東京科学大学(科学大)は10月6日、世界最小電圧の1.5V乾電池1本で発光するという、深青色有機ELの開発に成功したと発表した。
同成果は、科学大 総合研究院 フロンティア材料研究所のスイ・チンジュン大学院生、同・岩崎洋斗大学院生、同・中東大喜大学院生、同・真島豊教授、伊澤誠一郎准教授らの研究チームによるもの。詳細は、先端的な光学材料を扱う学術誌「Advanced Optical Materials」に掲載された。
高色純度青色発光の低電圧化に貢献
有機ELのうち、最もエネルギーを要する青色素子は、駆動電圧が3V以上と高く、長期動作安定性の低さも課題だ。特に、4K8K衛星放送やUltra HD Blu-rayなどで採用されている広色域の現行最新のディスプレイ規格「BT.2020」(「BT.2100」も含む)を満たす半値幅の狭い深青色は、2.5V以下での発光は実現が困難だった。
研究チームは、先行研究で2種類の有機分子の界面でアップコンバージョン過程を応用し、従来素子の約半分の電圧である1.5V以下での青色発光を実現している。このアップコンバージョンとは、エネルギーの低い励起状態から高い励起状態を作り出すプロセスのことだ。その一種に、2つの「三重項励起状態」を衝突させて1つのエネルギーの高い「一重項励起状態」を作り出す「三重項-三重項消滅」がある。なお、三重項とは、対となる2つの電子のスピンが平行で磁気情報が打ち消されない場合の状態を指し、一方、反平行で打ち消される場合を一重項と呼ぶ。
だが、最終的に光る蛍光ドーパントとして使用できる材料は、当時460nm付近にピーク波長を持ち、発光スペクトルが幅広い「ペリレン誘導体」に限られていた。そのため、1.5V以下で発光するアップコンバージョン有機EL(UC-OLED)では、青の中でも比較的エネルギーが低い水色発光しか達成できていなかった。そこで研究チームは今回、1.5Vでピーク波長450nm以下の深青色を発光できる有機ELの開発を目指したという。
今回の研究では、三重項-三重項消滅を起こす発光材料として、一般的な青色発光体「アントラセン誘導体」を採用、そして、それと界面を形成する電子輸送材料には「ナフタレンジイミド誘導体」が用いられた。さらに、このアントラセン誘導体がホスト材料として機能する発光層に種々の蛍光ドーパントを加え、そのUC-OLEDの駆動特性に与える影響が調べられた。
そこで、UC-OLEDに用いる蛍光ドーパントとして、有機ELデバイスにおいて狭線な純青色発光が得られる、多重共鳴効果を利用した「DABNA誘導体」が発光層中に添加された。しかし、発光開始電圧は2.5V以上まで上昇。これは、この誘導体が分子内に電子供与性の窒素原子を多く含むため、最高被占軌道(HOMO)準位が浅くなることによるという。その結果、有機ELデバイス中においてホールをトラップしやすくなってしまうのだ。発光層中でホールがトラップされると、UC-OLEDでは電子とホールの再結合が発光層と電子輸送層の界面に限られる性質上、電荷は再結合できずに発光層中に留まり続ける。これがホール輸送を阻害し、素子抵抗が上昇した理由だ。
このため、DABNA誘導体と同様に多重共鳴効果で狭線な青色発光が得られ、電子求引性のカルボニル基を多く持つことからHOMO準位が深い「QAO誘導体」が新たに合成された。そして、この誘導体を発光層中にドープしたUC-OLEDを作製した結果、1.5V付近から発光することが確認された。
さらに、その発光スペクトルは半値幅が20~30nm程度と、非常に狭線な青色発光が実現された。中でも、「TbCZ2CO」をUC-OLEDの蛍光ドーパントとして用いた場合は、発光ピーク波長447nm、半値幅20nmの深青色発光が得られたとする。この発光は、国際照明委員会の「1931 RGB色空間座標」が(0.148,0.07)であり、ディスプレイ規格BT.2020/2100の理想的な青色に近い値が実現された。実際、作製されたUC-OLEDは、1.5V乾電池1本だけで深青色発に発光することも確認された。
今回の研究成果を応用すれば、大画面テレビやスマートフォンで実用化されている青色有機EL素子の消費電力を大幅に低減できる可能性があるという。ただし、UC-OLEDの社会実装には、低電圧化と同時に発光効率の向上が不可欠だ。そのため研究チームは今後、今回発光色の制御を実現した蛍光ドーパント材料に加え、三重項-三重項消滅が起こる青色ホスト材料や、電子輸送を担う材料など、UC-OLEDに用いられる材料系を包括的に探索していくとする。これにより、発光効率の向上を実現し、従来の素子からの大幅な消費電力低減を目指すとしている。



