ソリッドステート・サーキットブレーカは、回路保護にとどまらず、人の安全確保にも貢献できるほか、リモート監視や遠隔からの監視・設定にも対応可能です。
サーキットブレーカは、過電流、過負荷、短絡(ショート)によって電気回路が損傷するのを防ぐための保護装置です。現在、事実上の標準となっている電磁機械式ブレーカ(EMB:Electro-Mechanical Breaker)は、2種類の独立したトリガ機構で構成されています。1つは過電流によって動作する応答の遅いバイメタル方式、もう1つは短絡時に動作する応答の速い電磁方式です。
EMBではトリップ電流があらかじめ規定されており、通常は固定値で設定されています。短絡に対しては瞬時動作(電磁トリップ)、過負荷に対しては遅延動作(熱/バイメタルトリップ)という特性を組み合わせることで、回路を安全に保護することができます。
EMBは構造がシンプルで高い信頼性を持つ一方、いくつかの欠点もあります。そのひとつが動作速度です。EMBの遮断動作はミリ秒オーダーで行われるため、その間に故障電流が流れ続け、機器に損傷を与えたり、場合によっては使用者に危害を及ぼしたりする可能性があります。
もうひとつの課題はアーク放電(アーク)の発生です。接点が開離する際にアークが発生し、そのエネルギーを安全に消散させる必要があるため、ブレーカには熱的および機械的なストレスが加わります。
機械式接点を半導体スイッチに置き換えることで、このアークの問題は解消されます。電流は物理的な接点が離れる前に電子的に遮断されるため、アークが発生しないからです。半導体スイッチはマイクロ秒オーダーで遮断可能であり、短絡時の最大電流を大幅に低減できます。
さらに、機械部品とは異なり、半導体デバイスは頻繁なオン・オフ動作を前提として設計されており、経時的な劣化がほとんどありません。これらの半導体スイッチを用いた保護装置は、ソリッドステート・サーキットブレーカ(SSCB)と呼ばれ、DC回路およびAC回路の双方の保護に広く利用されています。
ソリッドステート・サーキットブレーカの基本構成と特長
SSCBの利点は明確です。半導体は機械式部品に比べて高速かつ高い信頼性でスイッチングでき、摩耗がないため耐久性にも優れています。また、動作をより正確に制御できる点も特長です。故障時には、より高速に回路を遮断できることが重要ですが、半導体スイッチは機械式スイッチと比べて1000倍以上高速に動作します。
さらに、SSCBには制御用の電子回路が必要となるため、電流・電圧の監視や電流制限値の変更といった機能に加え、漏電遮断器(RCD)などの安全機能を容易に追加できます。
SSCBの中核となるのは、従来の電磁機械式リレーに代わる半導体スイッチです。SSCBは回路の電流と温度を監視し、それらのデータをマイクロコントローラ(MCU)に送ることで動作します。MCUは電流および温度を継続的に監視し、異常を検出するとマイクロ秒オーダーで保護遮断を実行します。トリップが発生すると、MCUはゲートドライバに指示を出し、半導体スイッチをオフにします。これら一連の処理は、EMBに比べてはるかに短時間で完了します。
安全性をさらに高めるため、半導体スイッチ遮断後に、物理的な絶縁を提供するオプションの機械式リレーを組み合わせる場合もあります。このリレーは半導体遮断後に動作するため、アークを発生させることなく、微小な漏れ電流のみを処理します。そのため、短絡電流に耐える定格は不要です。このリレーは、数百μAレベルの半導体の漏れ電流を遮断します。
さらに、SSCBは相線と中性線の両方に接続されているため、機械式サーキットブレーカとは異なり、回路を完全に切り離すことができます。
SSCBに用いられる半導体スイッチの技術分類
機械式スイッチを半導体スイッチに置き換えるという考え方自体は新しいものではありません。しかし長年にわたり、その実現を制約してきたのが半導体技術の成熟度でした。近年、ワイドバンドギャップ半導体技術の進展により、低電圧の住宅用および商業用電力ネットワークに適したソリッドステートデバイスが登場し始めています。
SSCBがマスマーケットで普及するうえでの制約要因の1つが、オン抵抗です。現在の半導体スイッチ、特にMOSFETは低オン抵抗化が進んでいるものの、それでも機械式接点と比較するとオン抵抗は依然として高いのが現状です。
こうした状況の中、過去数年でソリッドステート・サーキットブレーカの進化を牽引する技術として注目されているのが、SiCジャンクションFET(JFET)です。SiC JFETは、高い熱伝導率や高耐圧、低損失といったSiC材料の特性を活かしつつ、JFET構造の利点を兼ね備えています。JFETは、市場に存在するデバイスの中でも単位面積当たりのRDS(ON)が最も低く、MOSFETと同様に電圧制御で動作します。これは、MOSFETのような酸化膜ゲート構造ではなく、接合型ゲート構造を採用しているためです。その結果、電荷トラップが最小限に抑えられ、表面リークもほとんどない、損失の少ないドレイン-ソース電流経路が実現されます。
低オン抵抗という利点の一方で、JFETにはノーマリーオン(常時オン)特性という欠点があります。これは、ゲートがフローティング状態、あるいはゲート電圧が印加されていない場合に、デバイスが完全にオン状態になることを意味します。多くのアプリケーションや制御方式においては、故障時の安全性を考慮するとオフ状態が望ましいため、この特性は一般的に不利とされています。
この課題に対する解決策として、JFETをノーマリーオフのSi MOSFETと直列に接続し、Si MOSFETをSiC JFETのイネーブルとして機能させる構成が用いられます。これにより、JFET構造の利点を維持しつつ、ノーマリーオフ動作を実現できます。この構成はカスコード(cascode)と呼ばれ、適用範囲が広く、さまざまな用途で利用されています。
カスコードJFET(CJFET)は、柔軟なゲート駆動が可能でスイッチング損失も低いという特長を持っていますが、制御できるのは低耐圧Si MOSFET側のゲートのみであり、SSCB用途としてはスイッチング速度が速すぎるという課題があります。
もう一つの構成として、コンボJFET(combo JFET)があります。これは低耐圧MOSFETとJFETの両方を1パッケージに内蔵したデバイスです。カスコード構成との違いは、MOSFETとJFETそれぞれのゲートに独立してアクセスできる点にあり、これによりスイッチング時のdV/dtをより細かく制御できます。
さらに、この構成ではJFETのゲートをオーバードライブすることで、RDS(ON)を一層低減することも可能です。JFETはゲート電圧が0Vでも導通していますが、正のゲート電圧を印加することでチャネルの導電性が向上し、RDS(ON)が低下します。この特性は図3に示されています。
前述の通り、SSCBの普及を妨げる最大の制約要因は電力損失です。SSCBを住宅用途で使用するには、現在使われている機器との後方互換性を確保する必要がありますが、既存の分電盤や筐体には冷却のためのスペースに余裕がありません。機械式サーキットブレーカは、電流経路の抵抗が極めて低いため、損失も非常に小さく抑えられています。一方、SSCBにおける電力損失の要因は、FETのオン抵抗だけでなく、負荷電流に依存せずほぼ一定となる制御回路側の損失にもあります。
SSCBを交流回路の遮断に用いる場合、JFETはソースからドレイン方向にしか電圧を遮断できないため、バック・トゥ・バック構成が必要になります。これにより、実質的にチャネル抵抗が2倍となり、設計条件はさらに厳しくなります。そのため、総RDS(ON)を低減する目的で並列構成が採用されます。この点からも、並列動作を容易に実現できるコンボJFETが、SSCB用スイッチとして有力であることが分かります。
SSCBで故障が発生すると、電流は増加を始め、遮断されるまでの間、半導体を介して負荷に流れ続けます。ターンオフ時には電圧が急激に上昇し、過電圧によって電圧クランプ回路が動作して、MOSFETをアバランシェ破壊から保護します。この間、故障電流は完全に遮断されるまでクランプ回路を通じて負荷に流れ続けます。配線や誘導性負荷に起因するインダクタンスに蓄積された回路エネルギーは、このクランプ回路で吸収・消費されます。
検出時間が短く、電流の立ち上がりが抑えられ、処理すべきエネルギーが少なくなるほど、クランプ回路の小型化が可能になります。
電圧クランプ用デバイスとして最も一般的に用いられているのが、金属酸化物バリスタ(MOV)と過渡電圧抑制(TVS)ダイオードです。MOVは双方向性を持ち、コストが低く、電力密度が高いという利点がありますが、寿命が比較的短く、また電極間容量の影響により電圧制御性能には劣ります。
一方、TVSダイオードは単方向および双方向の両タイプがあり、容量が小さいため電圧クランプ特性に優れていますが、高電流対応品では占有スペースが大きくなり、コストも高くなる傾向があります。
SSCBの展望とSiC JFETが果たす役割
SSCBは、コスト増というトレードオフはあるものの、従来のサーキットブレーカに対して多くの機能拡張を提供します。回路保護にとどまらず、人の安全を確保する手段としても活用できるほか、リモート監視や遠隔からの監視・設定といった機能も実現可能です。さらに、繰り返し動作に対する耐性が高いため、トリップ頻度の高い環境において特に適しています。
onsemiは、非常に低いRDS(ON)を特長とするSiC JFETおよびSiCコンボJFETを提供しています。SSCBは市場への浸透が進みつつあるものの、高電圧・大電流条件における電力損失の課題により、本格的な普及にはまだ至っていません。しかし、SiC JFETやコンボJFETのようなデバイスは、こうした課題の解決に貢献し、ソリッドステート保護ソリューションという有望な技術の普及を加速させていくと期待されます。
本記事はonsemiが「Power Systems Design」に寄稿した記事「SiC JFETs are the Future of Solid-State Circuit Breakers」を翻訳・改編したものとなります


