京都大学(京大)、千葉大学、東京理科大学(理科大)、東京大学(東大)の4者は4月28日、米国航空宇宙局(NASA)が国際宇宙ステーション(ISS)で運用するX線望遠鏡「NICER」と、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の極端紫外線分光器を搭載した惑星観測用宇宙望遠鏡「ひさき」(2013~2023年運用)による、おひつじ座UX星の多波長連携観測を実施し、恒星フレア発生時に放たれるX線の「鉄Kα輝線」の放射メカニズムを「光電離」と特定することに成功したと共同で発表した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要。おひつじ座UX星で発生した恒星フレアが、NICERと「ひさき」によって同時観測が行われた。X線・紫外線の時間変化を詳細に解析した結果、連続X線と鉄Kα輝線のピークが一致することが確認された。(出所:京大プレスリリースPDF)

同成果は、京大大学院 理学研究科の井上峻大学院生、千葉大 ハドロン宇宙国際研究センターの岩切渉助教、理科大 理学部 第一部物理学科の木村智樹准教授、京大 理学研究科の榎戸輝揚准教授、米・コロラド大学の野津湧太研究員、東大大学院 新領域創成科学研究科の吉岡和夫准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の学術誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

X線と紫外線の同時観測で起源を特定

恒星表面で突発的に起こる爆発現象であるフレアは、発生時に強力なX線を放射する。近年、その放射が系外惑星の大気流出を促す可能性が議論されているものの、遠方の恒星ではフレアの発生場所を特定することが困難であることが課題とされていた。

フレアのX線観測においてしばしば検出されるのが、6.4keVの中心エネルギーを持つ鉄Kα輝線である。これは、中性鉄原子のK殻電子が外的要因により電離され、空位となったK殻へL殻の電子が遷移する際に放射されるX線輝線だ。

しかし、フレア時のX線放射の主成分は、コロナ領域での「磁気リコネクション」(磁気のつなぎ替え)により形成される磁気ループを満たす、数千万度の高温プラズマからの放射である。この温度下では、鉄は激しく電離されたイオンとなるため、中性または低電離鉄由来の鉄Ka輝線は、高温プラズマではなく、より低温の星の表面かつ恒星大気の最下層である「光球」から放射されていると考えられてきた。

ただし、この輝線の形成メカニズムについては、長らく意見が二分されてきた。1つは、フレアループから放たれたX線が星の表面に到達して鉄原子を電離する「光電離」だ。もう1つは、フレア初期に磁気リコネクションで加速された高エネルギー電子が星の表面に衝突して電離を引き起こす「衝突電離」である。

もし光電離が主要因であれば、鉄Kα輝線強度は、発生場所と観測角度に依存する。そのため、現状の観測技術では遠方の星の表面を高精度に分解して観測できないものの、鉄Kα輝線はフレアの発生場所の推定や系外惑星への影響評価において有用な指標になるとされる。

そこで研究チームは今回、表面温度約4200℃のK型恒星「おひつじ座UX星」を対象に、X線の高精度観測を得意とするNICERと、惑星の観測を主目的とする紫外線宇宙望遠鏡「ひさき」を用いたX線・紫外線の同時観測を実施し、鉄Kα輝線の放射メカニズム特定を目指したという。

  • 今回の研究で使用された宇宙望遠鏡

    今回の研究で使用された宇宙望遠鏡。(左)NASAがISSで運用するX線望遠鏡「NICER」。(右)JAXAが運用する極端紫外線分光器を搭載した惑星観測用宇宙望遠鏡「ひさき」。(出所:京大プレスリリースPDF)

2018年11月16日 7時50分(日本時間)ごろ、おひつじ座UX星において、最大級の太陽フレアの1万倍以上に達する大規模なスーパーフレアが発生。NICERと「ひさき」は、それぞれX線と紫外線が急激に増光し、その状態が半日ほど継続する様子を観測。さらに、紫外線のピークがX線のピークより約1.4時間早く現れる「ニューパート効果」に相当する現象も確かめられた。

標準的なモデルでは、磁気リコネクションで発生した高エネルギー電子が星に向かって叩き込まれ、コロナ直下の大気層である「遷移層」を加熱して紫外線を放射し、その後、光球と遷移層の間にある「彩層」のプラズマが加熱されてコロナへと上昇することで、連続X線が放射されると考えられている。つまり、紫外線は高エネルギー電子、連続X線は高温プラズマの挙動を代表しているといえる。今回の観測により、他の恒星でも太陽とよく似た仕組みでフレアが発生していることが改めて示された。

加えて、NICERが取得したX線スペクトルから鉄Kα輝線が検出され、その光度の時間変化が解析された。その結果、輝線のピーク時刻が高エネルギー電子由来の紫外線ではなく、少し遅れて現れる高温プラズマに対応する熱的な連続X線と一致することが判明。これにより、鉄Kα輝線が光電離によって生じていることが強く支持された。

  • フレア発生時における紫外線、連続X線、および鉄Kα輝線の光度曲線

    フレア発生時における紫外線、連続X線、および鉄Kα輝線の光度曲線。紫外線が先行してピークに達した後、連続X線と鉄Kα輝線がほぼ同時にピークを迎える様子が示されている。(出所:京大プレスリリースPDF)

今回の研究により、今後は鉄Kα輝線を手がかりとして、遠方恒星のフレア発生場所の推定が可能になる。実際、研究チームは三次元輻射輸送計算コード「SKIRT」を用いたシミュレーションと観測データの比較により、今回のフレアの発生場所を大まかに推定することに成功したとする。なお輻射輸送計算とは、光と物質の相互作用を数値的に明らかにする計算を指す。

ただし、現在の計測精度では、フレアの発生位置の推定に大きな不確かさが残ることも課題として上げられた。そこで研究チームは今後、より高いエネルギー分解能を持つJAXAのX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」を活用し、鉄Kα輝線強度を精密に測定することで、フレアの構造や発生位置をより詳細に調査する予定とした。

さらに、本来は惑星観測だった「ひさき」によって恒星フレアの成果が得られたことは、紫外線観測の新たな可能性を示すものとなったとした。今回X線と紫外線を組み合わせたように複数の波長を用いた多波長観測は、今後ますます、天体現象の全体像を理解するための重要な手法になることが期待されるとしている。