2025年のノーベル生理学・医学賞は、「末梢免疫寛容に関する発見」により、大阪大学の坂口志文氏のほか、Mary E. Brunkow氏、Fred Ramsdell氏の3名に授与すると、スウェーデンのカロリンスカ研究所が現地時間10月6日に発表。ヒト免疫システムの「制御性T細胞」を特定し、新たな研究分野の基盤を築いたことを受賞理由としてあげている。
末梢免疫寛容に関する発見は、現在臨床試験で評価されている潜在的な治療法の開発にもつながっており、自己免疫疾患の治療・治癒、より効果的ながん治療の提供、そして幹細胞移植後の重篤な合併症の予防などが期待されているという。
坂口志文氏は1951年生まれで、1976年に京都大学 医学部を卒業し、1983年に京都大学 医学博士号取得。現在は大阪大学 免疫学フロンティア研究センター特任教授に就いている。Mary E. Brunkow氏は米シアトル Institute for Systems Biologyのシニアプログラムマネージャー、Fred Ramsdell氏は米サンフランシスコにあるSonoma Biotherapeuticsの科学顧問を務めている。今回の賞金1,100万スウェーデン・クローナは、受賞者間で均等に分配される。
受賞理由の詳細
ヒトの免疫システムは、体内に侵入しようとする何千種類もの微生物から常に身体を保護している。これらの微生物はそれぞれ異なる外観をしており、その多くはカモフラージュとして、ヒト細胞との類似性を獲得している。免疫システムが攻撃・防御の対象をどのように判断しているか、かつてはその詳細が分かっていなかった。
坂口氏は1995年、末梢免疫寛容に関する基礎的発見における最初の重要な発見を成し遂げたが、「当時はまさに潮流に逆らうような状況だった」とのこと。多くの研究者は当時、免疫寛容は胸腺で「中枢性免疫寛容」と呼ばれるプロセスによって、潜在的に有害な免疫細胞が排除されることによってのみ発達すると考えていた。坂口氏は、免疫システムがより複雑であることを示し、自己免疫疾患から体を守る、これまで知られていなかった免疫細胞群を発見した。
2001年になって、Mary E. Brunkow氏とFred Ramsdell氏が別の重要な発見をした。彼らは、特定のマウス系統が自己免疫疾患に特にかかりやすい理由を説明し、このマウスの「Foxp3」と名付けた遺伝子に変異があることを突き止めた。さらにヒトにおける同等の遺伝子変異が、重篤な自己免疫疾患であるIPEXを引き起こすことも示した。
その2年後、坂口氏がこれらの知見を結びつけることに成功。坂口氏は、2人が見つけたFoxp3遺伝子が、自身が1995年に特定した細胞の発生を制御していることを証明した。
現在、「制御性T細胞」として知られるこれらの細胞は、他の免疫細胞を監視し、ヒトの免疫系が自身の組織を許容できるようにしていることが分かっている。
こうした末梢免疫寛容に関する基礎的発見により、坂口志文氏ら3名は2025年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。この発見は末梢寛容の分野を切り拓き、がんや自己免疫疾患の治療法開発を促進したとされ、移植の成功率向上につながる可能性もあるという。これらの治療法のいくつかは現在、臨床試験の段階にある。





