宇宙航空研究開発機構(JAXA)は5月8日、山川宏理事長が5月7日に在ベルリン・イタリア大使館にて、欧州宇宙機関(ESA)のヨーゼフ・アッシュバッハー長官との間で、地球防衛(プラネタリーディフェンス)分野における協力を強化・促進するための協力覚書(MOC)を締結し、併せて同MOCの下で地球接近小惑星「アポフィス」の探査計画「RAMSES(ラムセス)」に関する協力協定に署名したと発表した。
小惑星の多くは、火星と木星の間の小惑星帯に属しているが、太陽系誕生から約46億年という長い年月の間に、木星の強い重力摂動を受けて軌道が変化し、内側の軌道へと遷移したものも少なくない。太陽への最接近距離(近日点距離)が1.3天文単位(1天文単位=太陽~地球間の平均距離である約1億5000万km)以下の小天体は「NEO(地球接近天体/地球近傍天体)」と呼ばれ、そのうちで小惑星に限定したものは「NEA(地球接近小惑星)」と呼ばれる。
これら地球軌道の内側に入り込む天体は、二次元的な軌道図でみると地球軌道と交差しているため、将来的な衝突が不可避であるかのように捉えられがちだが、現実の三次元空間的においては、軌道が交差する地点でも高度が大きく離れている場合が多い。したがって、重力の影響などで軌道が大幅に変動しない限り、直ちに衝突するリスクはないとされている。
しかし中には衝突リスクが無視できず、万が一の衝突時に甚大な被害が想定される天体も多数存在し、これらは「PHA(潜在的に危険な小惑星)」として分類される。地球の公転面である「黄道面」を、小惑星などの小天体は必ず「昇交点」と「降交点」の2箇所で通過するが、そのいずれかが地球軌道に極めて近い場合、微かな軌道変化で衝突コースに転じる可能性があるため、国際的な警戒対象として監視が続けられている。
小天体とはいえ、その衝突エネルギーは膨大だ。約6600万年前には、推定直径約10kmの小惑星がメキシコ・ユカタン半島に落下し、恐竜を含む全生物種の約70%が絶滅したことが明らかにされている。こうした地球規模の災害を回避すべく、近年重要視されているのが「プラネタリーディフェンス」である。これは、地球に接近する小天体の早期発見と特性評価、精密な軌道計算による衝突確率の算出に加え、リスク発生時の回避・軽減策を検討・実行する国際的な取り組みを指す。
天体の地球衝突問題に取り組む「スペースガード」活動は1990年代から本格化し、2000年前後からは国連においても議論が進められ、現在の国際的なプラネタリーディフェンス体制へと発展してきた。国連は、発見当初に衝突の可能性が指摘された小惑星「アポフィス」が最接近する2029年を「小惑星認識と惑星防衛の国際年」に設定している。直径約375mのアポフィスは2029年4月13日、静止衛星軌道(高度約3万6000km)よりも内側の高度約3万2000km未満を通過するため、都市部でも肉眼で観測できる希有な機会になると予測され、さまざまな観測の準備が世界中で進められている。
恐竜絶滅頻度の衝突頻度は約1億年に1回とされるが、より小型の天体であっても衝突すれば被害は甚大だ。たとえば2013年、ロシアのチェリャビンスク州上空で爆発した天体は、直径約17m、質量約1万トンと推定される比較的小規模なものであったが、衝撃波により市街地に大きな被害が生じ、多数の負傷者も出た事象は記憶に新しい。
このような全人類共通の課題に対し、日本も「宇宙基本計画」の工程表においてプラネタリーディフェンスの水深を掲げている。こうした背景の下、JAXAとESAは2024年11月に署名した「将来大型協力に関する共同声明」に基づき、プラネタリーディフェンス分野で協力検討を加速させてきた。今回のMOC及び協力協定の締結により、両機関の連携はより強固なものへと進展することだろう。
ESAは、アポフィス探査を目的とした探査機「RAMSES」を、2028年に打ち上げる計画を推進中である。このミッションは、地球接近前からアポフィスにランデブー(接近・並走)し、地球重力の影響による軌道の変化や天体幸三への影響を詳細に調査することで、将来の地球防衛に不可欠な科学的・技術的な知見を得ることを目的としている。
小天体探査で高い実績を持つJAXAは、RAMSESに対して薄膜軽量太陽電池パドルや熱赤外センサなどの重要コンポーネントを提供し、さらにH3ロケットによる打ち上げを通じてミッションに深く参画する。このH3ロケットには、小惑星「フェートン」の探査を目指すJAXAの深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」が相乗りする計画だ。DESTINY+は、RAMSESに先んじてアポフィスをフライバイ観測して観測データを提供する予定であり、先行偵察的な役割を果たす連係プレーが予定されている。
なお、小惑星ベンヌのサンプルリターンに成功したNASAの探査機「OSIRIS-REx」も、ミッションを延長し「OSIRIS-APEX」と名称を変更。2029年6月にアポフィスを観測する予定となっており、1986年のハレー彗星探査以来の交際的な探査機群による共同観測を呈している。
JAXAは今後も、ESAをはじめとする海外宇宙機関や国際社会と連携し、プラネタリーディフェンスという人類共通の課題解決に積極的に貢献していくとしている。


