ロシア国営宇宙開発企業ロスコスモスは2026年5月1日3時ごろ(日本時間)、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から、新型ロケット「ソユーズ5」の初の試験打ち上げを実施した。
ロケットは計画どおり飛行し、ダミー・ペイロードはサブオービタル軌道に到達した。その後、太平洋上の予定海域に落下し、試験は成功したという。
ソユーズ5は「ソユーズ」の名を冠しているものの、従来のソユーズ・ロケットとは大きく異なる設計の中型ロケットだ。打ち上げコストの低減を図りつつ、地球低軌道に最大17tを打ち上げる能力をもつとされる。
「ロシア版ゼニート」として開発されたソユーズ5
ソユーズ5(Soyuz-5)は、RKKエネールギヤとRKTsプログレースが開発を進めているロケットで、2017年まで運用されていた中型ロケット「ゼニート」の後継機にあたる。また、現行の「ソユーズ2」シリーズのロケットの後継機としても目されている。
ゼニートは、ロシア製のロケットエンジンを組み込みつつ、機体の製造はウクライナで行われていた。しかし、2014年のクリミア併合後にロシアとウクライナの関係が悪化し、供給網や運用体制を維持することが難しくなった。そこでロシアは、いわば「ロシア版ゼニート」として、国内で製造できる後継機を開発することを決めた。
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ソユーズ5は直径4.1m、全長最大65.2mの2段式ロケットで、打ち上げ能力は低地球軌道に約17t、太陽同期軌道に約9t、静止トランスファー軌道に約5tとされる。
第1段には、世界で最も強力な液体燃料ロケットエンジンのひとつである「RD-171MV」を装備する。これは、ゼニートなどで使われていたRD-171系エンジンの改良型だ。第2段には、「ソユーズ2.1b」ロケットなどで使われているRD-0124から派生した「RD-0124MS」エンジンを搭載する。
フェアリングは、直径4.1m、全長11.4mの標準フェアリングと、直径5.2m、全長18.3mの大型フェアリングを使い分ける。
また、オプションとして、「ブロークDM」上段の搭載が計画されているほか、ソユーズ5向けの新型上段「フレガートSBU」も検討・開発されている。
こうした設計から、ソユーズ5は「ソユーズ」という名前を持ちながら、従来のソユーズ・ロケットとの共通点は限られており、第2段エンジンがRD-0124系ということくらいである。
また、ソユーズ5は「ロシア版ゼニート」として開発された経緯を持つが、機体そのものはゼニートをそのまま置き換えたものではない。機体はやや大型化し、第2段エンジンの効率も上がっていることから、低軌道への打ち上げ能力はゼニートより3~4t向上している。さらに、アニソグリッド構造の段間部をはじめ、溶接・製造技術、第2段タンクの共通隔壁、複合材料、電子機器など、さまざまな点で刷新が図られている。
ただし、第1段の機体下部は、発射台システムとの適合性を確保するため、ゼニートに近い形状になっている。最もわかりやすい特徴は直径だ。機体の大部分は直径4.1mだが、下部のみ3.9mに絞られており、独特の外見をしている。これは、ゼニートで使っていた発射台に合わせて直径を揃えたためである。
ソユーズ5はまた、カザフスタン語で「スンカル」(「ハヤブサ」の意)とも呼ばれる。ロシアとカザフスタンは、2000年代半ばから、バイコヌール宇宙基地の発射施設を活用する共同事業「バイテレク」計画を進めてきた。この計画では、ロシアがロケットを開発し、カザフスタンが発射施設の整備・管理を担う。ソユーズ5にカザフスタン側の名称があるのは、こうした経緯による。
また、将来的には、極東のヴォストーチュヌィ宇宙基地や、ロシア企業が保有する海上設備からの打ち上げも計画されている。
ソユーズ5はロシアの主力ロケットになれるか?
ソユーズ5は、2017年ごろの開発初期には2021年ごろの初飛行も想定されていた。しかし、機体開発やバイコヌール側の地上設備整備の遅れに加え、2022年のウクライナ侵攻後の制裁や国際環境の変化も重なり、初飛行は大幅に遅れた。
今回、サブオービタル飛行ではあるものの初飛行を果たしたことで、ソユーズ5は基本的な飛行能力を実際の飛行で確認したことになる。なお、初期の試験飛行でダミー・ペイロードを載せ、軌道投入を行わない例は珍しくない。今後は、軌道投入を伴う打ち上げがいつ実現し、成功するかが焦点となる。
もうひとつの大きな焦点は、ソユーズ5がどれだけ存在意義を示し、安定した運用を続けられるかである。
ロシアは現在、主力ロケットのひとつとして「アンガラー」を運用している。アンガラーは、RKKエネールギヤやRKTsプログレースとは別会社のGKNPTsフルーニチェフが製造している。同一設計の第1段機体を組み合わせることで、小型ロケットと大型ロケットを構成する設計になっている。
これに対し、ソユーズ5は中型ロケットであり、一見すると、「小型・大型はアンガラー、中型はソユーズ5」という棲み分けが成立しているようにも見える。しかし、役割が分かれていることと、安定した打ち上げ需要を確保できることは別問題だ。ソユーズ5がアンガラーと並ぶ主力ロケットのひとつとして定着するには、運用面と需要面の課題を乗り越える必要がある。
まず、運用面では打ち上げ場所の制約が大きい。ソユーズ5は現状、バイコヌール宇宙基地以外からの打ち上げが想定されておらず、飛行経路や落下域の制限から、極軌道への投入は難しい。一方、アンガラーはプレセーツク宇宙基地とヴォストーチュヌィ宇宙基地を使用できるため、より幅広い打ち上げ需要に対応できる。このため、ソユーズ5はアンガラーの競合にも補完にもならない。
需要面の課題もある。そもそもソユーズ5の原型にあたるゼニートは、末期には打ち上げ需要が低迷していた。後継機であるソユーズ5が登場しても、その需要がただちに大きく伸びるとは考えにくい。さらに、ロシアはウクライナ侵攻後、商業打ち上げ市場での地位を失い、国内全体での打ち上げ需要も少ない状況にある。そのため、ソユーズ5が安定した打ち上げ機会を確保できるかは不透明だ。
また、かつてソユーズ5は新型有人宇宙船「アリョール」の打ち上げ機として検討されていたが、現在は「アンガラーA5M」で打ち上げる計画へと変更された。このため、有人宇宙船の打ち上げに不可欠なロケットという位置づけもなくなった。
こうした課題を乗り越えるには、ソユーズ5を単なるゼニート後継機としてではなく、より広い枠組みの中で活用できるかがカギとなる。
ひとつは、ソユーズ5をヴォストーチュヌィや海上から打ち上げる構想が実現するかどうかだ。これが実現すれば、バイコヌールのみという運用面の制約がなくなり、より幅広い打ち上げ需要を担えるようになり、アンガラーを補完する役割も見込める。
もうひとつは、カザフスタンとのバイテレク事業を、より広い国際協力につなげられるかだ。バイテレクは、バイコヌール宇宙基地の役割を維持し、ソユーズ5の打ち上げ機会を確保するだけでなく、ロシアとカザフスタンの宇宙協力を維持する意味も持つ。
さらに、アジアやアフリカ、中東など、いわゆる「グローバル・サウス」諸国との協力を広げられれば、ソユーズ5の需要拡大にもつながる。西側を中心とする商業打ち上げ市場から距離を置かざるを得ない現状では、ロシアやカザフスタン以外の打ち上げ需要をどこまで取り込めるかが重要となる。
ソユーズ5がロシアの主力ロケットとして定着できるかは、こうした課題をどこまで解決できるかにかかっている。
参考文献


