大阪大学(阪大)と京都大学(京大)の両者は2月21日、サルを用いた動物実験で、ある個体のiPS細胞から作製した軟骨を、膝関節軟骨を欠損した別の個体に移植した結果、関節軟骨が再生することを明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、阪大大学院 医学系研究科/同・大学院 生命機能研究科の阿部健吾特任研究員(京大大学院 医学研究科 整形外科学兼任)、同・妻木範行教授(阪大 WPI-PRIMe/京大 iPS細胞研究所 CiRA臨床応用研究部門兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

1度損傷した軟骨は、自然修復しないことが知られている。その理由は、軟骨には血管が通っていないため、修復反応が起きないからだ。そこで現在では、軟骨損傷に対する治療としては細胞移植手術などが行われる。ただしこれまでの細胞移植では、移植された細胞自身が修復組織を構成するのではなく、移植された細胞が分泌する因子によって、ホストの細胞が刺激を受けて修復組織を作るようになることがわかっている。ただし、ホスト細胞の修復能は限られているため、細胞治療では関節軟骨の再生に限界があったという。また、軟骨は移植しても拒絶反応が起きにくいとされるが、移植した同種軟骨が免疫拒絶される可能性について、詳細なことは不明だったとする。

軟骨は軟骨細胞と軟骨細胞外マトリックスで構成される組織だ。iPS細胞から軟骨細胞だけでなく軟骨組織までを作り、それを移植して関節軟骨を置き換える新しい再生治療方法を開発しているのが、研究チームだ。

今回の研究では、まず同種移植が可能かどうかを調べるため、ヒトと免疫系が似ているサルが用いられた。そして、同種iPS細胞由来軟骨を膝関節の軟骨内欠損に移植したという。その結果、少なくとも4か月の間は生着し、再生組織を直接構成していることが確認され、また免疫反応も起きていなかったとする。

  • サル膝関節軟骨内欠損に同種iPS細胞由来軟骨を移植後4か月。(a・左)移植しないと欠損部は線維組織で埋まり(黒角括弧)、周辺の軟骨は変性する(黒矢頭)。(a・右)移植物は生着し(赤角括弧)、周囲の軟骨変性は起きない(赤矢頭)。(b)関節の滑らかな動きを担うPRG4は移植物の中で、正常関節軟骨と同様に表層に発現する

    サル膝関節軟骨内欠損に同種iPS細胞由来軟骨を移植後4か月。(a・左)移植しないと欠損部は線維組織で埋まり(黒角括弧)、周辺の軟骨は変性する(黒矢頭)。(a・右)移植物は生着し(赤角括弧)、周囲の軟骨変性は起きない(赤矢頭)。(b)関節の滑らかな動きを担うPRG4は移植物の中で、正常関節軟骨と同様に表層に発現する(出所:阪大Webサイト)

続いて、移植後のiPS細胞由来軟骨を採取し、シングルセルRNAシーケンス解析が行われた。すると、関節軟骨表層で作られ、潤滑作用がある「PRG4」の発現が移植後に増加したことが発見されたという。さらなる解析の結果、移植後の関節運動が「SIK3」を介してPRG4を誘導することで、移植軟骨が関節軟骨として働いていることを示唆する結果を得たとする。

これらの結果により、同種移植の有効性、iPS細胞由来軟骨が生着して再生組織を直接構成すること、そして移植後に関節軟骨様に再構築される機序が示されたとしている。

関節軟骨損傷・変性は変形性関節症に進行し、関節痛と関節機能障害を起こしてしまうことが知られている。研究チームは今回の研究成果により、同種iPS細胞由来軟骨による関節軟骨損傷・変性の再生の有効性と作用機序が示されたとする。また今回の研究成果は、現在進行している同治療方法の臨床応用、実用化に向けた研究に貢献することが期待されるとした。