ServiceNowがITサービス管理からAIエージェント管理へとポジショニングを変えている。5月6〜8日、米ラスベガスで同社が開催した「Knowledge 2026」では、同社がAIの管制塔とする「AI Control Tower」の強化が大きく扱われた。会期中、ゼネラルバイスプレジデント兼AI製品担当プロダクトマネージャのNenshad Bardoliwalla氏に聞いた。

ITSMからAIエージェントの管理へ――貫く思想は?

初日の基調講演で、ServiceNowのCEO、Bill McDermott氏は2万5000人の顧客・パートナーを前に、22年前のServiceNow創業から話を始めた。

「Fred(創業者のFred Luddy氏)はかつてできなかったことを可能にするテクノロジーを人に届ける、これ以上の体験はないという信念のもとにServiceNowを創業した。この原点は、今も変わっていない」

その原点が、AI時代ではAIのガバナンスに通じるという。

  • ServiceNow CEO Bill McDermott氏

    ServiceNow CEO Bill McDermott氏

同社の製品は、AIのバリューチェーン全体を一つのプラットフォームで担うという構想のもとに設計されている。その骨格は「感知・決定・実行・保護」の4段階だ。

「感知」では、AWS・Google Cloud・Microsoft Azure・Anthropic・OpenAIを含む30以上のシステムに接続し、組織内のあらゆるAIモデル、エージェント、データセット、MCPサーバ、SaaSを自動で発見・カタログ化する。

「決定」では、「Context Engine」(ServiceNow AI Platformに対して組織の状態(コンテキスト)をリアルタイムで継続的に提供するエンジン)をはじめとするデータインテリジェンス機能が、誰が何を所有し、何がつながり、どのポリシーが適用されるかをリアルタイムで把握。年間1,000億件のワークフロー・7兆件のトランザクションから学習し、AIの判断精度を高め続ける。

「実行」では後述する「Autonomous Workforce」と新機能の「Action Fabric」が、エンドツーエンドで業務を完遂する。そして「保護」がAI Control Towerだ。

ServiceNowが狙うのは、AIを増やすことではなく、企業内に乱立するAIやエージェントを統制する基盤だ。

AI Control Towerは2025年のKnowledgeで発表したが、ServiceNowでプレジデント CPO兼COOを務めるAmit Zavery氏は、1年間での進化をこう表現した。「昨年のAI Control Towerは、組織内のAIに可視性を与えるものだった。今年はさらに一歩進め、あらゆるクラウドとエンタープライズシステムにわたって、エージェント、モデル、データセット、資産、アイデンティティのライフサイクル全体を統制する基盤になった」。

  • AIを保護する「AI Control Tower」

    AIを保護する「AI Control Tower」

これらの発表や戦略について、Bardoliwalla氏にインタビューを行った。

「AI社員」は人間の仕事をどう変えるのか

ServiceNow ゼネラルバイスプレジデント兼AI製品担当プロダクトマネージャ Nenshad Bardoliwalla氏

ServiceNow ゼネラルバイスプレジデント兼AI製品担当プロダクトマネージャ Nenshad Bardoliwalla氏

--ここ数年でのAI戦略の進化と、各段階での顧客へのメリットの変化を教えてください--

AI活用は、アシスタントによる業務支援から、ワークフローの部分自動化を経て、現在は「Autonomous Worker(AI社員)」による業務代行の段階に入りつつあるという。

従来は、人間がチケット管理や調査、対応を担い、その一部をAIが補助していた。しかし現在は、パスワードリセットやVPN再起動といった定型業務について、役割単位で自動化するアプローチに進化している。

「目的は、人間が本来得意とすることに集中できるよう時間を解放することだ」

一方で、Bardoliwalla氏は「すべてをエージェント型に置き換えようとするのは危険」とも指摘する。

エージェント型AIは強力だが、ハルシネーションや回答の不安定さを抱えており、それだけでは企業システムに適さないケースもあるためだ。

そのためServiceNowでは、既存のワークフローや承認ルール、ガードレールとAIを組み合わせる設計を採用する。たとえば銀行のように、監査や規制対応が求められる業界では、取引分類を完全にAIへ委ねることは難しい。

「人間の担当者が使っている既存プロセスを活かしながら、そこにAIを組み込む。それがServiceNowの考え方だ」

また、AIによる自動化が進んでも、人間の役割がなくなるわけではないとの見方も示した。

「過去を振り返っても、自動化の波が来るたびに新しい仕事が生まれてきた。人が人と関わりたいという欲求は、AI時代でも変わらないはずだ」

AI時代に必要なのは「エージェントの統制」

--AI Control Towerの導入ステップを教えてください--

まずモデルから始める。AI Control Towerは、ユーザーがモデルを使う際のプロンプトや応答をキャプチャし、品質を測定・観察することから始められる。次に、エージェントのインベントリ作成だ。ここで重要なのが、会社が把握している公認エージェントと、誰も把握していないシャドーITの未認可エージェントの両方があるということ。どちらも管理されていなければ、企業にとって大きな問題になる。

第3ステップはガバナンスだ。ServiceNowの歴史的な強みであるワークフロー管理を使い、AIのライフサイクル管理、リスク評価、コンプライアンスコントロールを可能にするワークフローを構築する。そして最終ステップが価値の測定である。現在、多くの企業が生成AIやLLM企業からの巨額の請求に直面している。CFOが具体的なROIを求めるのは当然であり、すべての支出を価値と結びつけられなければ、投資を続けることはできない

シャドーAIは“シャドーIT”より深刻になる

--シャドーAIは“シャドーIT”以上の脅威になりつつあるのか--

間違いなく深刻になっている。シャドーXXが本格的に広まったのは、人々が自分のスマートフォンやパソコンを持ち始めた頃だ。私もその一人で、スマートフォンからOutlookに接続しようとしていたのは単に便利だったからであり、悪意はなかった。

しかし今やその規模は桁違いに拡大している。店舗のカメラやセンサー、社員が持ち込む個人デバイス、工場や現場で動く機器——インターネットに接続されるものが爆発的に増え、AIが使われる場所も同様に広がっている。ITだけでなく、OT(運用技術)やIoTまで含めると、管理すべき対象領域は膨大になる。

AI Control Towerは「AIの管制塔」になれるか

--AI Control Towerの今後の強化領域はどこですか--

この領域は非常にダイナミックで、毎週新しいモデルやエージェントのアーキテクチャが出てくる。

第1の投資領域は、情報を取り込む方法のさらなる拡充だ。現在約30のコネクターを公開しているが、Armisの買収によりIT以外のサイバー情報やサイバーアセットを管理下に置く能力が生まれた。また、VEZAの買収では、人間・機械・AIエージェントにわたる詳細なアクセス情報と特権ID情報が加わる。

第2の重点領域が「キルスイッチ」だ。「このエージェントが正常に動作していない、シャットダウンしたい」という需要が増えている。そのためにはアプリケーション層だけでなく、多くの場合ネットワークインフラへのインテグレーションが必要だ。ある企業では、AIエージェントを監視していなかっために、わずか9秒でデータをすべて失った。キルスイッチやAI Control Tower、あるいは決定論的ワークフローがあれば、その事態は起きなかった可能性が高い。

--新しいエンタープライズAIエクスペリエンス「Otto」とはどのようなものか--

「Now Assist」という名称は、AIがアシスタントとして支援する段階には適していた。しかし現在は、AIが自律的にワークフローを実行し、エージェントとして動く時代になっている。

そのためServiceNowでは、Moveworksの技術統合も含め、新たなAIブランドとして「Otto」を打ち出した。

--PMを務めているが、プラットフォームの価値が機能の価格よりも成果にシフトする中、製品設計にどう影響しているのか--

プロダクト開発において重要なのは、機能の価値とお客様が得る成果を常に結びつけること。

例えば、ServiceNowのエージェント型ソリューションは、処理するステップ数に応じて価格が決まる。5ステップか、10ステップか、20ステップか——お客様の業務をより多く代替するほど、それに見合った対価をいただく仕組みだ。機能を作る理由は「かっこいいから」でも「競合がやっているから」でもない。お客様の成果に明確につながるから作る、それだけだ。