東京工業大学(東工大)は6月7日、中低温域で世界最高のプロトン(H+)伝導度を示す、バリウム・ルテチウム・アルミニウムから成る六方ペロブスカイト関連酸化物の新物質「Ba2LuAlO5」を創製・発見し、中性子回折データを用いた結晶構造解析と、第一原理分子動力学シミュレーションにより、H+伝導機構を明らかにしたことを発表した。
同成果は、東工大 理学院 化学系の八島正知教授、同・森川里穂大学院生(研究当時)、同・村上泰斗特任助教(研究当時)、同・藤井孝太郎助教、東北大学 金属材料研究所の南部雄亮准教授、同・池田陽一助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の材料科学全般とその関連分野を含めたオープンアクセスジャーナル「Communications Materials」に掲載された。
イオン半径と酸化数が小さいH+は、拡散のエネルギー障壁が低く、酸化物イオンよりも低温で比較的高い電気伝導度を示す。そのため、H+伝導体を電解質として用いることで、従来の固体酸化物形燃料電池(SOFC)と比べ、H+伝導性セラミック燃料電池(PCFC)の作動温度を低くできると期待されている。
しかし、中低温域(300℃~600℃)で十分に高いH+伝導度を示す材料の報告は少なく、「AMO3ペロブスカイト型構造」など、特定の結晶構造の材料に集中しているという(A:比較的大きい陽イオン、M:比較的小さな陽イオン)。このことから、さらなる材料開発が必要とされている。
既存のH+伝導体は、ほぼすべてが母物質のままでは高い伝導度を示さない。一般的に高いH+伝導度の実現には、化学置換を行い、結晶構造内の酸素サイトに酸素空孔を導入する必要がある。しかし、化学置換は不純物相の増加や生成物の不安定化をもたらしやすく、高い安定性を示す高純度試料の合成が困難な場合もあるという。
今回の研究では、化学置換なしで水和とH+伝導を示すと期待される、本質的な酸素空孔を持ちバリウムと2種類の陽イオンから成り、酸素空孔を有する材料である組成「Ba2BMO5」(BとMは陽イオン)の新物質探索を行ったとする。