今回の研究では、直径1mmの二重格子PCSELを設計の対象として、以下の3種類の変数を同時に最適化することが試みられた。

  1. フォトニック結晶の格子点形状(より正確には、格子点形状と一対一に対応する結合係数κ1D2D-の実部と虚部)
  2. 光源面内のフォトニック結晶の発振周波数の空間分布
  3. 光源面内の注入電流分布

これらの各構造変数については、構造の作製可能性を考慮して、上限値と下限値を設定した上で離散化を行うことで、44個の量子ビットδi(1≦i≦44)で表現し、計244通りの候補の中から、最も高いレーザー性能が得られる構造が探索された。

構造最適化は、まず10組のランダムな構造変数の組に対して、光とキャリアの相互作用を考慮したPCSELの解析手法(時間領域3次元結合波理論)を用いて、レーザー特性の解析が行われ、各構造の性能指数Qが計算された。

量子アニーリングを繰り返し行うことで、性能指数が向上し、初期構造の3.7倍の性能が得られていることがわかったという。比較のため、古典的な離散最適化アルゴリズム(遺伝的アルゴリズム)により、最適構造を探索したところ、量子アニーリングを利用した場合は、古典的なアルゴリズムを採用した場合と比較して、少ない計算回数でより高い性能指数が得られたという。

  • 量子アニーリングによるPCSELの構造最適化の手法の概要

    量子アニーリングによるPCSELの構造最適化の手法の概要 (出所:京大プレスリリースPDF)

さらに、量子アニーリングによる最適構造について、光出力・ビーム品質・直線偏光比のそれぞれの値を別途計算したところ、従来設計(一様構造)と比較して、すべての性能が向上していることが確認され、PCSELの最適化問題に対する、量子アニーリングの有用性が示されたとする。

  • 量子アニーリングによるPCSELの構造最適化結果

    量子アニーリングによるPCSELの構造最適化結果 (出所:京大プレスリリースPDF)

今回の成果を受けて研究チームでは今後、今回設計された最適構造を実際に作製することで、レーザーの性能が確かに向上することを実験的にも確認していくことを考えているとしているほか、今回の研究では、44個の量子ビットを用いた比較的小規模な問題に対する適用だったが、今後、最適化する変数の数をさらに増やした、より大規模な問題に対する量子アニーリングの適用の可能性についても、明らかにしていくとしており、これらの検討を重ねて、ものづくり分野における量子アニーリングの有用性が実証されれば、量子技術を活用したスマート製造の実現に、将来的に貢献することが期待されるとしている。