imecと2022年に設立されたシリコンベース量子コンピューティングのスタートアップである豪Diraqは、シリコンプロセスを用いて製造されたシリコン量子コンピューティングチップ上で2つの量子ビット(キュービット)を扱う演算において、一貫して99%以上の忠実度を達成することが実証されたと発表した。
詳細はNatureに2025年9月24日付けで掲載された。この結果は、Diraqの量子ビットがシリコンベースで確実に製造できることを示しており、imecの製造技術が大規模シリコンベース量子コンピュータの開発に有望であることを裏付けているとimecは主張している。
DiraqのCEO兼創業者であるアンドリュー・ズラック氏は、「量子コンピューティングの実用規模を達成するには、高忠実度の量子ビットを大規模に製造するための商業的に実現可能な方法を見つけることが重要である。Diraqとimecの協力により、成熟した半導体産業を活用することでシリコンベースの量子コンピュータを構築できることが明確になった。これにより、忠実度を最大化しつつ、数百万個の量子ビットを搭載したチップをコスト効率よく実現できる道が開かれた」と述べている。
量子演算の忠実度をさらに向上させる余地も
量子演算の忠実度は、実際の演算が理想にどれだけ近いかを定量化し、大規模量子コンピュータを実現するための重要な指標となっている。理想的には、忠実度はすべての操作で99%を超える必要がある。
今回の研究では、複数のデバイスにて一連のシリコン量子ドットスピンキュービット操作、キュービットの状態準備と測定(SPAM)、およびキュービットに対して実行してその状態を制御しエンタングルメントを形成する1キュービットおよび2キュービットゲート操作(実用規模の量子コンピュータに必要な基本操作)について、忠実度が再現性のある形で測定された。SPAM操作では99.9%を超える忠実度が達成され、1キュービットおよび2キュービットゲート操作では系統的に99%を超える忠実度が示され、工業的に製造される量子ドットキュービットデバイスの量子エラー訂正が現実的な展望となったという。
また、論文ではランダムに選択されたデバイスを測定して、それぞれが二重量子ドット構造からなる2量子ビットデバイスのセットで再現性のあるデータを取得したことが示されたとする。さらに基板内の残留核スピンによる磁気ノイズ抑制のために量子ドット構造は同位体濃縮された28Si層上に製造されたともする。
なお、imecでは使用された手法と得られた知見は、シリコンチャネル層(28Si)の同位体濃縮をさらに進めることで、より高い忠実度を実現できるため、忠実度をさらに向上させる余地があることも示していると述べている。
