山梨大学と早稲田大学(早大)の両者は5月19日、水素イオン(プロトン)を可逆的に取り込みながら酸化還元反応する有機化合物とプロトン伝導性の高分子薄膜を組み合わせることにより、繰り返し充放電することができる「全固体空気二次電池」を開発したことを共同で発表した。

  • 今回開発された全固体空気二次電池における、充放電反応の模式図。

    今回開発された全固体空気二次電池における、充放電反応の模式図。(出所:早大プレスリリースPDF)

同成果は、山梨大 クリーンエネルギー研究センター/早大 理工学術院の宮武健治教授、早大 理工学術院の小柳津研一教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、独国化学会の刊行する機関学術誌の国際版「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

現在、我々の生活を支えているリチウムイオン電池(LIB)においては、エネルギー容量をさらに増やすため、そして安全性をより高めるため、電解液を固体電解質に置き換えた全固体電池の開発が進む。しかしLIBは、リチウムやコバルトなどの希少金属を利用しているため、資源埋蔵量の問題などを抱えており、全固体LIBのさらに先として、それらを用いないポストLIBの開発も進む。

現在、複数のポストLIBの研究開発が日本でも進められており、正極活物質に空気中の酸素を使う空気二次電池は、ほかの二次電池と比べて著しく高い理論エネルギー密度を持つことが大きなメリットとされる。

これまでの空気二次電池は、負極活物質としてリチウムなどの金属、電解質として非水系の有機電解質溶液が主に用いられてきたため、負極活物質の劣化や電解液の漏れ出しなど、多くの課題を抱えているとする。固体電解質を用いた全固体空気電池も提案されているが、負極の課題は解決されていない。最近、負極活物質に酸化還元活性な有機化合物を用いた空気二次電池がいくつか開発されたが、高分子電解質膜との組み合わせによる全固体空気二次電池はこれまで存在していなかった。そこで研究チームは今回、有機化合物を用いた電極と固体電解質から成る空気二次電池の開発に挑戦したという。

今回の実験では、負極活物質として、プロトンを取り込みながら酸化還元活性を示す有機レドックス化合物「ジヒドロキシベンゾキノン(およびその重合体)」、電解質としてプロトン伝導性高分子薄膜(ナフィオン)、正極として白金触媒を含むガス拡散電極(活物質は酸素)を組み合わせた全固体空気二次電池の可能性が検討された。そして、原理の実証に成功したとする。

  • 今回開発された全固体空気二次電池の概念図。負極活物質にジヒドロキシベンゾキノンまたはその高分子体、電解質膜にプロトン伝導性高分子ナフィオンを用いることで、薄型で安全な全固体空気二次電池を構築できる。

    今回開発された全固体空気二次電池の概念図。負極活物質にジヒドロキシベンゾキノンまたはその高分子体、電解質膜にプロトン伝導性高分子ナフィオンを用いることで、薄型で安全な全固体空気二次電池を構築できる。(出所:早大プレスリリースPDF)

研究チームは、負極活物質であるジヒドロキシベンゾキノンの酸化還元反応を促進し、電解質膜との界面でのプロトン移動を円滑に進めるため、電子伝導性材料(カーボン粉末)とナフィオンを混合した負極構造を設計・構築。電流電位測定により負極での反応とその可逆性が確認されたのち、充放電・レート特性・サイクル特性の評価が行われた。さらに、ジヒドロキシベンゾキノンを高分子化したところ、負極活物質の利用率が40%以上向上し、全固体空気二次電池の容量も6倍以上向上することが見出されたという。

なお、今回開発された全固体空気二次電池は繰り返して充放電することができ、一定速度(放電レート15C)における発電で、30サイクル充放電が可能だとする。

  • 高分子化したジヒドロキシベンゾキノンを負極活物質に用いることにより、30回繰り返して安定に充放電できる(クーロン効率は充電容量に対する放電容量の比率)。

    高分子化したジヒドロキシベンゾキノンを負極活物質に用いることにより、30回繰り返して安定に充放電できる(クーロン効率は充電容量に対する放電容量の比率)。(出所:早大プレスリリースPDF)

この全固体空気二次電池は、安全な有機レドックス化合物とプロトン伝導性高分子薄膜が用いられており、これらの物質はそもそも水分が含まれた状態で用いられているため水や酸素で電極が劣化することが無く、極めて安全性に優れている。また、高分子化合物の特長を活かしたフレキシブルなデバイスにできる可能性もあるという。今後、構成材料の高性能化・最適化や耐久性などを改善することで、携帯電話や小型電子デバイスなどモバイル機器用電源としての応用が期待されるとする。

そして今後は、酸化還元電位がより卑(マイナス)な有機レドックス化合物を用いることにより電池電圧を高くしたり、負極中の活物質を安定化させてレート特性やサイクル特性を改善したりすることで、二次電池としての特性を一層向上させたいと考えているとしている。