宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月13日、文部科学省の宇宙開発利用部会/調査・安全小委員会において、H3ロケット8号機の打ち上げ失敗に関する原因調査状況を報告した。前回、原因は「衛星搭載アダプタ(PSS)の剥離」でほぼ特定されていたが、その後の解析が進み、破壊に至るメカニズムまで検証が完了、これが原因であると結論付けた。
JAXAからの報告について、調査・安全小委員会は内容を妥当と評価。今後、中間まとめを作成し、次回の宇宙開発利用部会で提出する予定だ。今回、打ち上げ再開の時期について言及はなかったものの、RTF(Return To Flight)となる見込みのH3ロケット6号機では、製造済みのPSSを補修して打ち上げに使用するという方針が示された。
シミュレーションでPSSの破壊が再現
H3ロケット8号機で問題が発生したのは、衛星の荷重を支える土台である衛星搭載アダプタ(PSS)。これは、内部のハニカムコアを表面のスキンで挟んだ構造になっており、スキン/コアの結合には接着剤が使われているが、製造時に生じた剥離がフェアリング分離時の衝撃で一気に拡大。PSS全体の破壊につながったと考えられる。
同ロケットの打ち上げ失敗から約4カ月。今回、ついに原因の特定に至ったわけだが、そのメカニズムについては、おおむね前回の報告にあった推測の通り。今回は、さらに解析が進み、発生した現象の全貌がより詳細に見えてきた。
まず、PSS製造時にスプライス間で剥離が発生したメカニズムについては、主要因を「スプライス接着工程で想定以上の高温が負荷されたことによる接着強度の低下」と「ハニカムコア内の空気の膨張」と評価。前回、パネル保管時の吸湿による接着強度の低下の可能性も報告されていたが、影響としては高温化の方が大きいとした。
PSSのハニカムコア内には空気が閉じ込められるため、フライト時には気圧差によって外側への荷重が発生するが、設計時の想定では、接着強度は発生荷重より数十倍大きく、十分耐えられるはずだった。しかし製造時、高温化によって接着強度は1/10程度に低下。さらに吸湿による影響も加わり、空気の膨張により荷重が増加した結果、剥離が生じた。
一方、サイズは小さいものの、スプライス下にも剥離が見つかっていた。こちらは規定内の温度だったが、発生場所がハニカムコアの継ぎ目付近であることが判明。継ぎ目の部分は、接着剤が付いている面積がほかより狭くなっており、その分、接着強度が小さかった。そのため、規定温度内でも剥離が発生したと考えられる。
フライト時、高度が上がって外部が真空になると、ハニカムコア内の空気との気圧差により外側への荷重が発生し、剥離が進展する可能性がある。これについて、PSSパネル全体を真空チャンバーに入れて、挙動を検証。剥離はわずかに進展しただけであり、これまでの解析と合わせ、広範囲に拡大することはないと結論付けた。
さらに、フェアリング分離時の衝撃で剥離がどう進展するのか確認するため、PSSをモデル化し、シミュレーションでの解析を行った。剥離サイズを変えた複数ケースを試したところ、平均的なサイズ2個の場合だと大きな進展がなかったのに対し、実機で見られた大きめのサイズ2個の場合、数msという短時間で一気に拡大する様子が再現された。
また、剥離の拡大によってPSSが破壊に至るのか確認するシミュレーションも行った。剥離領域を初期条件に実施したところ、広い範囲でPSSの変形が発生。剥離はさらに拡大し、周方向に広がった各剥離領域が繋がり、破壊に至った。剥離したスキンは衛星の荷重で炭素繊維が損傷、主構造として必要な強度・剛性を喪失することも分かった。
これらの解析結果は、8号機で発生した事象を矛盾なく説明できており、JAXAは事象の発生メカニズムを示すことができたと評価。他のフライトデータとも整合することから、これが8号機失敗の「主要因である可能性が極めて高い」と結論付けた。
今回、直接的な原因は特定できたものの、大きな疑問としての残るのは、なぜ、こんな大きな剥離の発生に気付けず、そのままフライトさせてしまったのか、ということだ。今後、別の問題の発生を見落とさないようにするためにも、技術以外の観点を含めた背後要因分析で深掘りし、最終報告としてまとめる予定だ。
6号機で補修案を採用する意外な理由
製造工程で生じた剥離が原因であったことから、今後の対策としては、PSSから剥離をなくすことが基本となる。前回、JAXAからは補修案とファスナ結合案の2案が示されていたが、技術的な成立性、重量・コスト等へのインパクト、実機反映計画等を検討した結果、以下のように方針を決定した。
両案とも、十分な強度の余裕を確保することが可能なものの、当面はファスナ結合案を採用する。ファスナ結合では、パネル同士をボルトで結合するため、高温になる接着工程がなく、リスクを根本的に排除できる。H3のPSSでは初とはいえ、ファスナ結合はH-IIAでも使われていた方式であり、十分な実績がある。
H3用に新たに設計を行い、今回、その結果が示された。今後、実機サイズのPSSで強度試験を実施し、問題ないことを確認した上で、フライト品を製造。その最初の製造品については確認試験を行い、結合部がフライト荷重に耐えられることを実証してから、打ち上げに使用する計画だ。
ただ、RTFとなる見込みの6号機(30形態試験機)では、ファスナ結合案ではなく、補修案を採用する。今後、ファスナ結合方式に変更するのであれば、「そのPSSを使って飛行実証するのでは?」と思うだろうが、6号機のみ補修案で行くというのは、PSSの歪データ等、追加のフライトデータを取得するのが主な目的であるからだ。
今回、PSSの剥離が原因と特定できたものの、FTA(故障の木解析)では、いくつか排除しきれない要因が残った。これまでの原因究明結果が間違いでないことをさらに裏付けるためには、以前のフライトでは取得していなかったデータまで確認したい。ファスナ結合だと条件が大きく変わってしまうので、8号機の状態に近い補修方式の方が都合が良いのだ。
補修方式では、すでに製造済みのPSSからスプライス間のスキン/コアを除去し、補修することで剥離をなくす。樹脂を充填した補修部を覆うときに接着が必要になるが、ここで加熱してはまた剥離が生じかねないため、この工程は常温接着で行う。すでに実機相当のパネルで試し、実施可能であることを確認済みだという。
今後、補修したPSSで強度試験を実施し、フライト時の2倍以上の荷重に耐えられるか等を検証。フライト品については、1.25倍の荷重をかける試験を行い、補修部で剥離が発生・進展しないことを確認する。強度試験は近々実施する予定とのことで、ファスナ結合案より早く対策が進められそうだ。
しかし、試験機である6号機で補修方式を採用するとなると、ファスナ結合方式にした最初の打ち上げでいきなり主衛星を搭載することになってしまうが、JAXAは両方式とも、事前の強度試験などを行うだけで対策の実証が可能と判断。実フライトでの検証は不要と考えているとのことだ。
当面はH-IIAと同様のファスナ結合方式に戻す一方、JAXAは恒久的な対策については時間をかけ、別途考えていく方針。H3では、軽量化・低コスト化のために新方式の接着結合を採用したという経緯もあり、製造工程を改善することで剥離の発生をなくせれば、再び接着結合にする可能性も十分あるだろう。
なお6号機は、3月15日に実施した再CFT(実機型タンクステージ燃焼試験)が無事完了。1回目のCFTで問題が見つかったタンクの加圧機能は、対策の結果、良好であることが確認され、打ち上げに向けて大きく前進した。あとは、補修したPSSの試験が無事に完了すれば、いよいよ機体側の準備が整う。
現在、日本はイプシロンSの開発が難航し、スペースワンのカイロス3号機も失敗。国内で衛星を打ち上げる手段がないという異常事態になってしまっていたが、ようやく解消の見込みが立ったのは朗報といえる。しかもRTFが、日本の大型ロケットとしては前例のないブースタなしの30形態となれば、さらに注目を集めることになりそうだ。
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