ソニーは、高密度LEDバックライトをR(赤)/G(緑)/B(青)の色ごとに個別制御できるRGB独立駆動パネルを採用し、大画面化にも適するという新たなディスプレイシステムを開発したと3月14日に発表。2025年中に量産開始し、家庭用テレビやコンテンツ制作用ディスプレイへの搭載拡大をめざす。
映画などの映像作品では、物語性のある表現を実現するために、「色彩」、「黒の表現」、「光の階調の細やかさ」が重要な要素となる。これらの要素を高めることで、クリエイターの意図を忠実に反映でき、映画制作や家庭での映画視聴に適した画質を提供できるのが、新たなディスプレイシステムだとアピールしている。
新たなディスプレイシステムで採用したパネルは、光の三原色であるRGBが独立して発光する仕組みになっており、「色の純度が高く、映像をより鮮やかに広色域で再現できる」とアピール。また、パネルの特性を最大限に引き出すために、ソニーが独自開発した最新のバックライト制御技術も搭載しており、「大画面でも画面の隅々まで繊細な色合いと光の濃淡を忠実に再現できる」とする。
主な特長は大きくふたつあり、ひとつはRGB独立駆動パネルを採用したことによる「広色域性能」。
現在市場に出回っている各社のミニLED液晶テレビは、微細な青色LEDを敷き詰めたバックライトに量子ドットシートを組み合わせ、青い光を波長変換することで緑色や赤色を作り出している。
これに対し、ソニーの新しいディスプレイシステムは前述のようにRGB各色が独立発光する仕組みのため、色純度が高いとアピールしており、デジタルシネマ向け規格のDCI-P3色域で99%以上、HDR映像などで知られるITU-R BT.2020色域では約90%の広色域をカバーするとのこと。
もうひとつが、新開発のバックライト制御技術で実現する独自の「高画質性能」。
その性能を引き出す要素は3つあり、ひとつは「カラーボリューム(色空間)の拡大による自然な映像表現」だという。
RGB各色が独立発光するときに、シーンに応じた最適な電力を各色に割り当てる機能を備えており、色の濃淡に応じた輝度調整を行うことで、「真っ青な空」や「真っ赤な紅葉」といった単色のシーンでも、明るくあざやかな映像を再現できるようにした。
さらに、ソニー製の業務用マスターモニターで実現している4,000cd平方メートル以上のピーク輝度を出せ、「ソニーのディスプレイ機器史上最高のカラーボリュームを実現する」としている。
ちなみに従来の高輝度テレビでは、夜景などの暗いシーンでは、星や月などの明るい部分に光を集中させてピーク輝度を高めるといった、明暗に合わせた輝度調整を行っているとのこと。
もうひとつの要素である、「広いダイナミックレンジと緻密な階調表現」も高画質性能に寄与している。
このディスプレイシステムは96ビットの高ビットレートで駆動するため、「漆黒とまばゆい白を同時に表現できる」だけでなく、「中間色の多いシーンでも明暗の違いを繊細に表現できる」とのこと。ソニーでは「既存の有機ELパネルでは技術的に難しい、明るさや彩度が控えめな色調を表現できる」としている。
また、高ビットレートでの信号処理により、細部まで精密に階調を制御できるため、「大画面でも斜めから見たときの色や明るさの変化が抑えられ、広い視野角も実現できる」とする。
なお、ソニーでは各方式のカラーボリュームの比較イメージを以下のように紹介している。
さらに、高画質性能を引き出す要素として、同システム専用の制御用プロセッサーによる正確な色再現も挙げる。
このプロセッサーでは、高密度に敷き詰めたLEDの、RGB各色の明るさを個別に制御。「明るい部分は白飛びせず色鮮やかに」、「暗い部分は黒つぶれさせない」というように、光の濃淡を繊細に描き出せるようにしている。また、従来のローカルディミング処理よりも処理能力を約2倍へと引き上げ、ピクセル補正技術なども装備。微細な色の違い、色ずれのない正確な色を再現できるとする。
こうしたシステムを実現するにあたり、ソニーがめざす次世代ディスプレイの方向性に賛同を得た各社と協業。制御用プロセッサーはSmart TVのSoC(Pentonic)開発供給に実績があるMediaTekと、LED部はSanan Optoelectronicsと、LED駆動ICはロームと、それぞれ共同開発したとのこと。
ソニーは2004年、世界初のRGB一括駆動LEDバックライト搭載液晶テレビを開発。それ以来、バックライト制御の精度向上に継続的に取り組み、LED素子の特性を熟知しており、新たなディスプレイシステムの開発においても、独自のバックライト制御技術がパネルの性能を最大限に引き出すことに寄与している。
色彩調整(カラーグレーディング)に用いる業務用マスターモニターや、リファレンスモニターとして活用される「BRAVIA」(ブラビア)を通じて、ソニーは長年にわたり映像制作現場を支援してきた。そこで得られた独自の経験と技術的な知見を活かし、新ディスプレイシステムの開発に至った。