開発に際しての課題は、配位高分子は有望な光触媒材料となりうる可能性があるものの、実際にはこれまでのところ配位高分子に可視光を吸収させ、配位高分子上で光触媒反応を駆動させることが困難となっているという点であったという。

そこで今回は、単体で可視光を吸収できる能力を持ちながら、これまでCO2変換の光触媒としては検討されてこなかった、硫黄と金属イオンの配位結合を構造内に有する配位高分子が注目された。

研究チームのメンバーである鎌倉特任助教や田中教授らが2021年に発表した研究では、光伝導性を持つ配位高分子[Pb(tadt)]nの構造・特性解析が行われている。同物質は、金属イオンとしての鉛の周囲に硫黄などの配位子が連結した基本ユニットが、硫黄の部分で無数に連結した構造を有する。今回、同配位高分子は、関西学院大で開発された9番目の配位高分子であることから「KGF-9」と命名された。

KGF-9は可視光を吸収し、白金を助触媒として担持し、可視光を照射した際にわずかながら水素が生成されるといった性質を持つ。そのことから今回の研究においては、CO2変換の光触媒候補としての可能性に注目したという。

まず水熱合成の手法を用いて、光触媒の候補物質である[Pb(tadt)]nの合成として、鉛イオンを含む水溶液に配位子であるH2tadtを含むアセトン溶液を加え、100℃で48時間加熱することにより、[Pb(tadt)]nの構造を持つ光触媒KGF-9が合成された。

  • 光触媒KGF-9のイメージイラスト

    銀(Ag)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)などの貴金属や希少金属を使用することなく、普遍元素の鉛(Pb)を用いた配位高分子を光触媒として利用し、CO2からギ酸への還元を行う、光触媒KGF-9のイメージイラスト。ACS Catalysisのカバーピクチャーに選出されたという (出所:関西学院大Webサイト)

KGF-9は、配位高分子は比較的大きな比表面積を有するものも少なくない中、比表面積が0.7m2/gと非常に小さいにも関わらず500nm程度までの可視光に応答して、CO2をギ酸に高選択的かつ高効率に変換できることが確認されたとする。

  • 今回の研究で注目された配位高分子の反応スキーム

    (a)今回の研究で注目された配位高分子の反応スキーム。(b・c)その構造。b軸からa軸方向に(b)、b軸からc軸方向に(c)、鉛(Pb・緑)と硫黄(S・黄色)の結合が2次元的に無限に連なっていることがわかる (出所:関西学院大Webサイト)

また、最適化した反応条件では、ギ酸の生成選択率は99%以上、見かけの量子収率は2.6%(照射波長400nmでの値)に達したとする。この値は、単一成分のみ、かつ貴金属・希少金属を含まない光触媒の中で、現時点において世界最高クラスの値であるという。

なお、今回の成果について研究チームでは、従来の光触媒と比べて資源的制約がはるかに少なく、コストも抑えながら人工光合成を行うことができることから、脱炭素化へ向けた基盤技術としての同光触媒の活用が期待されるとしている。