名古屋市立大学(名市大)と東京大学(東大)の両者は4月30日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球周回紫外線宇宙望遠鏡「ひさき」(2013~2023年運用)に搭載された「マイクロチャンネルプレート検出器」のダークカウントの変動について、説明可能な機械学習を用いて2013年から2018年の観測データと太陽活動・地磁気データを統合解析した結果、従来主要因と考えられていた「コロナ質量放出」に加え、太陽フレアに伴うX線変動が遅延なく検出器応答に影響する可能性が明らかにされたと共同で発表した。
同成果は、名市大大学院 データサイエンス研究科の古賀亮一特任助教、東大大学院 新領域創成科学研究科の吉岡和夫准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、天文学と宇宙科学を扱うオープンアクセスジャーナル「Frontiers in Astronomy and Space Sciences」に掲載された。
「ひさき」は、主に太陽系内の惑星を観測対象として地球周回軌道に投入された極端紫外線宇宙望遠鏡で、2013年9月の打ち上げから2023年12月まで運用が行われた。同望遠鏡に搭載されたマイクロチャンネルプレート検出器は、電子増倍機構を持つ高感度なデバイスで、本来は紫外線光子を捉えるものだ。しかし、宇宙線や放射線帯粒子などの影響により、信号とは無関係に検出器が応答して発生する「ダークカウント」が不可避的に存在していた。
このダークカウントは単なるランダムノイズではなく、宇宙線や太陽活動、地磁気環境などの影響を受けて時間変動することが知られていた。しかし、その変動要因は複数の物理過程が複雑に重なり合っているため、具体的にどの現象がどの程度寄与しているのかを定量的に分離・評価することは、これまで困難とされてきた。
特に、太陽フレアやコロナ質量放出などの激しい太陽活動が検出器に与える影響については、経験的な関連性は指摘されていたものの、観測データに基づいた定量的な評価や因果関係の解釈は十分に行われていなかった。そこで研究チームは今回、機械学習を用いて複雑な要因の相関をモデル化すると共に、その内部構造を解釈可能にすることで、ダークカウント変動の物理的起源の解明を目指したという。
今回の研究では、2013年から2018年にかけて「ひさき」が取得したマイクロチャンネルプレート検出器のダークカウントデータが対象とされた。同衛星の軌道情報(位置・磁気緯度・ローカルタイムなど)に加えて、GOES静止衛星によるX線フラックス、陽子・電子フラックス、磁場強度、地磁気擾乱の強さを示す指標である地磁気指数「SYM-H」を統合した機械学習モデルが構築された。さらに、モデルの予測に対する各要因の寄与を定量化する手法「SHAP」を用いることで、各特徴量がダークカウント変動に及ぼす影響が時間ごと、あるいはイベントごとに個別評価された。
そして解析の結果、ダークカウントの急増イベントは一様な原因では説明できず、イベントごとに支配的な要因が異なることが判明。これまで主要因と考えられてきたコロナ質量放出に伴う高エネルギー粒子の増加だけでなく、太陽フレアに伴うX線強度の増加が、ほぼ時間の遅延なくダークカウントを増大させるケースが存在することが突き止められた。これにより、粒子到達後に影響が現れるという従来の認識とは異なる、光速で伝播するX線による即時的な応答の存在が示唆されたとした。
今回の研究は、観測装置のノイズを単なる除去対象ではなく「宇宙環境を反映する信号」として捉え直した点に大きな意義があるとのこと。これにより、宇宙望遠鏡データの信頼性向上や、宇宙天気現象の新たな観測手法の開発につながる可能性があるとした。今後は、他の衛星データへの応用や、リアルタイムの異常検知システムへの展開が期待されるとしている。
