名古屋大学(名大)は10月14日、未経験者でも漫才の実演を可能とする漫才実演支援システム「漫才カラオケ」を開発し、実際に聴衆から笑いを引き出せることを確認したと発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科の小松駿太大学院生、同・窪田智徳助教、同・小川浩平准教授らの研究チームによるもの。詳細は、東京都世田谷区の日本大学文理学部キャンパスで8月25日~27日に開催された「エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2025」の論文集に掲載された。
漫才ネタ特有の“間”や“抑揚”も表示
漫才は日本で人気の演芸だが、これまでその楽しみ方は主に「鑑賞」することだった。しかし、近年は「M-1グランプリ」におけるアマチュア参加者の増加に見られるように、自ら「笑いを取る」ことへの関心も高まりつつある。
加えて、漫才の実演はコミュニケーション能力の向上につながる可能性も指摘されている。だが一方で、漫才を演じて聴衆を笑わせることは、ネタの暗記に加え、笑いを引き出すための表現技術(間や抑揚、動作など)が求められるため、誰でも気軽にできるものではない。そこで研究チームは今回、未経験者でも漫才を演じ、聴衆の笑いを引き出せる漫才実演支援システムの開発を試みたという。
今回の研究では、漫才ネタの台詞や具体的な演じ方を提示することで、未経験者でも漫才実演を可能にするシステムが開発された。そして、実際に未経験者が漫才を実演できるのかが検証された。今回構築された“漫才カラオケ”は、ユーザであるツッコミ役とボケ役の両者に対し、以下の情報を画面上にリアルタイムに提示する仕組みだ。
- 台詞:発話する内容を、ツッコミ役・ボケ役に分けて提示
- 抑揚:台詞の音程を文字の縦位置(5段階)で提示
- 感情:喜怒哀楽の4種類を文字フォントや視覚エフェクト(怒りマークなど)で提示
- 動作:台詞と関連付いた主要な動作を動作カードで提示し、さらにすべての動作を背景の動作提示アバターの動画で提示
画面上では台詞や動作カードが右から左へ流れ、2人のユーザは、これらが画面左のタイミングバーに到達した時に発話や動作を行う。これにより、漫才特有の間で漫才を演じることが可能となる。
そして今回、漫才カラオケを用いた実験(参加者10人)が実施された。その結果、未経験者でも漫才を楽しく、かつ少ない負担で実演できることが確認されたとのこと。具体的には、「聴衆を笑わせることは気持ちよかった」、「自分が面白い人間であるかのような錯覚を覚えた」といった、漫才実演の楽しさを示唆するコメントも得られている。また漫才を鑑賞した聴衆からも、実演が「面白い」、「上手だ」と肯定的に評価され、実験中は実際に笑いも起きていたという。これらの結果から、漫才カラオケを用いることで、未経験者でも漫才を演じられ、聴衆の笑いを引き出せることが確認された。
今回の研究成果は、カラオケや飲み会などの場で、漫才を「演じて楽しむ」新しいエンタテインメントの創出につながる可能性を秘める。例えば、プロの漫才師のネタを演じる体験などの応用が考えられるとした。今後は、レクリエーション施設やカラオケ店へのコンテンツ導入に加え、コミュニケーション能力の向上を目的とした教育・研修プログラムへの応用も期待されるとしている。
さらに、漫才カラオケが将来的にカラオケ店などに導入されれば、カラオケで楽曲リクエストの都度、作曲者や作詞者に印税が支払われるように、漫才ネタの権利者に収益が還元される仕組みが生まれる可能性もあるという。また漫才以外にも、漫才カラオケのような非言語動作も提示する発話支援システムは、プレゼンテーション練習などへの応用も期待されるとした。
ただし、プロの漫才師など、第三者が創作したネタをシステムに用いる際には、著作者の権利を侵害しない範囲(論文中の実験は学術目的に限定して研究室内で実施)で利用するか、適切な権利処理を行う必要があるとのこと。さらに、漫才カラオケの応用を進める際には、文化的な側面での考察が不可欠だという。楽曲においては、他者の作品をカバーしたりカラオケで歌ったりすることは一般的だが、漫才において同様の文化は現状ほとんど見られない。漫才師や作家が、自身が創作したネタを他者が演じることをどう受け止めるかは未知数である。ネタの創作に多大な時間と労力が注がれているからこそ、既存のネタを用いた応用では、創作者の考えを無視してはならないとした。
研究チームは、今回の研究が漫才文化における新たな楽しみ方を提案し、その魅力をより高める一助となることを期待するとしている。

