東京大学(東大)は4月21日、「FAPbI3」ナノ粒子を用いた光吸収層成膜技術による「順構造ワイドギャップ」セルと、高効率の「逆構造ナローギャップ」セルを、波長775nmのビームスプリッタで組み合わせた「スペクトル分割型2接合4端子太陽電池」により、オールペロブスカイト太陽電池として30.2%という極めて高い光エネルギー変換効率を安定して得ることに成功したと発表した。
同成果は、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻の瀬川浩司教授(現・東大 先端科学技術研究センター(RCAST)シニアリサーチフェロー)、RCASTの内田聡特任教授、同・張維娜特任研究員、東大大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻の伊藤蛍大学院生(研究当時)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する、化学全般を扱う完全オープンアクセスジャーナル「ACS Omega」に掲載された。
次世代の太陽電池の本命とされるペロブスカイト太陽電池は、曇天や室内の照明などの低照度でも高い発電効率を発揮でき、塗布プロセスによる低コスト製造が可能といった点に大きな特徴がある。軽量かつフレキシブルな特性を活かせば、従来のシリコン太陽電池では設置が困難だった壁面や電柱といった場所での発電も現実的となる。さらに、材料の選択肢が広く、透明性を確保でき、窓にも利用できる点も大きなメリットだ。一方で、湿気や光、熱に対する耐久性の低さや、環境問題が懸念される鉛の使用といった課題も残されている。
タンデム太陽電池は、太陽光スペクトルを各層で分担して吸収するため、エネルギー損失を最小限に抑えられる。この方式には、シリコン太陽電池などと組み合わせるハイブリッド型と、ペロブスカイト太陽電池同士を重ねるオールペロブスカイト型の2種類がある。後者は、デバイス全体を薄膜で構成できるため、軽量化の面で優位性が高い。
ペロブスカイト太陽電池には、電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の層があり、光入射側からこの順番で積層した「順構造型」と、その逆の順で積層する「逆構造型」が存在する。従来のオールペロブスカイトタンデムセルでは、逆構造のワイドギャップセルの上に逆構造のナローギャップセルを積層する方式が主流だったが、一度に13層ほどの薄膜を連続して成膜する必要があった。この工程の複雑さは、大面積化を困難にする上に歩留まりの低下要因にもなり、実用化の大きな壁となっていた。そこで研究チームは今回、順構造型と逆構造型を別々に作製して組み合わせる新手法の導入を検討したという。
今回の研究では、工業化に適した5層構造の順構造トップセルと、同じく5層の逆構造ボトムセルをそれぞれ独立して作製。このように個別にセルを仕上げることで、各工程での品質管理が容易になるため、全体の歩留まりを大幅に向上させることが可能となる。今回の研究では、両者を積層しての貼り合わせは行わず、波長775nmのビームスプリッタを用いて機能的に組み合わせられた。
多接合型太陽電池には、全層を積層して正極と負極から電気を取り出す「2端子型」と、ワイドギャップセルとナローギャップセルのそれぞれから電力を取り出す「4端子型」があるが、今回は貼り合わせていないため後者となっている。さらに、ワイドギャップセルからの透過光をナローギャップセルで吸収させるタンデム型ではなく、ビームスプリッタを用いて波長ごとに光を分ける「スペクトル分割型」が採用された。この構成により、変換効率30.2%という画期的な数値が達成された。
また、ワイドギャップセルを担う順構造ペロブスカイト太陽電池の高性能化に向け、「FAPbI3」ナノ粒子の活用が鍵となった。ペロブスカイトはABX3の結晶構造を持ち、Aサイトには有機カチオン、Bサイトには金属、Xサイトにはハロゲンを配置する。今回のFAPbI3において、Aサイトを占めるのは「ホルムアミジニウム」という有機カチオンである。
従来、FAPbI3は結晶成長の制御が極めて難しく、均一で高品質なペロブスカイト薄膜を得ることが困難とされていた。しかし研究チームは、「ホットインジェクション法」によりあらかじめFAPbI3ナノ粒子を合成し、これを原料とする「2ステップ法」で成膜を行う独自技術を確立。これにより膜の結晶性が大きく改善され、順構造ワイドギャップセルの高効率化につながった。
今回の研究では、ビームスプリッタを用いた光学系を介したシステムだが、研究チームは今後、2つのセルの貼り合わせ技術を高度化することで、実用的なモジュールサイズでの高効率デバイスの実現を目指すとする。将来的には、安価で大面積の多接合型ペロブスカイト太陽電池の実現が期待できるとしている。


