宇宙航空研究開発機構(JAXA)と名古屋大学(名大)の両者は4月22日、X線分光撮像衛星「XRISM」を用いて、スターバースト銀河「M82」の中心領域に存在する多数の超新星爆発によって加熱された高温ガスの速度の広がりを精密に測定した結果、従来予測を上回る大きな運動エネルギーを持つことが明らかとなり、超新星爆発のエネルギーの大部分が高温ガスとして蓄えられている可能性が示されたことに加え、この高温ガスが周囲の物質を加速して「銀河風」という流れを駆動すると共に、その一部は銀河外へ流出しうることが示されたと共同で発表した。

  • M82の中心領域で生じた高温ガスが銀河スケールで広がるイメージ

    M82の中心領域で生じた高温ガスが、周囲の物質を巻き込みながら銀河スケールで広がるイメージ。矢印はガスの流れの方向を示す。青はX線(NASA/CXC/JHU/D.Strickland提供)、緑およびオレンジは可視光(NASA/ESA/STScI/AURA/The Hubble Heritage Team提供)、赤は赤外線(NASA/JPL-Caltech/University of Arizona/C. Engelbracht提供)を示し、異なる温度や状態の物質の分布に対応する。点線は銀河円盤を示す。(出所:XRISM公式サイト)

同成果は、名大大学院 理学研究科の三石郁之講師ら国内外140名弱の研究者が参加する国際共同研究チームThe XRISM Collaborationと、笹俣聖也大学院生、同・安福千貴大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、シュプリンガー・ネイチャー社が刊行する世界最高峰の総合学術誌「Nature」に掲載された。

銀河内の滞留と銀河外への流出の過程が明らかに

宇宙には網目状の大規模構造に沿って大小さまざまな銀河が存在しており、その数は地球から観測可能な「宇宙の地平線」までの範囲内(半径460億~470億光年)において、数千億から2兆にものぼるといわれている。

銀河内の星間空間に比べ、銀河間空間を漂う物質は希薄だが、それでも重元素を含む多様な元素が存在することが明らかにされている。天文学では水素とヘリウム以外の元素を重元素というが、鉄までの重元素の多くは星の核融合によって生成される。また、鉄よりも重い重元素は、超新星爆発の瞬間や、中性子星同士の衝突合体などによって生成されると考えられている。

本来、これらの重元素はいずれかの銀河内に存在していたものだが、銀河を脱出できるだけの猛烈な速度を経て、銀河間空間へと放出されたことを意味する。銀河の脱出速度は、その質量の大きさや中心からの距離によって変わるが、例えば天の川銀河の太陽系付近(中心から約2万6000~約2万7000光年)では、秒速500~600kmが必要と見積もられている。太陽系を脱出するための第3宇宙速度が、地球軌道付近からの場合は秒速約42kmであることを考えると、これは驚異的な速度だ。銀河の重力を振り切るほどのエネルギーをどうやって得るのか、その加速メカニズムの詳細は依然として大きな謎とされている。

同格の銀河同士の衝突・合体では、多量の星間ガスが衝突・圧縮されることで、太陽の8倍以上の質量を持つ「大質量星」が短期間に大量に誕生する。これら大質量星は生涯の最期に超新星爆発を起こすため、銀河中で連鎖的に超新星爆発が発生することになる。このような現象は「スターバースト」と呼ばれ、宇宙にはその最中にある銀河が存在する。

スターバースト銀河では、連続的な多数の超新星爆発により、星間ガスが強く加熱されて高温高圧のガスとなる。その結果、周辺物質を巻き込みながら銀河円盤を突き破り、銀河内外へと広がる流れが形成されると推測されている。これが、銀河内の重元素を銀河間空間へ運ぶ主要因とされる「銀河風」だ。銀河風は、多様な温度や状態の物質からなる銀河スケールの高速の流れとして認識されている。

しかし、銀河風の駆動源である高温ガスの運動を直接測定することはこれまで困難だった。特に、X線を放射する数千万℃の高温ガスの運動状態を精密に捉えるには、高いエネルギー分解能を持つX線分光観測が不可欠だ。そこで研究チームは今回、XRISM搭載の軟X線分光装置「Resolve(リゾルブ)」を用いて、地球から約1200万光年と比較的近傍にある代表的なスターバースト銀河「M82」の中心領域を観測したという。

観測は2024年5月に実施され、その結果、約2000万℃の高温ガスが放射するX線輝線の広がりから、このガスには、視線方向(地球に近づく方向・遠ざかる方向)に、それぞれ秒速約600kmという速度のばらつき(速度分散)があることが確認された。これは、高温ガスが予想より大きな運動エネルギーを持つことを意味しており、スターバーストによって生じるエネルギーの大部分が、高温ガスとして蓄えられていることを示唆している。

  • XRISMによって取得されたM82中心領域のX線スペクトル

    XRISMによって取得されたM82中心領域のX線スペクトルで、下段がスペクトルの全容で、上段が鉄輝線付近の拡大図。黒点は観測データ、曲線はモデルを表す。青線はガスの速度のばらつき(広がり)を考慮しない場合、赤線は視線方向に毎秒±600km程度の速度の広がりを考慮した場合のモデル。観測された輝線の広がりは、速度の広がりを考慮したモデルでよく再現されている。(出所:XRISM公式サイト)

さらに、この高温ガスのエネルギーがどのように分配されているかが精査された。解析の結果、エネルギーの約60%が分子ガスや中性ガス、電離ガスなどのより温度の低い物質を加速し、さまざまな温度や状態の物質からなる銀河風を形成するために使われていることが推定されたとした。残りの高温ガスは、銀河の重力を振り切って銀河間空間へと流出する可能性があるという。これらの結果は、宇宙線などの追加のエネルギー源を必要とせず、超新星爆発によって加熱された高温ガスのみで銀河風を十分に駆動できることを示唆するものだ。

M82は観測しやすい距離にある代表的なスターバースト銀河であり、この現象を物理的に調査するには理想的な天体だ。しかし、スターバーストを引き起こす要因やその規模は銀河によって異なる。今後、他のスターバースト銀河でも同様の観測を進めることで、この現象が宇宙全体の物質循環にどの程度寄与しているのかについて、より一般的な理解が進むことが期待されるとしている。