ロシアの国営宇宙企業ロスコスモスは2020年4月9日、新世代のソユーズ・ロケットである「ソユーズ2.1a」による、初の有人打ち上げに成功した。

これによりロシアは、主力ロケットの近代化と脱ウクライナ化を達成。さらに、次世代の有人宇宙船とロケットの開発も進めているが、課題も多い。

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    ソユーズMS-16を載せて飛行するソユーズ2.1aロケット (C) NASA/GCTC/Andrey Shelepin

ソユーズMS-16

ソユーズ2.1aロケットは4月9日17時5分(現地時間14時5分)、「ソユーズMS-16」宇宙船を載せ、カザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約8分後に宇宙船を分離、所定の軌道に投入した。

宇宙船はその後、軌道を徐々に変えていき、打ち上げから約6時間後の9日23時13分に、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングした。

ソユーズMS-16には、国際宇宙ステーション(ISS)の第63次長期滞在クルーであるアナトーリ・イヴァニシン氏(ロスコスモス)、イヴァン・ヴァグナー氏(ロスコスモス)、クリストファー・キャシディ氏(NASA)の3人の宇宙飛行士が搭乗していた。

なお当初、ロシア側の2人の宇宙飛行士は、ニコライ・ティホノフ氏とアンドレイ・バブキン氏の2人が割り当てられていたが、ティホノフ氏が目に怪我をしたことで、バックアップ・クルーであったイヴァニシン氏、ヴァグナー氏と交代することになった。また、バックアップ・クルーにはスティーヴン・ボーウェン宇宙飛行士(NASA)も割り当てられていたが、NASAの宇宙飛行士に関しては交代は行われず、キャシディ氏が残留した。

今回の打ち上げでは、新型コロナウイルスの流行により、クルーの家族やメディア関係者は打ち上げを見守ることができず、打ち上げ前の伝統的な催しも中止、簡略化されるなど、やや寂しい旅立ちとなった。

ISSには、オレッグ・スクリポチカ氏(ロスコスモス)、ジェシカ・メイヤー氏(NASA)、アンドリュー・モーガン氏の3人の宇宙飛行士が滞在しており、今回打ち上げられた3人が合流し、ISSは6人体制での運用が始まった。なお、この3人は今月17日にソユーズMS-15で地球に帰還する予定となっている。

一方、今回打ち上げられた3人は、これから196日間にわたってISSに長期滞在し、今年10月22日に地球に帰還する予定となっている。滞在中、各種実験やメンテナンスを行うほか、予定どおりならば、米スペースXの「クルー・ドラゴン」宇宙船による初の有人での試験飛行を出迎えることにもなる。

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    国際宇宙ステーションにアプローチするソユーズMS-16 (C) NASA TV

ソユーズ2.1aロケットによる初の有人飛行

今回の打ち上げは、ソユーズ・ロケットの最新鋭機である「ソユーズ2.1a」による、初の有人飛行だった。

従来、ソユーズ宇宙船の打ち上げは「ソユーズFG」というロケットで行われていた。ソユーズFGは、世界初の大陸間弾道ミサイルであり、1957年に「スプートニク」を打ち上げた「R-7」から、基本的な構造などはそのままに、エンジンの改良などで打ち上げ能力を向上させたロケットである。初打ち上げは2001年におこなわれ、これまでにソユーズ宇宙船をはじめ、多数の衛星を打ち上げてきた。

一方、2006年からは「ソユーズ2」という新しいロケットがデビュー。ソユーズ2は、見た目は従来のソユーズ・ロケットとほとんど同じではあるものの、エンジンをさらに改良したり、電子機器を近代化したりし、より効率的な衛星打ち上げを可能にしており、目立たないながらも大幅な進歩を遂げている。

なにより重要なのは、ソユーズFGなどではウクライナ製の飛行制御システムを使っていたが、ソユーズ2では国産化に成功したことである。これまではウクライナから購入金額を釣り上げられたり、またウクライナ危機後には入手しにくくなったりといった問題があったが、これが解消され、宇宙へのアクセスの自律性を維持し続けることができるようになった。

なおソユーズ2には、1段目、2段目エンジンを改良し、電子機器を近代化したソユーズ2.1aのほか、3段目エンジンも改良して、打ち上げ能力をさらに高めた「ソユーズ2.1b」という機種もある。さらに、ソユーズ・ロケットの特徴でもある、2段目、3段目のコア機体に寄り添うように装着している4基の1段目機体を取っ払い、さらに2段目エンジンも換装し、もはやR-7とは似ても似つかなくなった「ソユーズ2.1v」という機種も存在する。また2.1aとbは、欧州のアリアンスペースにも輸出され、南米仏領ギアナからも打ち上げられている。

最近では、無人の衛星や探査機などの打ち上げはすべてソユーズ2で行われるようになった一方、有人飛行は信頼性がなによりも重要であることから、旧型のソユーズFGが使われ続けてきた。しかし、いよいよ世代交代することになり、2019年8月にまず無人のソユーズMS-14宇宙船を載せて打ち上げる試験を実施。主に緊急脱出システムの改修の検証などが行われ、その結果が良好だったことから、いよいよ今回から有人飛行が行われることになった。

これにより、ソユーズFGは引退となり、今後すべてのソユーズ宇宙船はソユーズ2.1aを使って打ち上げられる。また、これにともない、ソユーズFGなどの旧型ソユーズ・ロケット用の発射台だったバイコヌール宇宙基地の第1発射台、いわゆる「ガガーリン発射台」も、ソユーズ2シリーズの打ち上げに使えるよう改修する工事が始まっている。

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    ソユーズMS-16を載せたソユーズ2.1aロケットの打ち上げ (C) NASA/Victor Zelentsov