世界初の人工衛星スプートニクが打ち上げられて以来、60年以上にわたって、「R-7」――のちに「ソユーズ」と呼ばれることになるロケットは、改良を重ねながら、宇宙開発の第一線で活躍し続けてきた。ソ連やロシアの衛星のみならず、欧州や米国、日本の衛星や宇宙飛行士も打ち上げるなど、まさに人類の宇宙活動を支えるワークホースである。

しかし近年、その輝かしい歴史にかげりが見え始めた。ひとつは改良では補えない設計の老朽化、もうひとつは頻発する失敗による信頼性の低下、そして米国の民間企業による、低コストかつ高性能なロケットの登場である。

そこでロシアは、起死回生をかけて、新型ロケット「ソユーズ5」の開発に着手した。コードネームは「フェニックス」(不死鳥)。はたしてソユーズの名を継ぐこのロケットによって、ロシアのロケット産業は、不死鳥のようによみがえることができるのだろうか。

  • 「ソユーズ5」ロケットの想像図

    「ソユーズ5」ロケットの想像図 (C) RKK Energiya

ソユーズ・ロケット

ソユーズ・ロケットというと、末広がりの独特な形状や、下から見たときの十字に並んだ複数のエンジン、そしてチューリップの花のような発射台が特徴的である。

そのルーツは、1950年代に開発された大陸間弾道ミサイル「R-7」で、のちに人工衛星や宇宙船を打ち上げる宇宙ロケットに転用。スプートニクや、世界初の有人宇宙船「ボストーク」などを打ち上げた。

その姿は1967年に世界に公表され、そのあまりに独特な形状に、西側の多くの研究者が驚いたという。その後もソ連の主力ロケットとして活躍し、そしてロシアとなった現在まで、ほとんど姿かたちが変わることなく、第一線で活躍し続けている。

さらに、かつての西側の国々の衛星を載せて打ち上げたり、欧州が輸入して南米から打ち上げたり、米国や日本の宇宙飛行士が搭乗したりと、その活躍する姿はすっかり世界でもおなじみとなっている。

もちろん、姿かたちがほとんど変わっていないとはいえ、その長い歴史の中で、何度も改良を重ねている。現在運用されているソユーズは「ソユーズ2」という形式で、原型と比べるとエンジンを改良したり、電子機器を近代化したりと、目立たないながらも進歩を遂げている。

とはいえ、設計の古さまでは変えようがなく、近年登場したロケットと比べると、生産のしやすさで劣り、またコストダウンの余地もないなど、商業打ち上げでは不利になる。とくに、スペースXの「ファルコン9」ロケットのような、ロケットの再使用というトレンドにはまったくついていけない。また、これ以上の性能向上の余地もなく、より大型の衛星や宇宙船を打ち上げることもできない。

ロシアがこれからも、宇宙への自律した輸送手段を確保し続けるためにも、R-7から続く改良型ではなく、まったく新しいソユーズの後継機が必要となった。

  • R-7を原型とする「ソユーズ」ロケット

    R-7を原型とする「ソユーズ」ロケット (C) NASA

ゼニートとアンガラーのつまずき

とはいえ、ソユーズ後継機の必要性は1970年代から認識されていた。それを受け、数々の新型ロケット案が生み出されたが、そのほとんどは実現することなく消えていった。

実現した数少ない例が、1985年に登場した「ゼニート」(Zenit)ロケットである。当初からミサイルではなく宇宙ロケットとして新規に設計され、打ち上げ施設も先進的な自動化技術を採用。そして新開発の強力な「RD-171」エンジンを搭載するなど、当時の最新技術を結集したロケットだった。

ソ連解体後もロシアの主力ロケットのひとつとして運用されたが、大きな問題があった。RD-171エンジンなど一部の部品こそロシア製だったが、ロケット全体の生産はウクライナ企業が行っていたため、"ロシアのロケット"ではなくなってしまったのである。

ロシア製でない以上、"自律した"宇宙への輸送手段とはいえない。それを裏付けるかのように、2014年に発生したクリミア危機によってロシアとウクライナの関係が悪化すると、生産や打ち上げが止まってしまう事態となった。

  • ソ連の最高技術を結集して開発された「ゼニート」ロケット

    1985年、ソ連の最高技術を結集して開発された「ゼニート」ロケット。しかしソ連解体後はウクライナのロケットとなり、さらにクリミア危機によってロシアとウクライナの関係悪化によって、生産や打ち上げが止まってしまった (C) Roskosmos

ところで、ロシアにはもうひとつ、1990年代から開発を進めていた「アンガラー」(Angara)というロケットがある。アンガラーは完全なるロシア製で、開発は遅れたものの、2014年に初打ち上げに成功している。

アンガラーは、ゼニートで使っているRD-171を4分の1に切り取ったような、同系統のエンジンを装備する。そのため、それ単体では小型ロケット程度の能力しかもたないものの、機体を3基、5基、あるいは7基合体させることで、中型ロケットにも大型ロケットにもできるという強みがある。こうしたロケットは「モジュラー・ロケット」といい、小型から大型まで、手軽に多種多様な能力のロケットを造ることが可能になるばかりでなく、大量生産によって低コスト化も図れる可能性がある。

当初ロシアは、アンガラーを、ソユーズやプロトンなどの旧型ロケット、そしてウクライナ製のゼニートに代わる、新たなロシアの主力ロケットとして運用することを考えていた。いまもその方針は、基本的には変わっていない。

しかし、アンガラーは工場移設の問題から生産が遅れており、本格的な運用開始の見通しは立っていない。また、これまで2回の試験打ち上げを行っているが、性能が想定より低いという問題を抱えているとも伝えられる。

加えて、モジュラー・ロケットというコンセプト自体は間違いではないものの、それを実現するためには、束ねたロケットの制御の問題から、何機ものロケットの生産や輸送をどうするかといった問題を解決する必要があり、机上ではともかく、実際に行うのは困難――少なくともロジスティクスなどの抜本的な改革が必要だといわれている。

また、ロシアのロケットをアンガラーに一本化すると、トラブルが起きたときに、ロシアからのすべてのロケットの打ち上げが止まってしまうというリスクもある。

さらに、ソユーズ・ロケットを製造する企業は「RKTsプログレス」、アンガラーを開発・製造する企業は「GKNPTsフルーニチェフ」と異なっており、競争という観点からアンガラーへの一本化は不公平で、また前述のリスクも考えると、2社による2種類のロケットがあるほうが望ましい。

  • 1990年代から開発されていた「アンガラー」ロケット

    ロシアの次期主力ロケットとして、1990年代から開発されていた「アンガラー」ロケット。しかしまだ本格運用には就いていない (C) Ministry of Defence of the Russian Federation

こうした、ソユーズ・ロケットの老朽化、米国をはじめとする新世代のロケットへの対抗、ゼニートやアンガラーのつまずきや、アンガラーへの一本化への懸念などといった、さまざまな事情から、ソユーズ・ロケットの製造企業による、ソユーズ・ロケット直系の後継機――「ソユーズ5」(Soyuz-5)、コードネーム「フェニックス」(Feniks)が開発されることになったのである。