山形大学、トリニティーラボ、東京都立産業技術研究センター(都産技研)の3者は4月7日、山形大とトリニティーラボが共同開発した、ヒトが指でものに触れる時の自然でなめらかな動きを再現した「バイオミメティック触覚センシングシステム」を、都産技研の協力を得て上市したことを共同で発表した。

  • (左上)触覚センシングシステム。(左下2点)触覚センシングシステムのコンセプト。ヒトがものに触れた時の現象をそのまま再現。(右)触覚センシングシステムを利用した化粧品のトリートメント効果の評価。摩擦のパターンに皮膚の状態と手触りが現れる

    (左上)触覚センシングシステム。(左下2点)触覚センシングシステムのコンセプト。ヒトがものに触れた時の現象をそのまま再現。(右)触覚センシングシステムを利用した化粧品のトリートメント効果の評価。摩擦のパターンに皮膚の状態と手触りが現れる(出所:山形大プレスリリースPDF)

同成果は、山形大 学術研究院(化学・バイオ工学分野)の野々村美宗教授、トリニティーラボ、都産技研の共同研究チームによるもの。詳細は、5月17日から19日までパシフィコ横浜で開催予定の「第11回化粧品産業技術展(CITE Japan 2023)」、5月29日から31日まで国立オリンピック記念青少年総合センターで開催予定の「トライボロジー会議2023」にて出展される予定だ。

ヒトの指先では「さらさら」「べたべた」「しっとり」などさまざまな触感を感じとれるが、こうした多彩で繊細な質感をセンシングすることは容易ではなく、このことが塗り心地の良い化粧品、高級感を感じさせる自動車、現実世界とそっくりなバーチャルリアリティ(VR)などを開発する際の障害となっている。

そこで山形大とトリニティーラボの研究チームは2013年、バイオミメティック触覚センシングシステムを開発。同システムは、ヒトの指の構造・硬さ・表面物性を模倣した「指モデル接触子」を用い、自然でなめらかな動きを真似た正弦運動下において摩擦することで、ヒトがものに触れた時に皮膚表面で起こる現象を再現することが可能だ。

同システムを利用した複数の事例も発表されている。まず、化粧品・繊維などの多くの分野で重要視される質感である「しっとり感」「さらさら感」については、同システムを用いて、化粧用粉体、人工皮革など、12の物質の評価が実施された。その結果、滑り出しでぐっと摩擦力が高まりながらも、その後、一気に摩擦力が下がる特徴的な力学刺激が「湿り感」「なめらか感」を引き起こし、さらにはしっとり感としても感じられることが明らかにされた。

また、さらさら感に最も大きな影響を及ぼすのは摩擦抵抗の大きさであることや、「ぬくもり感」は単純な温かさに加えて、やわらかさが感じられた時に喚起されることが確認されたという。

そして、化粧品のトリートメント効果の評価も実施され、化粧品によって皮膚が潤ったり、トリートメントによって毛髪がなめらかになったりするケア効果について、同システムを用いることで評価できることも確認されたとする。具体的には、グリセリンなどによって潤い皮膚や毛髪がやわらかくなると摩擦係数は大きくなり、ワセリンや界面活性剤などの潤滑剤で被覆されると摩擦係数は小さくなり、プロファイルもなめらかになることが明らかにされた。

研究チームはその後10年間にわたって、さまざまなものを同システムで評価し、22報の学術論文として発表してきたとする。そしてその結果として、同システムを用いることで、化粧品・繊維・樹脂材料など多くの分野で有用であることが確認されたという。また産業界の研究者・技術者たちから、同システムの実用化を望む声が上がったことから、都産技研との共同研究により、触覚評価測定機「TL201Sf」として上市されることとなった。

さらに今回の上市にあたり、都産技研において、摩擦学の立場から装置の特性を解析すると同時に、繊維・塗料・樹脂材料の手触りの官能評価と摩擦パラメータの関係が解析された。その結果、なめらか感、すべり感、温冷感を解析するため、同システムが有用であることも確認されたとしている。

研究チームは今後、バイオミメティック触覚センシングシステムがさまざまな分野で活用され、手触りの良い繊維や塗り心地の良い化粧品、高級感を感じられる自動車用材料、よりリアルなVRシステムや触覚を感じるヒューマノイド型ロボットの開発につながること、また、あやふやなまま進められがちな触覚センシングの標準的な評価法となることを目指し、さらなる改良を進めていくとしている。