そして探索の結果、Ba2LuAlO5(以下「新物質」)が創製・発見された。新物質は結晶構造解析の結果、六方ペロブスカイト関連酸化物であることが判明。合成した試料は、乾燥酸素中、5%の水素を含む乾燥窒素中、あるいは湿潤空気中において400℃で24時間アニールしても分解しないことから、高い化学的安定性を持つことも確認されたとしている。

新物質を真空中で熱処理して作製した乾燥試料と、重水D2O中での熱処理で作製された湿潤試料「BaLuAlO4.52(OD)0.96」(以下「湿潤飼料」)についての結晶構造を調べた結果、どちらの飼料も六方ペロブスカイト関連酸化物であり、BaとOの立方最密充填BaO3(c)層と、本質的な酸素空孔を持つ六方最密充填h'層を含むことが確認されたという。

  • (a)新物質の乾燥試料と(b)湿潤試料の結晶構造。水素による中性子の非干渉性散乱を避けるために、重水素(D)に置換した試料が用いられた。(b)におけるOD距離が、ラマン散乱および赤外吸収スペクトルから見積もられたOH距離と一致していることから、これが妥当な結晶構造であると確認できたとする。

    (a)新物質の乾燥試料と(b)湿潤試料の結晶構造。水素による中性子の非干渉性散乱を避けるために、重水素(D)に置換した試料が用いられた。(b)におけるOD距離が、ラマン散乱および赤外吸収スペクトルから見積もられたOH距離と一致していることから、これが妥当な結晶構造であると確認できたとする。(c)著者ら、Springer Nature 2023(出所:東工大プレスリリースPDF)

一方でそれぞれの構造を比較すると、乾燥試料ではh'層がBaO層であるのに対し、湿潤試料ではh'層がBaO1.95層であり、水和がh'層で起こっていた。また、乾燥試料では水素原子が存在しないのに対し、湿潤試料では重水素D原子が存在していたという。

  • 直流四端子法で測定された新物質の電気伝導度σtotal。(a)σtotalの酸素分圧P(O2)依存性(σ(dry):乾燥雰囲気下、σ(H2O):H2O気流中)。(b)σ(H2O)とD2O気流中でのσtotalとの比。(c)σ(dry):乾燥窒素気流中におけるσtotal、σ(H2O):H2Oを飽和させた窒素気流中でのσtotalのアレニウスプロット。

    直流四端子法で測定された新物質の電気伝導度σtotal。(a)σtotalの酸素分圧P(O2)依存性(σ(dry):乾燥雰囲気下、σ(H2O):H2O気流中)。(b)σ(H2O)とD2O気流中でのσtotalとの比。(c)σ(dry):乾燥窒素気流中におけるσtotal、σ(H2O):H2Oを飽和させた窒素気流中でのσtotalのアレニウスプロット。(c)著者ら、Springer Nature 2023(出所:東工大プレスリリースPDF)

次に、新物質の電気伝導度の測定が行われた。新物質の電気伝導度が酸素分圧P(O2)に依存しない電解質領域では、電子伝導を無視することができる。乾燥雰囲気のイオン伝導度(酸化物イオン伝導度)に比べ、湿潤雰囲気でのイオン伝導度が高いこと、H2O気流中とD2O気流中での電気伝導度の比が理想値1.41に近いことから、湿潤雰囲気ではH+伝導が起こっていることが明らかにされた。

湿潤窒素気流中で測定した交流インピーダンスデータを用いて見積もられた新物質のバルク伝導度は、ほかのH+伝導体に比べて高く、世界最高のH+伝導度を示したという。その要因は、大量の本質的な酸素空孔が存在するため、水和量が高くて比較的H+濃度が高いこと、ならびにH+の拡散係数が高いことにあるとする。

  • (a)新物質と代表的なH+伝導体のH+伝導度σHの比較。(b)新物質と代表的なH+伝導体の拡散係数Dの比較。

    (a)新物質と代表的なH+伝導体のH+伝導度σHの比較。(b)新物質と代表的なH+伝導体の拡散係数Dの比較。(c) 著者ら、Springer Nature 2023(出所:東工大プレスリリースPDF)

新物質を電解質に用いたPCFCを作れば、現在実用化されている高分子燃料電池で使われている高価な白金が必要なくなる。また従来のセラミック固体電解質のYSZよりも動作温度を下げられ、耐熱材料が不要となるなどのメリットがあり、燃料電池製造の大幅な低コスト化が期待されるという。ほかにも、水素ポンプ、水素センサなどへの応用が見込まれ、今回の研究成果は、新しいクリーンエネルギー技術と持続可能な社会の実現に貢献することが期待されるとしている。

  • 第一原理分子動力学シミュレーションにより得られた新物質におけるH+の確率密度分布。(a)ではH+の確率密度分布のみを、(b)ではH+の確率密度分布に加えて水色のAlO4四面体と紫色のLuO6八面体が示されている。このH+の確率密度分布は、H+の分布と類似しており、結晶構造解析の結果と第一原理分子動力学計算の結果の妥当性が示唆されている。

    第一原理分子動力学シミュレーションにより得られた新物質におけるH+の確率密度分布。(a)ではH+の確率密度分布のみを、(b)ではH+の確率密度分布に加えて水色のAlO4四面体と紫色のLuO6八面体が示されている。このH+の確率密度分布は、H+の分布と類似しており、結晶構造解析の結果と第一原理分子動力学計算の結果の妥当性が示唆されている。(c) 著者ら、Springer Nature 2023(出所:東工大プレスリリースPDF)