの再編や、富士通Japanの発足による国内営業体制の再編など、大胆な構造改革に取り組んできた。

2019年に代表取締役社長兼CEOに時田隆仁氏が就任して以降、構造改革の取り組みはさらに加速している。時田氏は「2020年度から6年間にわたって、収益性の高いサービスソリューションビジネスを中心とする事業ポートフォリオへの変革を進めた。また、人材を含む経営基盤の強化、システムやプロダクトの開発およびデリバリーの標準化、効率化、自動化を進め、収益力を高めてきた」と振り返っている。

  • 富士通 代表取締役社長兼CEOの時田隆仁氏

    富士通 代表取締役社長兼CEOの時田隆仁氏

2022年にPFUをリコーに売却したことに続き、2025年には新光電気工業を産業革新投資機構(JIC)に売却を完了したほか、FDKを台湾PSAグループに、富士通ゼネラルをパロマ・リームホールディングスに売却。さらに、富士通オプティカルコンポーネンツを古河電工に売却した一方で、ドイツのGK Software SEやブレインパッドを買収している。

Uvanceの拡大で高収益モデルへ転換

ここにきて、一気に構造改革の打ち手が増えている。実は、2025年度の売上収益でNECに逆転を許した背景には、これらの大規模なハードウェア事業の売却の影響がある。

ちなみに、営業利益でもNECに逆転されているが、事業売却益が含まれる当期純利益は4494億円となり、NECの2702億円を大きく上回っている。

  • 営業利益では富士通がNECを大きく上回る

    営業利益では富士通がNECを大きく上回る

利益体質の向上に向けては、社内カルチャーの変革も影響している。富士通では2020年から全社DXプロジェクト「フジトラ(Fujitsu Transformation)」を始動し、自らをIT企業から、DX企業へと転換するために「経営のリーダーシップ」「現場が主役 全員参加」「カルチャー変革」の3つのキーポイントに掲げ、変革に挑んできた。

一方、2021年10月には、成長ドライバーと位置づけるソリューションブランド「Uvance(ユーバンス)」を発表。社会課題を起点に市場創造や高付加価値化を進めるビジネスモデルとし、従来のSIモデルからオファリングを提供するモデルへの転換も目指してきた。

時田氏は「Uvanceは、これからも富士通の事業の中核であり続ける」と位置づけており、2024年にはコンサルティング事業ブランド「Uvance Wayfinders」を発表。2025年度には、金融分野向けの「Uvance for Finance」、小売分野向けの「Uvance for Retail」を体系化しており、これらを「Uvance Edge」と呼び、2026年度以降には、これらのオファリングをさらに強化することになるという。

また、2026年4月には中堅民需向けERPソリューションを「GLOVIA One」として刷新し、これもUvanceのオファリングとして提供する考えを示している。実際、Uvanceの成果は、着実に表れている。2025年度のUvanceの売上収益は前年比46.9%増の7093億円となり、サービスソリューション全体に占める売上構成比は30%に拡大した。

それに伴い、富士通全体の営業利益率は時田氏が就任した2019年度以降、5%以上を維持し、2024年度には7.5%、2025年度は9.9%に達した。全社連結の調整後営業利益率では、2025年度実績で11.2%となり、主力となるサービスソリューションでは15.4%という高い水準を維持している。

時田氏は「中期経営計画の最終年度となる2025年度に、利益率が2桁台となったことは大きな成果。全社連結の利益率で10%超、サービスソリューションの利益率で15%超という数値は、富士通の経営において通過すべきマイルストーンであると考えていた。これを達成することができた」と自己評価する。

営業利益率10%という目標は、富士通の歴代社長が掲げながらも達成できなかった数字だ。この30年間の営業利益率の推移を見ても、2018年度までは2~3%台で推移しており、10%という目標にはまったく及ばない状況が続いていた。それが、2019年度以降に状況が大きく変化。2025年度は最高益を達成しているのだ。

  • 富士通の2026年度における業績予想

    富士通の2026年度における業績予想

事業売却と成長モデルが分けた明暗

NECと富士通の約20年間にわたる業績推移をみると、両社ともにコンシューマ領域の事業を終息させ、ノンコア事業として捉えるハードウェア事業の整理にも一応のめどをつけ、それが収益性の向上につながっているのは明らかだ。

かつては売上収益で、5兆円規模で並んでいた両社が約20年間の構造改革をそれぞれに進めた結果、道筋の違いはあったものの、ここにきて3兆5000億円規模で改めて肩を並べることになった。

両社ともに、一時的に比べると売上収益は縮小しているが、2025年度実績では過去最高益を達成しており、体質が強固なものになっていることが示されている。2026年度の業績見通しはNECが3兆5000億円に対して、富士通は3兆5100億円と、計画上では富士通の再逆転が見込まれるが、目標数値が僅差だけに着地の行方はわからない。

ただ、今後の方向性を見ると、NECのBluStellar、富士通のUvanceによる人月モデルからの脱却に向けた新たな取り組みでは両社ともに足並みを揃えるが、NECはメインフレーム事業を継続するのに対して、富士通は2030年度にメインフレームの販売終了を予定。

その反面、NECは基地局事業を終息するのに対して、富士通は継続する意向を示すなど、それぞれの方針が異なる部分もある。20年間を経て、再び同じ事業規模とポートフォリオを持ったNECと富士通の「ライバル競争」は、新たなフェーズに入るといってもいいだろう。