幅広い分野で米中対立が続く中、最近は半導体分野で対立が激しくなっている。

米バイデン政権は2022年10月、先端半導体の開発・生産に必要な技術が中国に流れ、軍民融合を掲げる習政権によってそれが軍事転用される恐れを警戒し、対中半導体輸出規制を強化することを発表した。そして、中国への流れを抑えるためには、先端半導体に必要な製造装置で世界をリードする日本やオランダの協力が必要なことから、2023年1月に岸田総理とオランダのルッテ首相が米国を訪問した際、バイデン大統領は両者に対して対中半導体輸出規制に賛同するよう要請した。これについて、対中規制に参加するべきだ、日本は日本で独自に対応するべきだと双方の意見が聞かれたが、結局日本はバイデン大統領の要請に応える形で規制に参加する方針を決定した。

一方、中国外務省は、「米国は一部の国と対中国でグループを作り、自由貿易を政治化、武器化している」と強く反発し、2月2日に行われた日中外相電話会談の際、中国側は日本に対して市場原理を擁護し、経済や貿易面の日中の結び付きを維持するよう自制を求めた。中国はオランダに対しても同様にサプライチェーンの安定を要請した。

以上のような、先端半導体を巡る米中の最近の動きの背景には何があるのだろうか?。

まず、米国には、中国にいつの日か国力で追い抜かれることへの危機感がある。米中は安全保障や軍事、サイバー空間や宇宙、経済やテクノロジーなど多方面で競争を繰り広げているが、今後米国が軍事面で中国に対して優勢を長期的に維持するには、ハイテク兵器の開発・製造に必要な先端半導体が欠かせない。中国は軍事力でも米国に接近し続けており、米国には中国が先端半導体を独自に開発、生産できるようになれば、インド太平洋で米軍が劣勢に立たされるようになると強い危機感がある。どうしても中国に先端半導体の技術を渡したくないという想いがあるのだ。

これは日本にも同じ想いがある。中国が先端半導体をフルに活用して軍の近代化を強化すれば、長期的には自衛隊が対処できなくなり、日本周辺の安全保障環境がいっそう厳しくなる恐れがある。そうなれば、岸田総理としても中国軍のハイテク化に繋がりかねない半導体製造装置の対中規制にはイエスと回答するしかない。

一方、中国側にも焦りがある。2022年秋、異例の習近平3期目がスタートしたが、習氏は共産党大会で中華民族の偉大な復興、中国式現代化、社会主義現代化強国を目指す方針を強調した。しかし、3年あまりにわたって敷かれたゼロコロナ政策によって国内経済は冷え込み、経済成長率は鈍化し、中国国民の習政権への不満や苛立ちはこれまで以上に強まっている。習氏は国民からの視線が厳しくなることを強く警戒しており、何としても高い経済成長をキープし、強い指導者、強い中国を示し続けなければならない。そうなれば、軍の近代化を何としても進める必要があり、そのためには先端半導体技術の獲得、先端半導体の国産化がマストとなる。今回、中国が日本やオランダに対して自制を呼び掛けた背景にはこれがある。

今まさに、先端半導体を巡って米中で獲得競争が激化しているが、双方にあるのは強い焦りなのである。