米国政府が、中国への半導体製造装置の輸出規制を自国のみならずオランダならびに日本にも要請していることを受け、オランダ政府が国家安全保障の観点から先端半導体技術に関する輸出規制を今後数か月以内に導入する方針を明らかにした。

蘭スフライネマッハー貿易相が3月8日付けの議会宛て書簡にて示したもので、「地政学的な状況を考慮し、安全保障のためには特定の半導体製造装置の輸出管理を拡大する必要がある」とし、夏前には新たな輸出規制を実施する意向を示した。規制相手や対象となる装置メーカーの名前は出していないが、「政府はArF液浸露光技術を最大限迅速に監視することが国家安全保障上必要と考えており、内閣は国家管理リストを導入する」と述べている。

ASMLが声明を発表

このオランダ政府の動きに対してASMLは即座に「Statement regarding additional export controls」と題した声明を発表。「オランダ政府が打ち出した新しい輸出規制は、液浸露光装置を含む先端半導体製造技術に焦点を当てている。この規制によりASMLは今後、先端の液浸露光装置に関する輸出許可を申請する必要が生ずることになる」と述べている。

ただし、自社の業績への影響については「今回の政府発表、同政府のライセンスポリシーに対する自社の予想、および現在の市場状況に基づいて、これらの措置が、公表されている2023年の財務見通し、ならびに長期シナリオに重大な影響を与えるとは予想していない」と述べている。

新たな輸出規制の範囲については、「追加の輸出規制はすべての液浸露光装置に関係するものではなく、『最先端』と呼ばれる範囲であり、まだASMLとしては、その正確な定義に関する情報を受け取っていない」としているが、同社では「Critical Immersion(EUVとの限界にある浸漬)」である「TWINSCAN NXT:2000i」およびそれ以降のモデルであるとの見方を示しているほか、主に成熟プロセスに重点を置いている(中国)顧客に対しては、そこまで高度ではない液浸露光装置が適していると判断しているとしており、すべてのArF液浸露光装置が規制の対象にはならないものとの希望的見解も述べている。

ASMLのEUV露光装置の中国向け販売自体は、すでに2019年の段階から輸出規制がかかっており、今回同社は「追加の輸出規制」という表現を使っている。

中国政府がオランダ政府に申し入れ

オランダ政府の動きを受け、中国外務省は9日、「中国とオランダ両国の正常な経済・貿易交流を行政手段を通じて制限にしようとするオランダ政府の方針に断固反対する」と述べ、オランダ政府側に方針撤回の申し入れを行ったことを明らかにしたほか、オランダ政府に規制強化を求めた米国政府に対しての批判も述べている。

一方の日本政府は、西村康稔経済産業相が9日、半導体の対中輸出規制について、安全保障の観点から輸出管理の不断の見直しが必要との認識を示す一方、半導体製造装置について現時点で何らかの方針を決定した事実はないと語っている。

ただし、これに先立つ3月5日、甘利明 衆議院議員(自民党半導体戦略推進議員連盟会長)が出演したテレビ番組にて、日蘭米の3国はすでに合意に達しており、日本も米蘭と歩調を合わせるものとの認識を示している。

なお、日蘭ともに輸出規制品目を追加する法整備を完了するまでに数カ月かかる可能性があるため、両政府とも対中輸出規制の合意を(すぐに)公表する予定はないと複数の欧米メディアが1月末ころに報じていた。